♡ 018 ♡
広香は台所で米を研ぎ、炊飯器のボタンを押した。
「ご飯炊いてる間にお風呂入ろう。タオルも服も貸すし、嫌じゃなければ下着も貸すよ」
「ほんと? ありがとう」
みなもを脱衣所に案内して、空いた時間で冷蔵庫にある食材を使い野菜炒めを作った。料理をするのは久しぶりだった。一人きりではとてもやる気になれなかったけれど、彼女のために料理をするのは楽しかった。
脱衣所にタオルや寝巻きを一式置きに行き、リビングのソファに座ってみなもを待った。
ドライヤーの音が切れて、みなもがリビングに戻ってきた。温まってふやふやで制服じゃないみなもは、守っていないと崩れてしまいそうな可憐さを孕んでいた。
「広香ちゃん、お風呂ありがとう!」
「どういたしまして」
「なんか美味しそうな匂いする」
「さっきおかず作ったから。簡単なのだけど」
「何から何まで本当にありがとう」
みなもは泣きそうな顔をする。この子の純真さが眩しい。
「いいんだよ。わたしもお風呂入ってきちゃうね。ゆっくりしてて」
みなもをソファーに座らせて、広香も脱衣所に向かった。
入浴を済ませて二人でご飯をたべた。美味しい美味しいと言って食べてくれるみなもと並んで、何年か振りの賑やかな食卓を終えた。それから洗面台で一緒に歯磨きをして、広香の部屋に戻ってきた。
「来客用の布団とかないから、わたしはリビングのソファで寝るね」
広香がそう言うと、
「やだ、一緒に寝ようよ」
とみなもは頰を膨らませた。その仕草が可愛くて、広香は思わず笑いを漏らしてしまった。
「じゃあ狭いかもしれないけど、一緒に布団入ろうか」
「うん!」
満足気に頷いて、みなもはにこにこになった。子犬みたいな笑顔が愛おしかった。
壁側にみなもを寝かせて、広香も隣に入る。毛布と羽毛布団に顎まで潜り込んだ。
「なんだかわくわくして目が冴えちゃう」
「そうだね」
みなもは広香の方に転がって、仰向けの横顔を眺めた。
「昨日と今日、本当に楽しくてたった二日だと思えない」
「確かにそれくらいの密度があったね」
いつも一人で眠っているベッドに、可愛いクラスメイトが一緒に寝転んでいる。なんとも不思議な感じがして心臓が大きく脈打っていたけれど、落ち着かないわけじゃない。温かくて特別な時間が流れていた。
「わたし広香ちゃんとこうして一緒にいられるようになって、明日も学校に行くのが楽しみになった」
「そうなの?」
広香もみなもの方に顔を向け、暗闇に小さく輝くその瞳を見つめる。
「広香ちゃんに話しかけるまでは毎日つまらなかったんだ。なんとなく授業を受けて、なんとなく一緒にいる友達とくっついて回って。なんの目的もなくて、景色が灰色に見えてた」
黙ってみなもの言葉に耳を傾ける。みなもは体を仰向けに戻し、天井を見上げた。
「でもこの二日間で目的ができたの」
その可愛い唇が、次の言葉をそうっとこぼした。
「広香ちゃんに会いに行くこと」
心臓が一層大きく跳ね上がった。みなもはゆっくり広香の方を見て、顔を綻ばせる。
「広香ちゃんはわたしの世界に色をつけてくれたの」
夢の中にいるような心地がして、それからあの感覚が舌の上に蘇った。小さく硬い、甘い何かが転がっている。みずみずしく、弾けるように甘酸っぱい。
「百瀬さん」
広香が呼びかけると、
「みなもって呼んで」と遮られる。
「みなも」
その三文字を発すると、舌がもっと甘くなった。
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