♡ 016 ♡
部屋の中で白い星が点滅する。弱く輝くものと強く輝くものがさまざまに混ざり合い、紺色の部屋に浮かび上がる。
時々流星が強い光を放ち、素早く視界を横切った。広香の青白い指が軽快に踊り、その旋律は部屋を夜空で埋め尽くす。
広香は深く息を吸い込むと、呟くように歌い始めた。笛のように心地の良く、空気を含んだ声が鳴る。それに合わせて、温かい炎のようなオレンジ色の星が、空を点々と飾り付けた。
みなもはその繊細な音色に耳を凝らす。身体の奥まで滑り込むような広香の声に、みなもは思わず自らの胴体を抱きしめた。
六面体は消えた。そこには無数の星が広がり、二人と広香の音楽だけが存在する。
やがて歌声は徐々に大きくなり、力強く感情を放った。心臓を掴まれたようにみなもはその場を動くことができない。
激しく燃える火球が流れ、星空はゆっくりと二人を包んで周回する。
美しい曲の中でみなもは凍りついたように目を見張り、その行く末を静かに見守った。
気づくと足元には柔らかく風に揺れる草原がある。薄黄緑色に輝き、遥か遠くに地平線が現れた。
空は朝焼けの赤。星の光はか細くなったけれど、健気に点滅を繰り返している。
歌声が止み、白く丸い太陽が昇る。
アルペジオの余韻が残る部屋で広香は立ち上がり、ギターをスタンドに戻す。
そして部屋の電気をつけた。
「聞いてくれてありがとう」
そう言って広香は再びみなもの横に腰掛ける。
「すごく好きな曲だった。昨日の曲は海を感じたけど、今日は星空だった。どっちも知らない曲だったけど、もしかして広香ちゃんが作ったの?」
みなもが興奮気味にそう聞くと、広香は頷いて答えた。
「そうだよ。作曲してるんだ」
広香は薄く微笑みを浮かべ、両手を膝の上で組んだ。
「すごい、すごい! 伝えたいことがいっぱいあるのに、うまく言葉にできなくてごめん」
みなもは溢れ続ける感情を押し留めるように、丸めた両手で胸を抑えていた。
「大丈夫。ものすごく嬉しいよ。作った曲を初めて聞いてくれたのが百瀬さんでよかった」
みなもはその言葉に驚き、
「そんな大事な役目をもらっちゃったんだ」
としみじみ呟いていた。広香は心底、みなものことを愛おしいと思った。
曲を聞いてくれたからとか、褒めてくれたからとかそんな利己的な話じゃなくて、もっと本質的な部分で彼女に魅力を感じた。
みなもの生きてきた軌跡や頭の中にある世界を知ってみたくなった。
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