♡ 013 ♡
広香はもったいなくて最後まで食べられなかったタコさんウインナーと見つめ合っていた。不思議そうにみなもが覗き込み、
「食べないの?」と首を傾げる。
「食べるけど、可愛くてもったいなくなっちゃって」
そんな可愛いことを言う広香に、みなもは胸を撃ち抜かれてしまった。居ても立っても居られなくなり、
「広香ちゃんの方が可愛いよ!」
ぎゅっと目をつぶってそう絞り出した。
「ええ? なんでわたし?」
広香は不意を打たれて混乱する。
「広香ちゃんのこと、すごい大人しくて静かな子だと思ってたけど、ギターが上手くてかっこよかったり、ニコッて笑った顔が可愛かったり、可愛いおかずだからって最後まで取っておいて食べられなくなったり」
みなもは広香に対して溜め込んでいた思いを躊躇いなくそのままに吐き出した。
「昨日と今日で広香ちゃんのこと、すごく好きになっちゃったの!」
そよ風が二人に優しく触れた。広香はみなもがくれた言葉から逃げるように、意識の焦点を彼女の奥にあるフェンスに飛ばした。
変に構えてしまったせいで、無難な言葉が選べなくなってしまった。
今みなもに言われた「好き」は女子高生が友達に使う当たり前の「好き」であり、特段友情以外の意味合いは含まれていない。頭ではそう理解できているはずなのに、言語野でトラブルが起きて末端器官への指示が滞っているみたいだった。
秋終盤の乾いた空が送る風が二人の隙間を流れ、
その反応を見て広香の混乱は増し、舌はさらに硬直した。
その時昼休み終了を告げるチャイムが鳴り、
「広香ちゃん、はやく食べて行こう!」とみなもが沈黙を断ち切った。
真っ赤な頬のままみなもは弁当箱を片し、広香もそれにつられるように急いでタコさんウインナーを口に放り込む。そして慌ただしく二人揃って屋上を出た。
「百瀬さん、おかず分けてくれてありがとうね。すごく嬉しかった」
広香は、ようやく解けた舌でそう伝えた。
「全然いいんだよ。喜んでくれてわたしも嬉しい」
隣でみなもの
愛らしい彼女の顔貌と金木犀の香りが絡み合って、広香の記憶に焼き付いた。
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