♡ 012 ♡
ひんやり冷たいコンクリートの上で、二人は弁当箱を開けた。
空は清々しい快晴で、これから冬に向かう空気の冷たさが心地良かった。
「広香ちゃんと一緒にお昼を過ごせるなんて、すごく嬉しい」
「ありがとう」
みなもの正直さに、広香は少し照れながら答える。ここまで真正面から自分の存在を肯定してもらったのはいつぶりだろう。
「いただきます」と一緒に手を合わせて、広香は味気のない弁当をつつき始める。みなもの手元にあるそれはおそらく母親手製のしっかりした弁当だった。彩り豊かで見栄えが良く、タコさんウインナーには黒胡麻の目がついている。
「可愛いお弁当だね」と伝えると、
「お母さんが作ってくれてるの。タコさんウインナーひとつあげるよ」
みなもが可愛いおかずを分けてくれた。
「えっ、いいの? ありがとう」
じわっと胸から熱が広がっていき、涙が滲みそうな気がして慌ててそれを引っ込めた。
自分で詰めた白米の上に、可愛い目をしたタコさんウインナーがちょこんと乗った。
「広香ちゃんは、お弁当自分で作ってるの?」
「作ってるってほどじゃないよ。ただごはん詰めて、レンチンした冷食敷き詰めてるだけ」
みなもは感心した顔で、
「立派だよ。自分でお弁当作ってるなんてすごいことだよ。わたしならできない」と大袈裟に褒めてくれた。
——ただ仕方がないからそうしているだけだけどなあ。
そう心の中を過ったけれど、捻くれても仕方がないので「ありがとね」と返した。
家庭教育の一環で子本人に弁当を作らせる親も中にはいる。しかし、広香の家はそういう訳ではなかった。
両親は共に仕事が忙しく、ほぼ毎日夜遅くまで残業しているから、弁当を用意することにまで手が回っていないのだと思う。毎月生活費として一万円渡され、そこから食費や雑費を賄っていた。
学年を重ねるに連れ、周囲の家庭環境と掛け離れていることに気づき始めたが、それについて別に嫌だとも好きだとも思ったことはなかった。
夕飯は冷蔵庫にある食材を使って適当に食べていた。面倒な時は塩握りだけ、あるいは何も食べずに寝てしまうこともあった。
中学生の頃は給食があったので昼は助かっていたけれど、そんな生活はその頃からずっと続いている。
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