♡ 011 ♡
午前の授業が終わると、広香はいつも一緒にいるクラスメイトに昼休みは席を外すことを話した。
「玲奈、今日わたし広香ちゃんとお昼行ってくる」
「え、なんで?」
玲奈は表情を歪ませてみなもを見つめる。
一緒にいる四人も、眉を顰めて「なんで急に?」とか、「なんで広香と」とかひそひそ言いながら口元を隠している。
「昨日仲良くなったの」
きっぱりとした口調で、みなもは玲奈を見つめ返した。
「まさか、広香からなんか聞いたの」
玲奈はその目に焦りを覗かせて語気を強めた。
「何も聞いてないけど」
みなもが変わらぬ態度で答えると、しばらく沈黙してから玲奈がゆっくり口を開いた。
「……ふうん。別に、好きにしていいよ」
みなもは玲奈からも広香からも何も聞かされていないのに、みんなは何か知っている風だった。ただなんとなく声をかけたらなんとなくくっついてきてただけの、言わばちょっとしたアクセサリーのような存在に何かを話すわけもなかったんだ。しかし、みなもはその何かを知りたいとは思わなかった。
「じゃあ、行ってくるね」
そう告げてその場を去ったけれど、誰からも返事はなかった。これで群れでの生活が終わってしまったんだと悟った。でもこの終わりは、みなもが探していたときめく生活の始まりでもあった。
仲が良かったわけでもなかったし、友達と思われていたわけでもなかった。そこには友情も愛情も何もなかった。けれど、みなもは新たに特別な絆を感じていた。広香と繋がっていることを確信していた。優しくて温かくて、海のように輝いて、柔らかい布で大切に包んで守りたい宝石が、この手の中に確かに存在している。みなもは今にも広香を抱きしめたくてたまらなかった。
屋上へ向かうことがバレないように、背後に気をつけながら広香の元へ向かった。
階段を登り、きんと冷たい鉄のドアノブを握りしめ、左に回した。普段なら鍵がかかっているはずなのに、いとも簡単に開いてしまった。誰かに感づかれないようにそうっと、軋むドアを押した。
音を立てないようにドアを閉めて、屋上の景色を見渡した。
給水塔のそばに広香が膝を倒して座っているのが見えた。授業中も頭から離れなかった広香が目の前にいる。
嬉しさがはち切れて、まっしぐらに走り出した。
飛びつきたい気持ちを必死に抑えて大人しく彼女の隣座る。
「屋上ほんとに入れちゃった!」
みなもの目には抑えきれない喜びが滲み、きらきら潤んでいた。
「百瀬さんを共犯にさせちゃったな」
ふふ、と笑いながら広香はみなもを見つめた。愛おしそうに、優しい目で。
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