♡ 010 ♡
朝のホームルームが終わり、小休憩の間みなもは席を立つと、迷わず広香の元へ駆け寄った。
「広香ちゃん、おはよう!」
みなもに気づいた広香が、驚いて目を見開く。そして照れくさそうな微笑みを浮かべ、
「百瀬さんおはよう」と返した。
その一言で胸の奥が、たまらなく満たされた。
「昨日はお邪魔させてくれてありがとう。とっても楽しかった」
みなもは広香の机の正面から両手をつき、身を乗り出して伝えた。
「こちらこそありがとう。私もすごく楽しかった」
にっこり笑って広香もそう返した。
みなもは昨晩広香にもらったタクシー代のことを母親に話し、怒られながらもお金を受け取ってきた。
胸ポケットにそれを忍ばせているけれど、広香と関わるための口実を一つでも多く蓄えておきたくてなかなか言い出せない。その葛藤に間髪入れず「早く返しなさいよ、その子困ってるんだから」と怒気の籠った母親の声に急かされる。「お昼休みにはちゃんと返すよ」とみなもは心の中の母親に向けて言い返した。
「広香ちゃん、いつもお昼どこで食べてるの?」
早速約束を取り付けるために聞いてみる。
「屋上だよ」
広香の回答にびっくりして、
「屋上って入れるの!?」
とみなもは小声で叫んだ。確か屋上は立ち入り禁止だったはずなのに。
「秘密にしといてね」
同じく小声で言う広香に、こくこくと小さく頷いた。
「もし迷惑じゃなかったら一緒にお弁当食べない?」
みなもの提案に広香は一瞬驚いたような顔をしたけれど、すぐに「もちろんいいよ」と頷いた。
「百瀬さんいつも一緒にいる子たちはいいの?」
広香が問うと、
「あのグループからわたし一人いなくなったところで何も変わらないと思う!」
みなもはあっけらかんと答えた。何も変わらないなんていうのは真っ赤な嘘で、ただの一日離れただけでも人間関係は拗れて、群れには近づけなくなる。
広香は切ないような困ったような顔でうーんと唸っていた。何が起こるかは広香にも分かっていた。変化に対応できない群れの動きを、身をもって体験したからだ。
みなものことを第一に考えるとすれば断るのが筋だけれど、やっぱりやめようの一言がどうしても口から出てこなかった。鍵がかかっているみたいに。
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