第2話 梅雨明けの第一歩

「それじゃあ、また明日~」


教室内のクラスメイト達に別れを告げる。


「今日も練習!頑張るぞー!」


6月のどんよりとした雲の下、赤い帽子を被


り直し、小さくガッツポーズして気合いを入


れる。



ーーーーーーーー



私達はそれぞれ学校が終わったあと、合流し


て市民会館で練習していた。


市内に学校か職場がある人なら、証明書提示


で平日だと19時まで無料で使えるんだ♪



最高の場所…に思えるけど、混んでる場合


は、たまに近くの人が遊んでるバトミントン


の羽が飛んできたりすることがあるのが少し


難点…



「いち…に…いち…に…


クロスして~パッ!」


「うん♪良かったんじゃない?」


私は恋と心に話しかける。


「やっと上手くできた気がするよぉ~♪」


恋が満足そうに小さく飛び跳ねてる。


「クロスの角度2°修正…


今度は理想に合った気がするわ…」


心は難しそうな顔をしながらも、達成感が溢


れている。



「それじゃあここまでの所、


3人でもう1回、最初からやってみよう!」


市民会館内の角、鏡の前で3人で練習する。



毎日始める前はヤル気ゼロだけど、


ハマると1人でも練習を続ける「恋」。


記憶力と理想はバッチリ。


だけど体がついてこないことが多い「心」。


私はこの三姉妹で、ダンス練習する時間が


大好きだ。



「…クロスして~パッ!」


「うん!最初から通しでしてもかなり良くな


ったと思う♪」


私達の2ヶ月の練習は少しずつ、でも確実に


成果に出ている。


まだまだだけど、現地点で今の私の判断は


『合格点』だ。


「今日はそろそろ帰ろうか?」


あと30分あるけど無理して頑張りすぎも


良くない。


そう思って切り出した。


「そうね…」


心が終わりの柔軟をする体制に入ろうとす


る。


「まだだよ!恋は納得してな~い!時間まで


するの~!」


始まった…その気になると、この子の執念は


凄い。


「まだ無理して詰め込む段階じゃないし、


怪我したら困るから柔軟して帰るよ~」


納得しないで膨れている恋を説得し、


引っ張るような感じで私達は帰宅した。



ーーーーーーーー



「「「ただいま~」」」


3人で声を揃えて帰りを伝える。


「あらあら~


今日も遅くまでお疲れ様~。


ダンスの調子はどうかしら?」


迎えてくれたのは母、夢野美咲(ゆめのみさ


き)だ。


母もそうだが両親2人とも、基本的には私達


の自主性に任せてくれている。


「それなりに形になってきたよ!」


右手でGoodの合図をして微笑む私。


「みんなレギュラーはとれそう?」


レギュラー?母は何のことを言ってるのだろ


う?


「え?レギュラーって何?」


私だけではなく、三姉妹で顔を見合わせ


『?』を浮かべる。


「ダンス部でしょ~?


どれくらいの生徒さんがいるか分からない


けど、私心配で…」


…あ、しまった!母にオーディションのこと


を伝えていなかった。


「お母さん…れん姉と私は中学生…あい姉は


高校生…学校違う…」


心が冷静にツッコミを入れる。


「あらあら、私勘違いしてわ~


恥ずかしい~」


母は3人とも同じダンス部に入ったと思って


いたみたい。


私は頭を掻きながら説明に入る。


「お母さんごめんね。全部伝えてなくて…


私達オーディションを受けるためにダンスの


練習してたの!」


今さらだけど反対されたりするのだろうか?


少し不安がする。


「そうねえ~。健一さんにも聞いてみないと


だけど…」


健一さんというのは私の父のこと。


普段任されているような感じとはいえ、オー


ディションはやはり別かもしれない。


すぐに賛成されなかったから、不安は続く…


「ある程度の形になったら私がチェックして


あげる~判断はそれからね♪」


賛成も反対もされなかった。でもオーディシ


ョンに出るためのオーディションのようなも


のが条件となった。


「お母さん、ダンス好きなの?」


私はどこからその『チェック』が、出てきた


のか不思議だった。


「お母さんは昔カメリアでアイドルしてたの


よ~」


「「「ええーっ!


のんびりまったりの、


お母さんがーー?!」」」


今の姿からは想像できない意外な過去だっ


た。


私達3人の声が揃ってしまうほどに。


お母さんがアイドルしていたなんて!それも


海外のカメリアで!



ーーーーーーーー


それから私達は父が帰ってくるまで、母の昔


話やダンスについて話し込んでいた。



「健一さんにはオーディションの話は、聞か


れない限りしないからよろしくね~


健一さん。焼きもちを焼くという要素で反対


しそうだから~」


母はそんなことも言っていた。



今日した母との約束は


『ある程度の形になれば見せる』


『その時の内容と残り期間次第で、オーディ


ション参加の可否相談を父にするか決める』


このように決まった。




私達はそもそもオーディションに出れるの


か?


降り始めた雨。


…でも明けない梅雨はない!



夏の照りつける日差しが来る頃には、私達も


輝きたい!



そう決意したのだった…

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