第24話 休日
日曜日。俺は本を物色しに、街に来ていた。ネットで本を探すのも楽しいが、本屋でのそれはまた格別だ。まったく知らない本に出会える楽しさは本屋が一番だろう。
実は千春に今日遊ぼうと言われたんだが、「そんなリア充みたいなことするか!」と断った。やはり休日は一人で気ままに過ごすのが一番だ。千春は相当不満そうだったから、今度放課後にカフェに行くことになってしまったが……
さて、まずは大きな書店を一つ見て回るか。
――だが、たいしたものは無かった。それもそうだ。前回来たのが一週間前だし、新刊もそれほど増えているわけはない。
仕方なく本屋を出たときだった。
「ゲッ!」
俺に気がつかずに前を素通りしていったのは露崎澪音だ。ロングスカートにカーディガンで大人っぽい雰囲気だが間違いない。だが、あいつはまだ俺に気がついていない。助かった。これで気がつかれたらまたストーカー呼ばわりされてたぞ。それにしてもほんとによく会うな。
仕方ない。別の方向に行くか。俺は露崎と反対方向に進もうとしたときだった。
「ねえ、君、かわいいね」
あからさまなナンパの声が聞こえた。振り返るとナンパされていたのは露崎だ。そして、ナンパしているのは明らかに柄が悪いオッサン2人。
「な、なんですか?」
露崎から普段聞いたことのない怯えた声が漏れる。
「一人? 俺たちと遊びに行かない?」
「行きません……」
「俺たち、楽しい遊び知ってるぜ。なあ?」
「へへ、そうだぞ。感じたことない経験させてやれるぜ」
「行きませんから!」
「そう言わずにさあ……」
……困ったな。無視することも出来るが、このあと露崎に何かあったとしたら後悔するに違いない。
だけど、俺はこういうときに助けたことなんて経験なんて無いぞ。第一、腕っぷしには全く自信が無いし。そもそもあいつら結構なオッサンじゃないか。こんな子供相手に……いや、今日の露崎はすごく大人っぽい格好だから勘違いしているのかも。
だとしたら、なんとかなるかもしれない。俺は、そこに割り込むことにした。
「よう、露崎。どうした?」
俺はわざと軽く声を掛ける。
「く、黒瀬君……」
露崎が驚いた目で俺を見た。
「なんだ? 誰だ、お前」
柄の悪いオッサンが俺に言う。
「クラスメイトですよ」
「クラスメイト!?」
「はい。同じ高校の」
「高校!? 姉ちゃん、高校生なのか?」
露崎はうなづいた。
「マジかよ。てっきり、大人かと……」
「高校生はさすがにまずいっすよ」
「だよな……姉ちゃん、すまなかったな」
そう言って、あっさりオッサンたちは去って行った。
「た、助かった……」
露崎が聞いたことが無いような声で言う。さすがにさっきにやつらは恐そうだったし、露崎もビビっていたのだろう。
「大丈夫か?」
声をかけたとき、露崎がふらっと倒れそうになる。
「お、おい!」
俺は慌てて体を支えた。
「ごめん、ちょっとクラッっとして……」
「大丈夫かよ……ちょっと座ろうか」
俺はすぐそばにあったベンチに露崎を座らせた。
しばらく露崎は目を閉じていたが、数分後には目を開いた。俺はその間に飲み物を買ってきていた。一番甘いコーヒーだ。
「はい、これ」
「ありがとう……って、これ、私が好きなの知ってるの? やっぱりストーカー?」
「アホか。自販機で買ってたろ」
「ああ、そういうことか。後ろに居たもんね」
「そうだ。あれは偶然だぞ?」
「それで、今日も偶然って言い張るわけ?」
「ああ、偶然だ。この本屋に来てただけだし」
「そんな偶然ある?」
「あったんだから仕方ないだろ。まったく……それが助けてやった相手に対する態度か?」
「ご、ごめん……」
急に露崎はしおらしくなった。
「まあ、いいけどさ。じゃあ、このコーヒー飲んだらすぐに帰れよ」
俺はそう言って立ち上がった。
「ま、待って!」
露崎が俺の袖をつかんでくる。
「なんだよ」
「もうちょっと、一緒に居て」
「はあ?」
「ごめん、ちょっと恐くて……」
露崎は俺に見せたことがない、しおらしい態度だ。
「……仕方ないな」
俺はまたベンチに座った。
「ごめんね。何か用事とかあった?」
「用事は無いけどな」
「じゃあ、暇なの? だったら、私と一緒に居れるんならそれで嬉しくない?」
どうやらいつもの調子が出てきたようだな。
「嬉しくないね」
「そんな男子、他に居ないと思うよ」
「でも、俺は違う。お前に興味無いし」
「そう言ってたもんね」
露崎はコーヒーを最後まで飲む。
「よし! 元気になった。今からお礼したいからついてきて」
「嫌だね」
「はあ!? もう、いいから来てよ!」
そう言って俺の腕をつかむ。
「お、おい!」
「行かないと抱きつくよ」
露崎がニヤリと笑った。
「……わかったよ」
仕方なく、露崎についていくことにした。
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