第23話 偶然
翌朝。
俺が教室に着くと、ハーレムにはいつもの光景が……と思ったが良く見ると昨日と様子が違う。人数が多い。そこには星野梨奈が混じっていた。
ときどきはハーレムの連中と話してるのは見ていたが、朝から一緒なんて……
「あ、黒瀬!」
俺を見つけると星野はすぐに駈け寄ってくる。
「星野、まさかハーレムに戻ったのか?」
「違うよ。黒瀬が来るまで暇だったから、ちょっと話してただけ」
「はあ? 俺を待ってたのかよ」
「そうだよ。黒瀬と二人で話したくて。千春には用事があるって言ってきたんだから内緒でね」
「それはいいけど、何の話だよ」
「昨日の放課後、黒瀬の様子がなんかおかしかったから。告白のこと、気にしてる?」
「……気にして無いと言ったら嘘になるな」
「黒瀬も素直になったねえ」
「俺はいつも素直だぞ」
「千春に対しては違うじゃん。でも、気にしちゃダメだよ、竹井君のこと。黒瀬のことだから、竹井君の方が千春には似合ってるとか思うのかも知れないけど」
「……なんでわかるんだよ」
「そりゃ、元ハーレム筆頭だし、男子の考えることは手に取るように分かるって」
前にもそんなこと言ってたな。こいつ怖えよ。
「でもねえ、千春はほんとに黒瀬のことが好きだし。竹井君とは一年の時から知り合いだけど、全然興味なさそうだったよ。だから黒瀬に関係無く、竹井君と付き合うことは無いから」
「そうか……」
「あからさまに安心してるねえ」
「ち、違う!」
「ふふ、お幸せに」
そう言って星野はハーレムの方に戻っていった。しっかし、あいつも世話焼きだな。
ふと視線をやると、星野は美空ちゃんと話していた。一条は露崎澪音に話しかけているが、露崎はスマホを見たまま完全に無視している。
……こりゃ確かに嫌がってるな。それに気づかない一条、哀れだ。
◇◇◇
休み時間。男子トイレから出たところで「あ!」と言われた。見るとそこに居たのは露崎澪音だ。隣の女子トイレから出てきたらしい。
「また、あなた? 私をつけ回してるの? ストーカー?」
「はあ? 偶然トイレを出るタイミングが重なっただけだろ!」
「怪しいわ。あなたが次に狙うなら私って思ってたし」
「狙うかよ! お前のようなハーレム女子は一番嫌いなんだ」
「あのね、私、学年で一番人気ある女子なんだけど?」
「知るかよ。俺にはそんな価値は無いね」
「黒瀬君には無くても、みんなにはあるのよ。一条君だって私に夢中だし」
ダメだ。話が通じない。これ以上、こいつと話しても時間の無駄だな。
俺は露崎を無視して歩き出した。
「ちょ、ちょっと! なんで無視して行くのよ!」
「お前と話したくないからだ」
「失礼ね! 男子ならみんな私と話したいはずよ」
「そんなわけあるか! 俺にとっては学校で一番興味無いやつだ」
「はあ!?」
露崎は怒りのあまり立ち止まった。だが、俺は無視して教室に戻った。
◇◇◇
「晴真、澪音に何かしたの?」
放課後、教室を出て横を歩く千春が聞いてきた。
「別に。なんでだ?」
「だって、澪音からメッセージが来て『あんたの彼氏、失礼ね』って」
「いや、それ俺か?」
「晴真に決まってるでしょ! そりゃ、彼氏じゃないけど……一番仲いい男子だし……私の気持ちは澪音にも知られてるし……」
「ん?」
最後の方が小声で良く聞こえなかった。
「とにかく! 澪音と何かあったの?」
「いや、たまたまトイレの前で会って、俺がつけ回してるとか言うから文句言ったまでだ」
「そういうことか。澪音、以前はいろんな男子にストーカーみたいに追い回されてたからそう思ったんだろうね」
あれだけの美少女だ。そういうこともあるよな。
ん?
「『以前は』って言ったが、今は違うのか?」
「うん。ハーレムに入ってからはそういうのは無くなったって言ってたなあ」
「へぇ……」
やっぱり俺と同じような考えの男子が多いのだろうか。もし露崎が好きだったとしても結局一条に夢中ってことだから、他の男子からしたら萎えるよな。
そのとき、廊下の後ろから「よっ!」と声を掛けられた。誰だ、と思って振り向くとそこに居たのはサッカー部の竹井だった。昨日、千春に告白していたやつだ。
「あ、竹井君」
千春が応える。竹井が声かけたのは俺じゃなくて千春か。
「この間はごめん。変なこと言って」
「ううん、大丈夫」
「気にしないで」
「分かった」
フラれてもさわやかなやつだな。俺ならフラれたやつにこんな声かけられないぞ。
「ところで黒瀬」
竹井が俺の方を向いた。
「な、なんだよ」
「緒方さんを泣かせるなよ」
「なっ!?」
「じゃあな!」
竹井はそう言って走り去っていった。
「マジでイケメンだな、あいつ……」
「うん、いい人だよね」
「いい人? だったら付き合えば良かったじゃないか」
「もう……そういう意味じゃないって分かってるでしょ。やきもち、やかないでよ」
「やいてなんてない!」
「ふふ、晴真のやきもち、ごちそうさま」
「く、くそ!」
――結局、俺はやいていたんだろうな。
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