第25話 フードコート

「さ、なんでもいいから食べて。おごるから」


 俺と露崎澪音は鶴屋百貨店の地下にあるフードコートに来ていた。

 それにしても、俺は女子におごられてばかりだな。ヒモの素質がありそうだ。


「どうしたの?」


「いや、なんでもない。どれでもいいのか?」


「いいよ!」


「言ったからな」


 こういうとき、俺は空気を読まず高いものを頼むのだ。露崎に嫌われても構わないからな。そこで俺が選んだのが「ターローメン」。桂花ラーメンで一番高いやつだ。一度食べてみたかったんだよなあ。


「うわあ、やっぱり男の子だねえ。夕飯もあるだろうに、入るの?」


「余裕だ」


「すごいなあ。私はあれにしようっと」


 露崎が買ってきたのは鶴屋饅頭だった。ミニサイズの饅頭10個セット。


「お前、渋いな」


「そう? 私、ここじゃいつもこれ買ってるよ」


「それよりも隣の蜂楽ほうらく饅頭の方が人気だろ」


 蜂楽饅頭には長蛇の列。一方、鶴屋饅頭には誰も並んで居ない。これはたまたまではなく、いつも見る光景だ。


「私は人気がないほうが好きだから」


「ハーレム女子のくせによく言うよ」


 一条はこの店で言えば蜂楽饅頭の方だ。誰よりも人気があって、いつも長蛇の列。そこにいつも並ぶのが普段の露崎のはずだ。


「一条君のことじゃないよ。自分のこと」


「自分?」


「うん。私、自分が人気があるのはわかってるけど、そういうの好きじゃないんだ」


 そういえば、千春も言ってたか。ストーカーされてたって。だから、人気があること自体が嫌なんだろうな。


「まさか自分の人気を減らしたくてハーレムに入ったのか?」


「そういうわけじゃないけど、そうなることは分かってたよ。それに一条君も好きだったから一石二鳥だって思って」


「なるほどな」


「一条君はやっぱり凄いよ。あんなに人気があっても自分を保っていられるんだから。わたしなんて、もう気が狂いそうだったもん」


「そんなにつらかったのか?」


「うん。みんなが私を見てるから下手なことは何も出来ないし、ちょっと失敗しただけですごく笑われる。いつも完璧じゃなくちゃいけなくて、本当につらかった」


「なるほどな」


 露崎は美少女だ。それもとんでもないレベルの。だから、完璧であって欲しい、そう思ってしまうのだろう。


「私だって家じゃだらしない格好だし、おならだってするのにね」


「男子の夢を壊すな」


「ほら、そうなっちゃうよのね。あ、ラーメンできたよ」


 俺は立ち上がり、「ターローメン」を取りにいく。上に太い肉が載っているラーメンだ。


「うわあ、美味しそう」


 露崎は目を輝かせている。


「食べたいのか?」


 多少なら分けても良いが。


「いい、やめとく。スタイル維持しないといけないし」


「それも美少女の宿命か?」


「そう。少しでも太ったらすぐ色々言われるんだから」


「大変だな」


 そう言いながら俺はラーメンを食べ始めた。うん、最高に美味い。


「ごちそうさま」


「早!」


 俺はあっという間に完食した。その間に、露崎が食べたのは凄く小ぶりな鶴屋饅頭1個だけだった。


「それ、10個入りだろ。食べないのか?」


「さすがに無理だよ。家族へのお土産にするけど……黒瀬君が食べたいならどうぞ」


「じゃあ、一個だけもらおう」


 実を言うと鶴屋饅頭は食べたことは無かった。どうしても人気がある蜂楽饅頭ばかり買っていたからだ。あれ? ハーレム嫌いなはずなのにおかしいな。まあ、饅頭と女子は別だ。


「うん、美味いな」


「でしょ? こっちにはこっちの美味しさがあるのよ」


「確かにな」


「ハーレム女子が何言ってるんだってのは分かるけどね」


 露崎は笑った。

 そういえば、最近、露崎は一条とよく喧嘩してるって言ってたな。


「露崎、お前、ほんとはハーレムを抜けたいんじゃないか?」


「……さすが、黒瀬君。お見通しか。千春や梨奈を奪うだけあるね」


「奪ってはないからな。勝手に来ただけだ」


「そういうところ、一条君と似てる」


「一条に!? 俺が!?」


「うん。一条君もよくそう言ってたから。勝手に女子が集まってくるんだって」


 一条と同じ事を言っていたなんて、なんか恥ずかしいぞ。


「私も黒瀬君のハーレムに入ろうかなあ」


「俺のハーレムなんて無い!」


「あるじゃん、千春に梨奈に、ときどき美空ちゃんまで。こっちの方が楽しそう」


「アホ言うな、まったく……俺と一条は違う!」


「どこが違うのよ。女子をはべらせてるのは一緒でしょ?」


「違うよ。一条は一条のことを好きな女子が集まってるんだろ。俺のところは別に俺を好きじゃないぞ」


「千春は好きでしょ」


「百歩譲ってあいつぐらいだ。星野は千春が好きで居るんだし。美空ちゃんはたまに遊びに来るぐらいだ」


「あんまり変わらないと思うけど」


「違うからな!」


 俺が嫌いなハーレム男子になどなりたくないわ。

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