第42話|祈りの鼓動──届いてほしい、小さな命へ
※この作品は台本(脚本)形式で執筆しています。
会話の前にキャラクター名が入る構成です。
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こんにちは、お疲れ様です。西竜愛星です。
いつも『鼓動の先に』を読んでくださり、本当にありがとうございます。
今回は 結愛 と、昨日出会ったばかりの少女 ひより の姿を、“ほぼ同時進行” で描いていく特別な回になります。
術後の結愛は少しずつ強くなりながら、
大きな手術に挑むひよりのことを思い、
自分のリハビリと気持ちの間で揺れ動きます。
結愛が味わった恐怖、孤独、涙——
そのすべてが、別の誰かの支えになる日がくる。
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前回のエピソード
https://kakuyomu.jp/works/822139837672594690
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⚠️ご閲覧に際してのご注意
本エピソードには、未成年患者の開胸手術シーンを含む、リアルな心臓外科の描写が登場します。
胸骨切開、止血、縫合など医学的処置が詳しく描かれるため、医療描写が苦手な方、血液表現に敏感な方はご注意ください。
本作では残酷さを目的とした表現はありませんが、痛み・緊張・生々しさを伴うシーンがあります。
また、結愛の心理描写に加え、手術を受ける少女への“祈り”や不安、寄り添い も扱われています。
医療シーンや手術描写が苦手な方は、どうかご無理のない範囲でご覧ください。
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🕗8:00〜 結愛サイド
〈鳳英医科大学附属病院・一般病棟・結愛の病室・術後27日目〉
朝の光が薄く差し込む病室。
いつもより少し落ち着かない表情で、結愛はベッドの上でゆっくりと上体を起こしていた。
扉が静かにノックされる。
神田「失礼します。……おはようございます、結愛さん」
結愛は声を少し張って返す。以前よりずっと自然な声だ。
結愛「……おはようございます」
神田は穏やかに微笑みながら、タブレットを確認する。
神田「寺西先生は、今日の手術の準備で朝から詰めています。ですので、今日の回診は私が担当しますね」
結愛は一瞬だけ視線を伏せる。
──ひよりの手術。
もう、“今日”なんだ。
神田は胸の創部のガーゼを確認し、触診し、聴診器を当てながら丁寧に状態を診ていく。
神田「創部はとても綺麗です。呼吸音も問題なし。回復は順調そのものですよ」
結愛「……よかった……」
神田「今日もリハビリ室でしっかり動きますか?」
結愛は、少しだけ間を置いて、頷く。
結愛「……はい。ひよりん……ひよりちゃんのぶんも……あたし、がんばります」
神田はその名を聞いて、優しく目を細める。
神田「そうですか。……きっと、励みになるでしょうね」
短い回診を終えると、神田は一礼して退出した。
結愛は胸元をそっと押さえ、小さく息を吸い込む。
結愛(心の声)《……ひよりん……いまごろ、準備してるのかな……》
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🕗8:00〜 ひよりサイド
〈鳳英医科大学附属病院・手術室前〉
まだ幼さの残る16歳の少女が震える指で家族の手を握りしめ、
そのままストレッチャーに乗せられて手術室へ運ばれていく。
家族「ひより……頑張るんだよ……」
ひより「……うん……うん……」
泣き出しそうな声。
しかし扉は静かに閉じ、ひよりは白い光の中へ。
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🕗8:10〜
オペ台に移されたひよりは、まだ意識がはっきりしている。
周囲には麻酔科医・佐久間、看護師、器械出し看護師、外回り看護師がテキパキ配置につく。
佐久間「大丈夫。ゆっくり呼吸していきましょうね」
ひより「……こわ……い……です……」
佐久間「大丈夫ですよ。眠っているあいだに全部終わります」
マスクがそっと顔に当てられる
手術室には冷たい空気が満ち、
壁面のモニターがひよりのバイタルを静かに映し続けていた。
ピーッ……ピッ……ピッ……
わずかに速い拍動。
16歳の少女の心臓は、不安を反映するかのように揺れている。
麻酔科医・佐久間が声を落とす。
佐久間「……ひよりさん、ゆっくり吸ってね。そう、もう少しだけ……」
マスクはすでに口元にフィットし、
淡い麻酔ガスの匂いが漂う。
ひよりの長いまつげが震え、不安げに揺れた瞳が、天井の無影灯をぼんやりと見つめる。
ひより「……こわ……い……」
その小さな声に、佐久間が優しく応える。
佐久間「大丈夫ですよ。
ゆっくり眠って、その間に全部終わりますからね」
少女の視界がゆっくりと滲む。
ひより(心の声)《……こわい……でも……結愛さんが……がんばってって……言ってた……》
ひよりの指先にかすかな力が入る。
しかし、麻酔の波はもう容赦なく身体を包み込み始めていた。
佐久間が静かに告げる。
佐久間「……導入します。深呼吸だけ続けて」
ひよりの瞬きがゆっくりになり、
視界の光が遠のき、
最後にひとつ、弱々しい呼吸が落ちて——
ストン……と、小さな身体は眠りへ沈んだ。
佐久間「意識消失。反射なし。
血圧・脈拍、安定しています」
呼吸器が接続され、規則正しい人工呼吸の音がひよりの胸郭に淡く同期する。
シュー……コォ……シュー……コォ……
ひよりのまつげは静かに閉じられ、眉間の緊張もすでに解け、幼い頬を白い手術灯が淡く照らす。口元はトーマスチューブホルダーに固定され、表情は読み取れない。
寝息さえ聞こえない静寂。
ただ、機械の音だけが彼女の代わりに呼吸していた。
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🕣8:30〜 結愛サイド
麻未がワゴンを押して入室する。
麻未「朝ごはん持ってきましたよ。今日は“軟菜食”の中でも、もうかなり普通に近いメニューです」
結愛「……はい。ありがとうございます」
メニューは、柔らかく炊いた白米、煮魚、ほうれん草のおひたし、味噌汁。
以前より格段に“食事らしい”
結愛はスプーンを握り、自分の力で口に運ぶ。
結愛「……ん。食べられます……」
麻未「もうほとんど普通食に戻れますね。すごいです」
結愛は小さく微笑んだが、その奥に少しだけ影が落ちている。
麻未「……緊張してるんですか?」
結愛「……ひよりん……この時間、もう……手術室ですよね」
麻未は一瞬だけ視線を伏せたあと、優しく言った。
麻未「……はい。8時入室と聞いています」
結愛は箸を止め、小さく俯いた。
結愛「……怖いですよね、きっと……」
麻未「ええ。でも、あの子……昨日のあなたのおかげで、本当に表情が変わってましたよ」
結愛は胸に手を当て、小さく息を吸い込み、ゆっくり吐き出した。
結愛「……大丈夫。ひよりんなら……がんばれる」
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🕣8:50〜 ひよりサイド
モブ器械出し看護師が手術台の横で器械を整え、モブ臨床工学技士が人工心肺装置のチューブを一本一本慎重に確認する。
佐伯「電気メス、通電確認よし。
胸骨鋸、作動問題なし」
真鍋「人工心肺、スタンバイOKです」
寺西先生が両手を胸の位置で上げ、
手洗い後の消毒を無駄なく済ませながら言う。
寺西「……よし。
全員、配置に入って」
助手のモブ2人が寺西の反対側に立ち、
無影灯がわずかに角度を変え、
ひよりの胸元を正確に照射する。
助手・神田「創部中心、照度良好です」
寺西「じゃあ——始めようか」
静かな声。
だが室内の空気が一段引き締まる。
白衣の影がひよりの小さな胸の上に集まり、
無数の機械音が同時に呼吸を合わせる。
時刻は8:59。
ひよりの心臓はまだ自分で動いている。
9:00の開始を待つ、最後の1分だった。
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🕘 9:00〜 結愛サイド
リハビリ室。
いつものように麻未が車椅子を押し、詩織に引き継ぐ。
詩織「おはよう、結愛さん。今日もよろしくね」
結愛「……おはようございます。お願いします……」
結愛は完全にひよりのことでいっぱいだった。
詩織はすぐに気づいた。
詩織「……ちょっと表情が硬いですね。どうしました?」
結愛「……ひよりん……今日手術だから……」
詩織は頷き、優しい表情で手を添える。
詩織「……じゃあ、今日は“ひよりちゃんのための時間”だと思って、ゆっくり動きましょう」
結愛「……はい……」
しかしこの日は——
いつもより動作が遅い。
立位保持も明らかに集中できていない。
歩行器の握りもいつもより弱い。
詩織はそれを責めず、そっと支える。
詩織「今日は……“焦らない日”でいいですよ」
結愛「……うん……」
──ひよりは今ごろ胸を開かれているのかもしれない。
その想像が、結愛の胸に鈍い痛みを生む。
詩織「深呼吸だけは、忘れないように」
結愛「……すぅ……はぁ……」
詩織「よし……それで十分です」
結愛(心の声)《ひよりん……
どうか……どうか生きて……》
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🕘9:00〜 ひよりサイド
〈手術室〉
無影灯がゆっくりと明度を上げ、
ひよりの顔に白い光が落ちる。
人工呼吸器の呼気音。
モニターの規則的な電子音。
胸の上には、麻酔で眠る16歳の少女──。
佐久間は声を低く発した。
佐久間「……はい、全身麻酔、安定しています」
モブの外科医たちが淡々と準備を整える。
寺西「……参ります」
メスが静かに、少女の胸の正中に当てられる。
ひよりの手術が始まった。
スッ……
細く、だが迷いのない軌跡が胸元に刻まれる。
薄い皮膚が左右に開き、
若い少女特有の淡い皮下脂肪が現れる。
モブ器械出しが吸引器を差し出す。
キュイィ……
血がにじむたび、吸引で視野が整えられる。
ひよりのまつげは長く、まだ幼さが残り、
人工呼吸器の呼吸に合わせて
胸がわずかに上下する。
寺西「電気メス」
ジジッ……バチッ……
白い煙が細く立ち上がる。
焦げた組織のわずかな匂いが空気に混ざる。
佐久間は麻酔モニターに目を向けたまま、
淡々と状況を読み上げる。
佐久間「心拍、安定。血圧、問題なし」
寺西は完全に手技に集中している。
表情は鋭く、しかし迷いは一切ない。
寺西「胸骨鋸」
モブ器械出しが胸骨鋸を寺西に渡す。
ギュイン……という独特のモーター音が
手術室の空気を震わせる。
ひよりの顔のアップ──
唇はテープで固定され、
口元は完全に見えない。
だが、その頬の柔らかさが
『まだ16歳の女子高生』であることを
否応なく見せつける。
寺西は小さく呼吸を整えてから言う。
寺西「胸骨切開、入ります」
ギィィィィィィ……ッ
鋸が骨に触れた瞬間、空気の振動が変わる。
金属音にも似た高い摩擦音と骨の粉がわずかに舞い、吸引器が絶えず視野を洗う。
モブ助手が胸骨を押さえ、
寺西はためらいなく中心を切り進める。
ギィ……ギギギ……ッ
佐久間の声が一定のリズムで響く。
佐久間「血圧安定、換気問題なし。心電図も良好」
胸骨の最深部に到達すると、音がわずかに変わった。
ギィ……パキッ
寺西「……胸骨、切断完了。
次、開胸器」
胸骨の左右に開胸器を差し込み、
ゆっくりと胸腔を開いていく。
ギ……ギギッ……ギ……
金属の開創器が広がり、胸郭が左右に分かれていくたび、内部組織の淡い色が露わになる。
ひよりの頬は小さく、額には汗が薄く浮かび、
静かな人工呼吸の動きだけが、
“生きている”ことを示す。
開創が完了すると、寺西の視線は深部へと注がれる。
寺西「……心臓、視野に入った。
準備に移ります」
佐久間「麻酔安定。いつでもどうぞ」
ここから先は──
ひよりの心臓へ直接触れる、本番のステージに入る。
⸻
胸骨が完全に開き、ひよりの心臓が、まだ温かい赤みを帯びた色で軽く拍動している。
佐久間は麻酔モニターから目を離さず、
佐久間「血圧安定。
換気良好。鎮静も十分です」
ひよりの眉は微動だにしない。
人工呼吸器が スー……コッ…… と一定のリズムを刻む。
寺西が心臓の上に薄く光る膜を確認し、
寺西「心膜、切開します」
スッ……
薄い膜が軽く裂け、内部の心臓がはっきりと露わになる。
“16歳の心臓”
まだ小さく、柔らかく、
規則正しい鼓動を刻んでいる。
トクン……トクン……
モニターの波形と完全に同期していた。
ひよりは眠っているはずなのに、
その頬には子供らしい丸みが残っている。
寺西が器具を構え、助手たちが吸引器を準備する。
寺西「…人工心肺の準備入る。
カニュレーション……いくぞ。
では、上行大動脈、いきます」
カニュレーションは、心臓手術で血が溢れる可能性が高い瞬間。
モブ臨床工学技士が緊張気味に声を出す。
技士「流量スタンバイ……OKです」
ズッ……!
カニュラが刺さる瞬間、
大動脈の圧で ドッ と血が噴き、
吸引器が一気に作動する。
ジュルルルル……ッ!!
助手「吸引!もっと深く!」
赤い液体が一瞬で視野を覆い、
寺西は冷静に指示を出し続ける。
寺西「ここ……押さえて。
視野確保……まだいくよ」
佐久間は血圧のわずかな変動を読み取る。
佐久間「血圧、問題ありません。
流量、上げていいです」
大動脈からの流出血が減り、カニュラが固定される。
寺西「……大動脈カニュレーション、良し。
次、右房」
右房のカニュレーション
心臓の右側にゆっくり器具を進める。
ひよりの頬が人工呼吸器の音に合わせて
少しずつ頬が上下する。
寺西「穿刺いきます……」
ズッ……
こちらも血が溢れ、吸引器が再び忙しく動く。
助手「吸引強めます!」
ジュバッ……ジュルル……!!
赤い血液がステンレスのボウルに落ち、
金属音を立てる。
カチャン……ッ
寺西の手は一切ぶれない。
寺西「右房カニュラ固定。
人工心肺、回します」
技士「人工心肺、起動します!」
人工心肺の機械が
ウィィィィィン…… と稼働し始めた。
佐久間「体温下降開始。
心拍、徐々に弱くなります」
手術室の空気が、
ひよりの“生”を一度預かる、
特別な静寂へと変わる。
寺西が短く呼吸し、
寺西「では……心停止、入れます」
モブ助手がカリウムを含む“心停止液”を準備。
佐久間は静かに呼ぶ。
佐久間「注入どうぞ。
心拍落ちていきます」
心臓の鼓動が弱まり──
トクン……
ト……ク……
……ト……
モニターの波形が
ゆっくりと平坦に変わっていく。
ピ──……
ひよりのまつげが静かに揺れ、
皮膚はまだ温かい血の色をしている。
寺西「……心停止、確認」
助手「停止しました」
寺西「始めよう。
心室中隔欠損(VSD)の修復に入る」
ひよりの心臓は、完全に静まり返った。
⸻
🕤9:50〜 結愛サイド
結愛は3回の立位を終え、車椅子に戻る。
いつもより息が荒い。
詩織「今日はここまでにしましょう。
……ひよりさんのこと、気になりますよね」
結愛「……うん。
ひよりん、今、どうなってるんかな……
心臓の……中の……穴、塞ぐって……先生言ってて……」
詩織はそっと結愛の手を包んだ。
詩織「結愛さんが祈ってることは、
ちゃんと届いてますよ」
結愛はわずかに力を抜き、
深く呼吸をした。
⸻
🕤9:50〜 ひよりサイド
薄桃色の心臓は、拍動を完全に失い、
まるで時間が止まったように沈黙している。
鼓動がない。
揺れない。
動かない。
それなのに、ひよりは確かに“生きている”。
人工心肺が彼女の命を代わりに回しているからだ。
寺西は、静かに深く息を吸い、
停止した心臓の上に指を添える。
寺西「よし……心房側からアプローチする。吸引お願い」
モブ助手 B「はい、吸引入ります」
モブ助手 Bが素早く反応し、
心臓周囲の血液を吸い上げる。
露わになった心室中隔……
そこに、小さくても確かに存在する 穴(VSD) が見えた。
寺西「……ここだな。
思ったより広い。2センチ弱……」
佐久間「出血は軽度です。視野、良好です」
寺西「パッチの準備を」
モブ看護師「パッチ、用意します」
真っ白の人工パッチがトレーに乗せられる。
寺西「いくぞ。……縫合、開始」
チチチッ……チッ……
糸が通る細かな音だけが響く。
ひよりの心臓は動かない。
だが、縫われるたびに、
未来へ向かって少しずつ修復されていくようだった。
佐久間「血圧安定、ガス良好。
人工心肺もしばらく問題ありません」
寺西「ありがとう。
こっちは集中して縫う。視野、保持頼む」
モブ助手A「はい、視野固定します」
しん…… と静まり返る空間の中、
無音の心臓にコツコツと針が進む。
鼓動がない心臓は、妙に柔らかく、
繊細で壊れそうなほどに静か。
だが、その沈黙こそが、
外科医が最も集中する瞬間だった。
寺西「……よし、パッチ固定。次、追加縫合いく」
佐久間「酸素化、少し上げます」
寺西「助かる」
糸を結ぶ寺西の指先は微塵も揺れない。
「絶対に助ける」という意志だけが
手術室の空気を張り詰めさせていた。
⸻
🕙10:00〜 結愛サイド
リハビリ室を出て、詩織に付き添われながら病棟へ戻る途中。
結愛は胸に手を当てて、呼吸を少し整えていた。
胸の痛みではない。
息切れでもない。
ひよりのことが、頭から離れなかった。
詩織「結愛さん、今日も頑張りましたね。立位、昨日より安定してましたよ」
結愛「……ありがとう……ございます……」
言葉は返したものの、声にはどこか落ち着きがなかった。
詩織はすぐ気づく。
詩織「……ひよりちゃんのこと、心配なんですよね?」
結愛の指が小さく震えた。
結愛「……うん、今……手術中……ですよね……」
詩織「はい。もう始まってるはずですね」
結愛はうつむき、そっと膝に視線を落とした。
結愛(心の声)《……ひよりん……大丈夫……かな……》
詩織はそっと微笑む。
詩織「大丈夫ですよ。寺西先生ですから。
結愛さんも、あの人に助けられたでしょう?」
結愛「……はい……」
でも心は落ち着かない。
詩織「病室戻ったら、水分とって、少し休みましょう。結愛さんが倒れたら、ひよりちゃんも悲しみますよ」
結愛はゆっくり頷いた。
結愛「……そうですね……休みます……」
でも、休める気はしなかった。
病室に戻った結愛は、水を少し飲んで、ベッドの角度を上げたまま休んでいた。
麻未はモニターを見てから言う。
麻未「呼吸も脈拍も安定してますね。少し横になってもいいですよ」
結愛「……ありがとう……」
だが、体を少し沈めるだけで胸がざわついた。
結愛(心の声)《……ひよりん……こわいよね……あたしも……手術の前日……怖かった……》
目を閉じると、あの日の冷たい手術室の天井が浮かぶ。
眠ろうとしても眠れなかった。
結愛(小声)「……ひよりん……がんばれ……」
誰にも聞こえない小さな声。
でもその祈りは確かに手術室へ向かっていた。
⸻
TO BE CONTINUED
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次回予告
静まり返る手術室。
止まったままの心臓に、未来へ繋ぐ糸がひとつ、またひとつ。
少女の命を取り戻すための戦いは、いよいよ山場へ。
その頃、病室では──
結愛が家族に支えられながら、ただひとりの少女の無事を祈り続ける。
離れた場所で進む、ふたつの時間。
重なる想いが、確かに“命”をつなぎ始める。
次回、鼓動の先に 第43話
交差する鼓動──手術室と病室、ふたつの時間
⸻
あとがき
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
第42話は、結愛とひよりの“ふたつの場所の鼓動”が同時に進む回になりました。
結愛がリハビリ室で前に進もうとする一方で、
手術室では、16歳の少女・ひよりが
自分の未来をかけて胸を開かれ、
命を預けている――。
そんな“別々の空間だけどつながっている時間”を
丁寧に描くことを意識しました。
そして、ひよりの物語は緊張感のある局面に入りました。
結愛がリハビリをしながらひよりを思う姿も含め、「人が人を思う」というテーマが
より強く立ち上がってきた回だったと思います。
次回43話では、手術の山場に突入し、結愛サイドとの“時間の交差”がさらに深まります。
⸻
次回第43話
https://kakuyomu.jp/works/822139837672594690/episodes/822139840085833118
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