第3話【忘れモノ。】

 銀鈴ぎんれいとリクの待つ場所へ戻ると、銀鈴に抱かれてリクが眠っていた。


天花てんか

「あれ?寝ちまったのか」


銀鈴

「はい。如何どうやら憑き物がリクさんの体力を喰っている様ですね」


天花

「モノは?」


銀鈴

「近いモノは生き霊の類いかと」


天花

「……」


 両手で顔を覆って天を仰ぐ天花。その後ろからカティリアが戻って来て「どうしたんですか?」と覗いた。


カティリア

「あれ?リクちゃん寝ちゃったんですか。すみません。奥で寝かせてきますね」


銀鈴

「いえ、此のままで」


カティリア

「?でも…」


銀鈴

「今肌を通して私の気を巡らせています。完全に如何にかする、と言う訳には参りませんが。ある程度ならば抑える事が出来ると思いますので」


カティリア

「本当ですかっ!?」


銀鈴

何分なにぶん世界が違いますから効果が有るかどうかは判りませんので気休め程度と思って下さい。申し訳有りません」


カティリア

「いえ!それでもなにもしないよりはずっと彼女にはいいと思います!ありがとうございます!」


 銀鈴の前に座ってリクの髪を撫でるカティリアにゆるーい天花の声が掛けられる。


天花

「ところでオマエ男、だよな?なんで女モンの着物着てんだ?そーいう趣味なのか?」


 かくりと首を傾げて改めてカティリアを見る。確かに線の細い女性物の着物を着ている。だが、天花はカティリアが男なのか女なのか判断出来ずに居た。カティリアからはどちらとも取れる匂いがしている。


カティリア

「あー…ははは;;; これはですね、ボクちょっと色々あって、元はこの羽織り1枚しか着てなかったんです…;;;」


天花

「すっぽんぽんで羽織りだけ着てたのか」


 カティリアはしっかりと着ずに袖を肘のところまでしか着ていない羽織りを示した。


カティリア

「集落のみんなが"神様なんだから、もっと神様らしい格好をしろ〜!"って言ってこの服をくれたんです…けど」


 カティリアはがっくりと床に手をついて俯く…。


カティリア

「ボクのこの容姿のせいか、みんな女性物をくれるんですよ…。頂いた物なので無下に扱う訳にもいかず…それに」


天花

「?」


カティリア

「このアクセサリー、服に合わせてリクちゃんが創ってくれたんですよ」


天花

「で、それみんな律儀に着てんのか。真面目だなオマエw」


銀鈴

「気持ちの込められた捧げ物で御座いましょう。此の集落の方は元より他國からの移民と思われます。故にそういった交流も、気を和らげるという意味合いでは宜しいのでは有りませんか」


カティリア

「そ、うだと、嬉しいですね」


天花

「出た出たクソ真面目」


 「さて」と立ち上がるカティリア。


天花

「ん?どっか行くのか?」


カティリア

「えぇ。ちょっと入口まで。そろそろみんなが食材やらおかずやら捧げ物を置いてくださる時間なので受け取りに行ってきます」


天花

「んじゃ、オレも手伝うかね」ヨイショ


カティリア

「助かります。いつもはリクちゃんが手伝ってくれてるので。よろしくお願いします!」


天花

「ん。行くか」


カティリア

「はい。銀鈴様、リクちゃんとピケのことお願いします」


銀鈴

「御任せ下さい」


カティリア

「では、天花、さ、ん…?」


天花

「ほれ。乗りな。行くぞ」


カティリア

「…」( °̀ロ°́)ポカーン


 振り返ると階段下に金色の大きな狐が伏せをしている。それが天花だと言う事を理解するまで結構な時間が掛かった。


天花

「言わなかったか?オレ人間じゃねぇぞ。こっちが本体な。ほれ、はよ乗れって」カッカッカッ


カティリア

「は、はい!うわぁ!凄い!つやつやふわふわ!///」


天花

「毛は掴んでも痛くねぇからしっかり掴まってろよ」ヨイショ


 ゆっくりと立ち上がり、凄いバネで浮き島を跳び越えると入口までの長い洞窟を猛ダッシュで駆け上がって行く。ふたりが食材を取りに出掛けて行き静かになった地下で銀鈴は穏やかな景色を眺めた。そこでふと、陽だまりで疲れた顔をして眠るピケが目に止まった。心しか寝息も苦しそうだった。


銀鈴

「…ピケ」


 呼ぶと耳がぴくりと反応してピケはゆっくりと目を開いた。


銀鈴

「貴方も此方へ。疲れているでしょう。のですから」


 再び銀鈴を品定めするかのように見ると、のそりと起き上がってそばに寄り背を着けて丸まった。


銀鈴

「…おや、此は。余程尽力したのですね。貴方にも私の気を」


 そう言いながらその小さな背を撫でるとピケはごろごろと気持ちよさそうに喉を鳴らした。ピケの魔力は空っぽと呼べるほどに無くなっており、9つあったはずの命もあと2つだけになっていた。



◈◈◈



【洞窟】


カティリア

「わぁぁぁぁ!!はや、はやいぃぃ!!」


天花

「口開いてんと舌噛むぞw」


カティリア

「ん"ん"っ」


天花

「ほい!着いたー!」


カティリア

「す、すごい…///」


天花

「酔ったか?」


カティリア

「凄い楽しかったです!!///」


天花

「ぶはっw そりゃよかったw」


 カティリアを背から降ろした狐は瞬く間に天花へと姿を変えた。


天花

「また乗せてやるよ。帰りは荷物もあるしな」カッカッカッ


カティリア

「わ!ホントですか!やったー!/// あ、今度リクちゃんも一緒にいいですか!?///」


天花

「おう!もちろん構わんよ」( ´罒`*)✧"


カティリア

「ありがとうございます!…ん?」


天花

「?どうした」


 戸に手を伸ばしかけたカティリアの顔から表情が失せ瞳が細くなる。天花も気付いた。


天花

(二人…片方はカティリアに近い気配…)


もう片方は―――


 天花はにやりと嗤って緊張するカティリアの肩をぽんと叩いて戸を開けた。


カティリア

「!天花さんっ」


天花

「行くぞー」


カティリア

「∑っちょ…っ」


天花

「大丈夫大丈夫。片方はオマエの友達だろ?。もう片方は」


 言いながら出て行く天花の後を慌てて追いかければ、出てすぐのところで呆れたような安心したような顔をしている天花。その視線の先には聖なる支配者ホーリールーラーのローブを纏った誰かと、真っ白な異国の衣装を纏った純白の長い髪をした男が揉めていた。


天花

「おう。袮雪ねゆき。来たのか」


袮雪

「∑あーっ!!おぇ!!ちょっと聞いてよ!!この子ちっとも話聞いてくれなくてさぁー!!」(⑉・̆-・̆⑉)


天花

「喜べカティリア」


カティリア

「は、はい?」


天花

「あれがさっき言ったオレの義弟だ。ついでに友達に落ち着くように言ってくれ」


カティリア

「!医神の義弟さん」


 話している端で怒鳴り声が響く。


袮雪

「ちょっとちょっと落ち着いてって。俺危ないモノじゃないからさぁ」


黒いローブ

「…ッ」


 袮雪は着物の襟元を締め上げられながらため息をつくと、懐から小さな巾着を取り出して天花の方へと差し出した。


天花

「やっぱり忘れてたのか。全く」


カティリア

「……っ」


天花

「カティリアとりあえず戻r」


 音も無く消えるカティリア。


ーガシッ。


袮雪

「え?え?ちょっとちょっと???えぇ???お姐ぇこの子なんなのぉ〜!?」


のぉ〜!?


のぉ〜…


ぉ〜…


………


天花

「あらぁ」


黒いローブ

「…(呆然)」


 あっという間に連れ去られた袮雪。残されたふたりは洞の入口があるであろう場所を見つめたまま開いた口が塞がらないで居た。


黒いローブ

「……おい」


天花

「おん?」


黒いローブ

「あんた、なんであれと一緒に居た。どうやってここに入った」


天花

「…」


 嵐が去った一瞬の静けさ。その次には黒いローブの人物は天花へと向けて明らかな敵意と少しの殺意を向けていた。自分より遥かに年若い赤子も同然のその人物に少しの愛おしさを感じながら口元を歪めて嗤う。


天花

「気になんならオマエも着いて行けばいいだろ?」


黒いローブ

「問に答えろ」


 他を絶対許さない強い声。


天花

「話のわからねぇヤツ。でその話をしていいのか?良いわけねぇよなァ。なんせこの集落に使われてる結界は視覚的に隠すだけのものだ。音は聞こえちまう」


黒いローブ

「!」


天花

「そんでぇ、こちとら素性もわからんようなヤツに明かしてやる義理も無ぇんだわ。よ!っとなァ!惜しい惜しい!」


黒いローブ

「!っな」


天花

「見誤るなよクソガキ」


黒いローブ

「っクッソ…!」


天花

「言っただろーが。視覚的な術は所詮視覚だけなんだよ。音や臭いは隠せねぇ。あのは良く出来てんが。相手の力量を測り損ねてんじゃあまだまだだぜ?」カッカッカッ


 音も無く背後から忍び寄って来た黒いローブを見ないままにするりとかわして目にも止まらぬ速さで拘束する。


天花

「袮雪がその気だったらオマエ今ここに立ってねぇぞ」


 笑いながら黒いローブを放して背を向ける。


天花

「おい」


黒いローブ

「…」


天花

「アイツへの捧げ物ってこれか?」


黒いローブ

「は?」


 洞の入口のわきに籠に入ったたくさんの食べ物が置かれている。


天花

「アイツこれ取りに来たのにすっかり忘れてんだもんなw おもしれぇヤツw ほれ」


黒いローブ

「なんだよ」


天花

「ほれほれ」グイグイ


黒いローブ

「∑は!?っおい!!」


天花

「食いもん落とすなよ!ついでにオメェもな!」カッカッカッ


黒いローブ

「ハァァァァァァァッ!?」


 天花は食べ物の入った籠をふたつ黒いローブに押し付け、洞に押し込め、続いて戸を閉めると自分はまた巨大な狐になり黒いローブを咥えて投げると背中に乗せて一気に地下へと走り出した。一方、カティリアに連れ去られた袮雪は引っ張られたまま地下への緩やかな下り坂を走っている。


袮雪

「ねぇねぇ?俺逃げないからちょっと落ち着いて話そ?」


カティリア

「え?∑はっ!ごごごごめんなさい!!無我夢中で;;;」


袮雪

「やぁっと止まってくれたねw この先に何かあるの?ずいぶん必死みたいだったけど」


 羽織りを掴まれて走っていた袮雪。かなり着崩れてよれよれになっている。


カティリア

「あ、あの、えっと…その…っ」


袮雪

「うん?落ち着いて?」クスクス


 テンパって上手に言葉が出ずに身振り手振りでわちゃわちゃするカティリア。を、突然抱き上げて飛び上がる袮雪。


カティリア

「!?!?!?」


袮雪

「ちょーっとごめんねぇ」


 直後、ゴォっと聞き覚えのある音が届き、ふわっふわの毛の感触を感じた。天花がふたりに追い付いたのだ。


袮雪

「あっれぇ?お姐ぇこれ良いの?」


天花

「∑あ!?袮雪テメェなにオレに乗ってんだ!!」


袮雪

「だってあのまま突っ立ってたらお姐ぇにかれるじゃん」


カティリア

「天花さん!///」


 飛び上がった所に突っ込んで来た天花の背中に着地。その首根っこの所で必死に食べ物の入った籠を守っている黒いローブからひょいひょいと籠を取り上げて袮雪は笑った。


袮雪

「お疲れ様!お姐ぇ無遠慮に走るから大変だったでしょ?」


黒いローブ

「!?」


天花

「ねーゆーき〜〜???」


袮雪

「あっはっはっはっw」


 そうこうしている内にあっという間に地下の屋敷がある浮き島へと到着する。浮き島に着いて伏せてカティリアと黒いローブを降ろし、袮雪が降りようとした時に天花は思いっきり身震いをして振り落とした。


袮雪

「ちょっとお姐ぇ!?俺食べ物持ってるよ!?」


天花

「うるせぇ!ちゃんとオメェが着地できるように投げたわ!!」


袮雪

「さいですかw」


天花

「ったく。カティリアっ!!」ガァッ!!


カティリア

「∑は、はい!」ビクッ


天花

「オレがウソついてて袮雪あれが敵だったらどーすんだ!?オマエがあんなに行動力あると思わんかったよ…」


カティリア

「す、すみません…;;;」


 「あーはらへった〜」と伸びをしながら屋敷へと上がっていく天花と入れ替わるようにリクが駆け寄って来た。


リク

「おかえりなさいカティリアさま!あー!お兄ちゃんも!おかえりなさーい!」


カティリア

「はい。ただいま戻りました」


黒いローブ

「おい、カティリア」


カティリア

「この方達は以前に話した遣いの方々。大丈夫だよ」


黒いローブ

「…」


こいつらが…?


袮雪

「ここ地下だよね?ふーん?不思議なとこ〜。ずいぶん良い空気。蓮かな?綺麗な花だ」


リク

「すみませーん!そのカゴもらってもいいですか?お夕飯作らないとなので」


袮雪

「うん?あぁこれね。はい、どうぞ!」(*´꒳`*)


 籠を受け取ろうとするリクの違和感に気付き手渡しかけた籠を頭の上まで持ち上げる。


リク

「?あの、カゴ…」


袮雪

「俺は袮雪。あそこの金色のお姉さんの弟なんだ。キミの名前はなんていうのかな?」


リク

「天花さまの弟!?じゃあ袮雪お兄さんも神さまなの!?///」


袮雪

「ん〜俺はまだ神様見習いかな」


リク

「そうなの?」


袮雪

「そうなの。ところでお名前は?」


リク

「あ、えっと、リクです!」


袮雪

「ん。リクちゃんね!」


カティリア

「リクちゃん?そろそろ夕食手伝ってもらってもいいかな?今日はたくさん作らないとだからね!」


リク

「はぁい!」


袮雪

「ダァメでーす!リクちゃんはちょっと俺とお話ししよう!」


リク

「え?」


袮雪

「カティリアくんだっけ?これはカティリアくんに預けるね」


 籠ふたつをぐいぐいとカティリアに押し付けて、縁側でピケを撫でる銀鈴に近付いた。


カティリア

「???あの…」


袮雪

「ちょっと待っててね」


カティリア

「は、はい…」


袮雪

「や!お銀ちゃん!」


銀鈴

「御久しぶりで御座います」


袮雪

「これ、忘れたの?それともわざと置いて行ったの?」


銀鈴

「…」


袮雪

「俺が勝手に連れて来ただけだから怒らないであげてね?また独りになったのかも、って屋敷中お銀ちゃんのこと探してたみたいよ。彼女」


 差し出された朱塗りの細身の筒を受け取ると銀鈴はそれに視線を落として何も言わず懐に納めた。袮雪はそれを見て小さく笑うと振り返り、カティリアへと向き直って黒地に金色の刺繍がされた小さな巾着を手渡す。


カティリア

「これは?」


袮雪

「うちの頭領様の忘れ物。言伝石ことづてのいしね。俺のことだと思うんだけど」


カティリア

「影法師様の忘れ物、ですか」


袮雪

「まぁそれは後で確認してね。で、食事の準備にはお銀ちゃん使ってくれる?お姐ぇは全くだからアテにしないでね!」


天花

「オレは食う専門だ!」(◦`꒳´◦)ドヤッ


カティリア

「え、わ、わかりました」


リク

「リクはお兄さんとなにをお話しすればいいの?」


袮雪

「お話しの前に〜」


 からころと気持ちいい音を立てて腰に差していた細身の黒地に露草の花が描かれた筒、睡蓮の花が描かれた筒、白い藤の花が描かれた筒を取り出して一気に栓を抜いて呼び掛ける。


袮雪

「出ておいで!ちび達!」


―ぽんっぽんっぽんっ!


 煙といっしょにくるんと小さな狐が3匹飛び出して着地と同時に人の姿に化けた。


リク

「わぁ!すごい!///」


袮雪

「今から夕飯まで俺とこの仔たちと追いかけっこして遊ぶよー!」


 きゃっきゃっしている3匹はみんな10歳ぐらいの女の子が2人と男の子が1人。


リク

「か、カティリアさま…っ///」ウズウズソワソワ


カティリア

「うーん…追いかけっこ、ですか…」


 困ったように笑うカティリアに手伝う準備を終えた銀鈴が声を掛けた。


銀鈴

「リクさんの発作ならば大丈夫ですよ」


カティリア

「え、ですが…」


銀鈴

「聞いていらっしゃいませんか。袮雪ならば治せる、と。天花様から注意されていたので聞いていたものかと」


カティリア

「聞いてはいますが…」


天花

「行ってこいリク。但し、その白いにーちゃんの言うことちゃんと聞くんだぞ」カッカッカッ


カティリア

「…わかりました。行っておいで、リクちゃん」


リク

「やったー!!///」


 「わーい!わーい!」とぴょこぴょこ跳ねるリクと見ていた3匹のチビ達も真似をして跳ね、そのまま1人と3匹はキャーキャー言いながら浮き島から浮き島へと追いかけっこを始めた。


カティリア

「…ふふ。あんなに楽しそうなリクちゃん、初めて見ました」



袮雪

「……進行は末期ギリギリ…深度は重度、根もしっかり張られちゃってるなぁ…」ブツブツ…



カティリア

「え…?」


 走り回るリクを視ながら呟いた袮雪の言葉に頭が真っ白になる。


カティリア

「末期…?」


袮雪

「あの様子だとそんなに掛からずに発作を起こす」


カティリア

「え、あの、どういう…」


袮雪

「!しまった…口に出てた?」


天花

「おもくそ」


銀鈴

「言い方」


カティリア

「え…え?あの、殺してもいいですか?(混乱)」(ºoº)


袮雪

「わぉw」


 本気の目をしているカティリアに袮雪は気にもしていない様子で軽く手を振りながら笑う。


袮雪

「確かにリクちゃんの憑き物は深く根を張っちゃってるけど、俺治せないとも治らないとも言ってないよ」クスクス


カティリア

「…」( ・᷅-・᷄ )ムッ


袮雪

「俺を引っ張って来た時もそうだけど、カティリアくん少し早とちりさん?」


カティリア

「やっぱり死にますか?」( ・᷅-・᷄ )


袮雪

「あははw 殺されたら堪んないから俺も追っかけっこ行ってこよー!」


カティリア

「∑あ!こらぁ!」


 ひらりひらりと舞うようにチビ達の中に混ざって遊ぶ袮雪。楽しそうな笑い声はより一層大きくなって地下空間に響き渡った。


カティリア

「…リクちゃんに何かあったらほんとに殺しますから」( ・᷅-・᷄ )


天花

「わぉw」


銀鈴

「袮雪の事ならば先程本人が言った通り、頭領様の石に伝えてあると思います」


カティリア

「銀鈴様?」


銀鈴

「私の知り得る限り、医療術に於いて彼に並ぶ者は居りません。腕は私が保証致しましょう」


カティリア

「ですが、実際あれは呪術の1種です。医療の腕があっても管轄が違うではありませんか…」


天花

袮雪あれはな、治す、直す、解く、戻すを得意にしたのよ」


カティリア

「治す、だけではないのですか?」


天花

「事実を消す、は当然出来ない。が、何事に関しても限りなくことを総称してあれは医療術と言っているんだ。もちろんそこから良好にしてやることも含めてな」


カティリア

「そんなことが…」


天花

「なぁに、悪いようにはならんさ」


 そうして遊ぶリクを不安げに見遣り、自分をどうにか納得させるとカティリアは銀鈴を連れて炊事場へと向かった。


【炊事場】


 炊事場に入り、貰った食材を籠から出しながらカティリアはため息をこぼし続けていた。


銀鈴

「カティリア殿、私は何をすればよいですか?」


カティリア

「!あ、っとすみません!このお野菜をひと口大に切ってもらえますか。切ったものはそのままこっちのお鍋にお願いします」


銀鈴

「分かりました。此方は煮物、でしょうか」


カティリア

「はい!銀鈴様はお料理得意なんですか?」


銀鈴

「えぇ、まぁ、困らない程度には。天花様は放っておくと食事を適当に済ませてしまうので」


 そう言いながら銀鈴は手際良く野菜を切っている。


カティリア

「…あの、銀鈴様…?」


銀鈴

「はい。何でしょう」


カティリア

「それは…?お花、ですか」(*ºoº*)


 銀鈴は人参に良く似た赤みの強い根菜で花を量産していた。物凄い速さで。


銀鈴

「あぁ、此れですか。此れは"ねじり梅"という野菜の切り方です。私達の住んでいた場所では食事は味わうだけではなく、目で楽しむ、という風習があるのです」


カティリア

「すごい…/// 他にもあるんですか…?///」


銀鈴

「えぇ。御座いますよ。他のもお作りしましょうか」


カティリア

「ぜひ!リクちゃんも喜びます!///」(*´˘`*)


 「では」と人参に良く似た野菜を終えた銀鈴は次の野菜に取り掛かった。カティリアも不安が飛んだのか自分も作業をしながら、銀鈴の手から作り出される色々なものに驚きつつ嬉しそうに夕食の支度を進めていく。


銀鈴

(ふむ。一先ずは落ち着いて頂けたでしょうか)


 気付かれないようにふっと息を吐いた銀鈴は初めての異世界の食事を楽しみにして目元を和らげた。



◈◈◈

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