第2話【箱庭の世界。】
影法師に送られたふたりがたどり着いたのは、じっとり蒸し暑い南国の浜辺。送りを終えた影法師の闇はまるで生き物のようにスルスルとふたりの足下に潜り込んで消えていった。
「あ"っ"ち"ぃ"〜…えれぇとこに送られたもんだ…|||」
「…
天花
「?は」
銀鈴
「此の森の奥が目的の場所です」
波打ち際からそんなに距離はない所に
天花
「…ちょっと待て。なんでオマエそんな詳しいんだ」
銀鈴
「……。其の前に、御用ならば名を呼んで下さいませ。
天花
「うるせぇ。オレの質問に答えろーぃ」
銀鈴
「……。頭領様より
天花
「あの野郎」イラッ
銀鈴
「御納得頂けましたか?では、先へ参りましょう」
再び歩き出す銀鈴を今度は知らぬ声が呼び止める。
「おや。この森に、何かご用ですかな?」
銀鈴
「…全く。歩きながら
天花
:「ぐぬぬ…」::( •ᾥ•):
ふたりが見やる先には黒づくめの集団が居り、先頭に立つ男が笑顔を向けていた。袖は長く、裾を引きずる長い黒いローブ。後ろの有象無象は大きくゆったりとしたフードを深くかぶり顔が見えないが、先頭の男はフードの無いローブをまとっている。
男
「旅の方、ですかな?この森には観光名所などはありませんよ?」
天花
「別に?ただまぁ、オレの住んでたとこには無ぇ草木が珍しくて散策してただけだ」
男
「そうでしたか。ですが、この森には危険な魔物が出ます。外から眺めるに止めておいたほうが良いですよ」
天花
「ハァ?目の前の胡散くせぇ集団よりははるかにマシだと思うぞ?」
銀鈴
(…嗚呼、また…
内心、舌打ちする銀鈴(でも絶対顔には出さない)をほったらかして天花は男を見ながら喉元でクッと嗤う。
天花
「まぁ、忠告は一応聞いてやるが、こちとら何が来ようが傷を付けられるほどやわじゃねぇんでな。行くぞ」
銀鈴
「…」
男
「…やれやれ。年寄りの忠告はきちんと聞いておくべきですよ」
声の直後。突然辺り一帯が爆ぜ飛んだ。
爆風は轟音と共に砂を空高く巻き上げ、木々を根元からなぎ倒して往く。やがて風が収まり始めた砂煙の中でよく通る声が響いた。
「わかんねぇヤツだなぁ。だからぁ、傷つかねぇっつったろ?」
男
「…なに?」
砂煙が霧散する。そこには変わらずに立っている天花と銀鈴。見ればふたりのかなり手前の浜が深くえぐれていた。
天花
「な?」カカカ
銀鈴
「…要件は御済みでしょうか。無ければ先に進むので失礼致しますが」
男
「…」
この辺りでは見ない装束、あれは東国のものか…?奴らは魔法術とは違う力を使うと言うが…。
微塵も気にしていない様子のふたりに、男は後ろに控える黒いのに合図をし、小さな鳥かごを受け取ると天花と銀鈴に向けてそれを差し出した。中には漆黒の大きな蝶がゆらゆら揺らいでいる。
男
「〈―
鳥かごはまず天花に向けられた。
男が詠唱をするとゆらゆらとしていた漆黒の蝶は真っ赤に変色し、次第に火の手が上がって激しく音を立てて燃え盛り、ついにはかご全体を覆っていたセーフティー魔法を破って男の手ごと爆散した。
男
「ぐっ…!?せ、精査、不能…っ!?」
天花
「おー?大丈夫かー?」
男
「…ふ…ふふっ。これはこれは面白いお方だ。幹部の皆様へ報告しなくてはなりませんね。また、いずこかでお会いしましょう」
嬉しそうに笑う男は再び詠唱をし、後ろの有象無象ごと瞬く間に消えた。
天花
「いや、会いたくねーし(真顔)。…え、なに?また来んのアイツら?ヤダわぁ〜」ウゲェ…
銀鈴
「…」
心底イヤそうな顔をする
「では」と森に入りかけると今度はちょっとだけ離れた茂みから物音がした。
天花
「おん?」
銀鈴
「…」スンッ
音のした方向を見ていると少年か少女かが気まずそうに顔を出した。それも、とても森に入るような格好ではなく、まるで宮の中で生活をしているような、そんな格好をしている。
少年か少女
「ぁ、と…えっと…」
天花
「巻き込まれてねぇか?」
少年か少女
「え?」
銀鈴
「御怪我はされておりませんか?」
少年か少女
「!あ、はい!大丈夫ですっ」アセアセ
天花
「そりゃあよかった!ところで少年。この森の奥にルノマの集落跡ってあるか?そこに行きてぇんだけど」
少年か少女
「…」
少年か少女は一瞬瞳を細めるとすぐに笑顔を取り繕った。
少年か少女
「ルノマは今ボクが暮らしている集落です。良ければご案内しましょう」
銀鈴
「…集落跡、ではないのですか?」
少年か少女
「あまり詳しいはお話しできないのですが…。それよりも、早くここを離れた方がいいです」
そう言って苦笑いする少年か少女は「こちらです!」と森へ入って行き、ふたりもその後を追った。湿度のせいか酷く青臭い森の中で少年か少女は道無き道を慣れた足どりでサクサク進む。歩き始めてどれ程か。かなり森の奥まで来たからか、空は完全に木々に覆われ、辺りは薄暗くなっている。いい加減歩き飽きた天花がゴネようと口を開きかけるが、少年か少女が突然立ち止まり振り返った。
天花
「うん?」
少年か少女
「
薄暗いからなのか、そういう気質なのか。
出会った時の面影は無く、少年か少女からは表情が失せている。かと言って敵意は無く、逆もまたしかり。しかし華奢な身体からはなんとも言い難い威圧感が漂う。
天花
「…」
少年か少女
「お答えいただけないのであれば、この先へはご案内できません」
天花
「…オレが」
少年か少女
「…」
天花
「それオレが言うやつだろ〜???」
少年か少女
「????」
気の抜けた少年が口を開くより、今度は天花の口が開く方が早かった。
天花
「なぁんだよ〜!こう、アイツが目を付けた奴に向かって"極東からの遣いで来た"って!?カッコつけたかったのに!?なんで先に言うのかね!?おぉん!?」
ふてくされて地面をジタバタ転がるその姿に少年か少女は小さな声で「ごめんなさい…」と応えるしか出来なかった。そしてそんな主は見えないかのように真っ直ぐに銀鈴が向かってくる。
銀鈴
「…貴方は何も見ていない。良いですね?」
(威圧)
少年か少女
:「は、はい…」:
銀鈴
「では、
少年か少女
「っはい、握って石の波長に合わせればいいのですよね?」
銀鈴
「はい。鍵は外してありますから」
少年か少女の手のひらに黒くころんとした石が乗せられる。黒い石は影法師と同じく全く光を受け付けない。少年か少女は不思議そうに少しの間それを見つめるとひと息ついて手のひらを閉じ、目を閉じて手の中の小さな石に集中する。
少年か少女
「――――…」
――――――――
―――――――
――――――
―――――
風が吹き抜けて往き、枝葉を揺らし心地好い音を響かせて薄暗い森の中にゆらゆらと陽を差し込む。
影法師からの伝言を受け取った少年か少女がゆっくりとその目を開く。ほんのりと疲れの色を浮かべながらひとつ息をついて手を開くと、役目を終えた石が形を失くし、煙り状の闇が少年か少女の手のひらに溶け込んで消えた。
少年か少女
(…!影法師様…)
銀鈴
「ふむ。使い切りの石、でしたか」
少年か少女
「ぇ…あ、∑あ!?あの、ごめんなさい!石が…っ」
銀鈴
「其れは
途端、薄暗い森がまるで霧が晴れるように陽当たりの好い穏やかな草原の景色へと変えていく。
銀鈴
「おや、此れは」
少年か少女
「ようこそ!"ルノマの集落"へ!」
軽くお辞儀をして微笑む少年か少女。その奥には確かに賑やかな集落が見えている。
カティリア
「ボクはカティリアといいます。試すようなことをしてしまい申し訳ありませんでした」
改めて頭を下げるカティリアと名乗った少年か少女か。
カティリア
「さ、こちらへどうぞ」
集落を指し示すカティリアについて行くべく天花を振り返ると完全に
カティリア
「!?」
銀鈴
「…」
天花
「っうおああああぁぁぁぁぁぁああああああああぁぁぁっっ!?!?!?」
銀鈴
「…目は、覚めましたか?」
天花
「おきたおきたおきた!!おきた!!おきたからぁぁぁぁぁぁッッ!!!!!」
一切、声のトーンにも表情も変わらない銀鈴にカティリアは引いていた…。やっと起き上がった天花を連れ、カティリアの案内で集落へと入る。小さな集落ながらとても活気のある人々がそこには居た。どうやら商店の多い通りを抜けているらしく様々な物が並んでいる。衣服、小物、食べ物。でもそのどれにも統一感が無くてどこかちぐはぐな印象を受けた。通りを抜ける間にカティリア達は住人達から気さくに声を掛けられ、軽く挨拶をしながら進む。賑やかな通りを抜けて、木々のトンネルをくぐって丘を登り、やがて静かな開けた場所へ出る。集落の入口よりも少し狭い草原。あちらこちらに小さな泉が点在している。
天花
「オマエここの守護者なんか」
カティリア
「えぇ、まぁ、元々居た神様の代用みたいなものですが」
天花
「ほーん?で、そこの祠がオマエの住処か」
カティリア
「はい。訳あって神様の家を借りているんです」
「ふーん」と興味無さそうに泉をのぞきながら返事をする。
天花
(統一感の無い集落と守護者ねぇ…集落跡って呼ばれてたところを見ると最近寄せ集めて作ったんかねぇ)
カティリア
「さて!と、風が変わりましたね」
天花
「おん?」
カティリア
「ひと雨来そうです。どうぞこちらへ。おもしろい景色をお見せできると思いますよ」
天花
「?雨、全然降りそうな感じねぇけど…つかただの雨だろ???」
カティリア
「確かにただの雨ではあるんですけど、見る場所によっては綺麗な景色が見れるのですよ!」
天花
「ふーん?」
カティリアは先程とは変わって嬉しそうにはしゃぎながらふたりを手招きした。カティリアに続いて祠へと入る。祠の中は洞窟に繋がっていた。明かりのない祠の中で3人の周りにどこからともなくぽわぽわと光の玉が寄ってきてふわりふわりとまとわりついてきた。
天花
「お?お?なんだコイツら」
カティリア
「この祠に昔から棲んでる妖精ですよ。この子たちを明かりに進みます」
では、と歩き出す。カティリアの案内でかなりの距離を地下へと下りてきた。潜れば潜るほどに空気は締まっていく。
天花
「だんだん神域らしい空気になってきたな」
カティリア
「ルノマはこの世界を司る神様の1神が治めていた土地で、神様とその守護者の一族が暮らす隠れ里だったのです」
天花
「肝心のソイツの気配が無いのはそういうことか?」
カティリア
「…えぇ。おふたりが浜で対峙していたあの集団、詳しくは落ち着いてからお話ししますが…彼らにここの神様は殺されてしまったのです」
天花
「神殺しねぇ。そんな力は無さそうだったけどな」
カティリア
「さっきの集団は下位のクラスでしたから。ここを襲撃したのは最高位のクラスでしたので」
天花
「ふーん?クラスなんてのがあるんか」
そうして話していると周りを漂っていた光の妖精が一斉に先へ飛んで行った。
天花
「お?」
カティリア
「そろそろ着きますよ」
進行方向からはほんのりと光が差し込んでいる。
やがて目が眩むような光に包まれ、視界が晴れると地下空間とは信じられない光景がふたりを迎えた。果ては見えないほど遠く、天井は空高く吹き抜けている。一面の碧く透き通る地下水、その中を悠々と泳ぐ淡く輝く白い大魚が水面の蓮によく似た大輪の花を揺らす。あちらこちらには大小様々な浮島が草花を茂らせて、吹き抜けから届く陽射しに照らされ輝いていた。言葉を失うふたりの腕をカティリアが引いて、浮島同士を繋いでいる橋を渡る。たどり着いたのは地下の中心辺りだろうか。ひときわ大きな浮島。1本の大木が根を張り、寄り添うようしてある屋敷。カティリアに急かされてその屋敷へとあがる。数段の石段の先は朱塗りの柵にぐるりと囲われた板の間。その奥に居住スペースが見えた。
カティリア
「ギリギリでしたね。ふふ」
天花
「うん?」
カティリア
「そろそろ来ますよ、っほら!///」
天花
「!」
カティリアが指を指したのにつられて今通って来た景色を振り返ると瞬く間に激しい雨が降り始め、その雨粒が容赦なく叩きつける。しかし空は曇っておらず、雨粒は光を乱反射して地下空間を眩かせる。
カティリア
「ね?」
天花
「すげ…」
カティリア
「外よりもおもしろいもの、見れましたね」クスクス
雨粒は水面に輪を作り美しい紋様を描き、降り注ぐ音は空間で反響して滝のように圧倒される音を響かせる。水面に近い岩肌は碧とそこに浮かぶ紋様をその肌に映していた。通り雨だったらしく、雨はすぐにあがった。静まり返った地下。しかし今度は雨に濡れたあらゆるものから雫が滴り、水面に落ちては小さな音を立てる。その小さな音もあちらこちらで反響し、心地好い音を奏で始めた。しばらくその光景を眺めていると背後で床が鳴った。
「カティリアさま…?」
カティリア
「リクちゃん」
お昼寝してたんですか、と声をかけながら眠そうに目をこする女の子に寄るとその手を引いて戻ってくる。
リク
「?カティリアさま…このひとたちは…?」
カティリア
「大事なお客さまですよ。大丈夫」
リク
「カティリアさまの大事なお客さま?…っじゃあ!このひとたちも神さまなの!?///」
カティリア
「!っそれは」
天花
「おう!そうだぞ!オマエ、リクっていうのか?」
なんの躊躇いもなく言うと奥から現れたリクという女の子を手招きした。リクは人懐っこい笑顔を浮かべると天花の膝に乗った。
リク
「神さまならリクの病気治せる?」
天花
「ん?いや、診ないとわからんけど…オマエ病気なのか?」
さみしそうに笑って下を向くリクからカティリアを見ると困り顔をして静かに頷いた。
リク
「リクね、病気だから外に出られないの…」
天花
「そっか〜。外で遊びてぇよなぁ」
リク
「うん…」
天花
「リク、ちょっとこっちの銀色の兄ちゃんと一緒に待っててくれるか?」
リク
「銀色のお兄さんと???」
天花
「そ!俺カティリアと神様の大事な話してくるから、終わったら遊ぼうぜ!」
リク
「!ほんとー!?///」
天花
「おう!待ってられるか?」
リク
「うん!待ってる!///」
「じゃ、頼んだわ」と銀鈴に手を振ってカティリアを目で促す。天花とカティリアが奥へと消えて行き、入れ替わるように1匹の黒猫が近寄ってきた。リクの髪飾りとお揃いの花飾りを首輪に着けた黒猫。その金色の瞳は銀鈴を品定めするように見ている。
リク
「ピケ…」
銀鈴
「ピケという名なのですか?御揃いの花飾りをしていますね」
リク
「うん!ピケはパパとママがリクのお誕生日に会わせてくれた家族なの!」
言いつつしょんぼりするリク。ピケは一定距離まで近寄るとそれ以上は近寄らずにリクをじっと見つめた。
リク
「…ここに来てから、ピケに嫌われちゃったみたい…なの…」
銀鈴
「…」
リクが手を伸ばすとピケは凄い剣幕で威嚇をする。横で見ている銀鈴はその理由に見当をつけていた。
リク
「…ピケ…」
銀鈴
「リクさんは、此処の生まれではないのですか?」
リク
「うん。リクは…えっと、地図はわからないんだけど…アンダレアって国に住んでたの。そこがホーリールーラーに攻撃されて、
銀鈴
「旅をして来た、という訳ではないのですね。ふむ」
リク
「?うん」
銀鈴
「…」
ふとリクの影が波打った気がして背後を見つめる。銀鈴の視線にそれはぞわりと形を顕し、それに気付いたピケが再び激しく唸り出す。
リク
「ぴ、ピケ…!?」ビクッ
眼光鋭く牙を剥くピケのあまりの剣幕に泣き出してしまうリク。
銀鈴
(…これは憑き物、生霊の類い…いや、少し違う気も…)
リクの背後に顕れたそれはにやりと歪な嗤みを浮かべた。
リク
「ピケ…っそんなにリクがキライなの…?」
銀鈴
「…ピケは」
リク
「?」
ぼろぼろ涙を流すリクの頭を撫でながら視線を移す。
銀鈴
「ピケは貴女を病気から守ろうとしているのですよ。貴女の中の悪いモノに怒っているのです」
リク
「え…?」
銀鈴
「ピケが貴女に近寄らないのは、ピケ自身に何かあった時に貴女を守る事が出来なくなってしまうので離れて威嚇をするしかなかったのです。そうですね、ピケ」
リク
「…リクを、守ってくれてた…の…?」
答えるようにピケは柔らかい声で鳴いた。その様子に胸につかえていたものが溶けて消えたリクが安心して泣き出すとソレは急に牙を剥いた。
リク
「!!っい、いた…っ!!いたい…っあたまが、いたい…っ!!」
突然内側から頭が膨らんで圧迫されるような激しい痛みに襲われうずくまるリク。銀鈴が影に潜むそれを睨み付けると、その眼光に影は霧散した。
リク
「あ、あれ…いたいの、なおった…?」
銀鈴
(…此の程度では祓えませんね…)
ーなでなで。
リク
「お兄さん?」
銀鈴
「痛いのは消えましたか?」
リク
「う、うん。お兄さんが治してくれたの?」
銀鈴
「一時的にですが。ですが、リクさんの病気は大体判りました」
リク
「!ほんと!?リク、元気になれる!?」
銀鈴
「私の力では今の様に痛みを抑える程度が限界ですが、私の義兄であればリクさんを治せるかもしれません。しかし、義兄と連絡を取る方法が無いのです」
リク
「そう、なの…。あ、さっきの金色のお姉さんは?」
銀鈴
「
リク
「お兄さんのお兄さんってどんな人?その人も神さまなの?」
銀鈴
「彼の人は神ではなく、皇ですね」
リク
「わぁ!王さまなの!?」
さっきまでの痛みはどこへやら。リクはすっかり銀鈴に懐いて色んな話をする。離れて見ていたピケもちょこんと銀鈴の後ろに落ち着いた。
銀鈴
(…此れは私や天花様では祓い切れない…何とかして彼の人と連絡が取れれば良いのですが…)
【地下屋敷 離れ】
カティリアに案内されて屋敷の離れに来た天花。10畳程の広さの部屋。中は何の変哲もない部屋だが造られた場所が変わっていた。屋敷の建つ浮き島の大木。その幹の高い位置に太い枝と足場を組み合わせて造られている。
天花
「なんでこんなとこに造ったんだ?」
カティリア
「この地下空間は、途中お話した通りルノマの神様が棲んでいた場所です。この屋敷はその守護者が住んでいた家なのです」
天花
「ふん?」
話をしながらカティリアは部屋の窓を開ける。
カティリア
「…この高さは、ちょうど座った神様の目線の高さなんです」
天花
「あーそういう。こっちのカミサンは随分と優しいんだな。神と同じ目線に居る事を許すなんて」
カティリア
「天花様と銀鈴様はこれから旅をなさるのでしょう?おふたりはこの世界の現存する神様に出逢うこともあるでしょう。この部屋の造りの理由はその時に詳しく知れるでしょう」
窓の外、景色とは違う何かを見ている眼差しでカティリアはそう言った。
天花
「……。で、俺たちはとりあえず何をすりゃあいいんだ?」
カティリア
「ボクは影法師様より、おふたりのサポートをするようにと仰せつかっています」
天花
「あっそ。じゃあ俺から気になること訊くぞ。この集落は何だ。集落跡って聞いたぞ俺は。そもそも上の奴ら元からこの場所に居た奴らじゃねぇな?」
カティリア
「そうですね。まずは浜に居た集団から。彼らは"
天花
「はぁーん。そういう」
カティリア
「
天花
「アホらし。ここの容量にも限界があんだろ。いつまでそんなキリの無ぇ事するつもりだ」
カティリア
「それなんです」
天花
「どれです?」
カティリア
「この近隣の町や集落、ここの集落もですが安心して暮らせる日々を約束したいんです。それにここが落ち着かないとボクも自由に動けないですし。ボク一応ここの神様の代理なので。まずはルノマ一帯の調律をお願いしたいんです」
天花
「あー…めんどくせぇ…どうしろってんだよォ」
心底面倒くさそうな声を出して後ろにばたんと倒れて大の字に転がる天花。そんな天花の事は気にせずカティリアは少し緊張して続きを話し出した。
カティリア
「まず、どうにかして
天花
「それで反魂でもしようってのか」
カティリア
「そうです。ボクの命全部を使えばきっと…!!」
天花
「それはどこの世界だろうが禁忌とされているのは解ってんだろ。それにオマエが死んじまったらサポートどーすんだよ」
カティリア
「それは…」
天花
「……んま、方法がないでも無い」
カティリア
「え…!?」
天花
「オレの義弟がよォ、
カティリア
「本当ですか!?」
天花
「ただ向こうの世界を出発する時、ソイツは影法師に呼ばれなかった。アイツのうっかりなら後から送り出すかもしれねぇが何とも言えんな」
カティリア
「そう、ですか…」
天花
「祈れ。絶っ対ぇ諦めないしぶとい祈りなら世界を越えるかもしれんぞ?なんてな。で、そのカミサン蘇らせたらこの辺り一帯は安泰なのか?」
カティリア
「祈り…。そうですね。今できることは祈ることぐらいでしょうか。神様を蘇らせたら守護者も蘇らせなくてはいけません。神様は絶対に手を出せないからです。神様の代わりに攻撃を許されたのが守護者なんです」
天花
「ふーん?そんなに強ぇ人間が居るのか」
カティリア
「人間…そうですね。彼らは元は他の神様と同じ神竜でした。色々あって、9神のうちの1神が突然人型に変わってしまったのです。それを人は罰だと言いました。人型に変えられた神竜は償いの為に他の神竜の守護者として生きていくことを選んだのです」
天花
「そりゃ意地の悪いカミサンも居たもんだ」
カティリア
「この土地の神様であるシャイニーエンペラー様を蘇らせること、その守護者を呼び戻すこと、それらがまずやるべき事ですが…」
天花
「…リクだな」
カティリア
「はい…」
天花
「今銀鈴が視てるだろうが」
カティリア
「リクちゃんには、この集落の位置を組織に知らせる魔物が植え付けられているんです。それがボクには切り離すことも消滅させることもできなくて…リクちゃんには悪いことをしてしまっているのはわかっているのですが…強い魔法障壁で護られているこの地下に閉じ込めているんです」
俯くカティリア。ひとりでずっとリクにも外の住人にも嘘を吐き続けている事に罪悪感を感じているのか酷く沈んだ顔をした。
天花
「そう暗い顔すんなって。それを解決する為にオレ達は送られて来たんだ。もっと歓迎してくれてもいいんだぞ?」
カティリア
「天花様…」
天花
「あとオレに様は要らねぇぞ。気楽にいこうや」カッカッカッ
カティリア
「では、天花さんとお呼びしますね」
天花
「まぁいいだろ」
カティリア
「あ、そうだ。ヒノワの所に潜入してるボクの友達今日帰ってくるんです。良かったらぜひ会ってください」
天花
「お、そうなのか。どんな奴なんだ?」
カティリア
「そうですねぇ。責任感が人一倍強くてとても頼りになる子です」クスクス
そこまで言ってカティリアはふとまた暗い顔をした。
天花
「何だ?」
カティリア
「ボクは責任を彼だけに背負わせてしまった。
天花
「なんとかなるって。んじゃ、下戻ろうぜ。リクとの約束守らにゃ。遊んでやるって約束したからな」
そう言って天花はさっさと部屋を出て行ってしまった。カティリアはしばらく自分の手に視線を落としたあとぼんやりと窓の外を見つめてため息をこぼすと戸締りをして部屋を出た。
◈◈◈
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