サイキョウのお稲荷さま。
雪白@おっさん
第1話【異界渡り。】
真っ白な雪が降り
そんな屋敷の門を
「お帰りなさいませ!
曇天に響く声に顔を上げれば、玄関に小間使い姿の二人の少女と
天花
「おう!帰った!みんな元気か?」
「もちろんですよ!!みんな元気ありまくりですよ〜!!」
「傘お預かりします」と二人の少女は天花と銀鈴からそれぞれ傘を受け取り、玄関へと入った。土間へと上がれば、少女の
「お帰りなさいませ、銀鈴様。早速で申し訳ございませんが
銀鈴
「只今戻りました。何ですか?」
琉々
「 "
銀鈴
「夜莉殿自ら迎えに?…承知しました。では、夜莉殿への報告は
琉々
「畏まりました」
琉々は礼をしたまま主を見送る。
◈◈◈
奥座敷
【
屋敷の最奥に位置する座敷へと遅れて入る銀鈴。
銀鈴
「失礼致します。遅れて申し訳御座いません」
天花
「おん?寮のことだろ?構わんよ」
天花に声を掛けられていると上座から呼ばれる。
【稲荷家 当主】
「雪ン中ご苦労だったな。もうあらかたの話は終わってっから気にすンな。オマエは寮を優先してくれ」
銀鈴
「御久しぶりに御座います。綾狐様」
綾狐
「あーあー!いいって!いいって!そういう硬っ苦しいのはナシだナシ!」カカカ
天花
「オマエ、アイツよりもオレに似たよなぁw」カカカ
綾狐
「確かにw さぁて!ここはもういいから本命に会いに行けよ」
あっけらかんと笑うその姿は男物の袴姿で、絹糸の様な美しい黄金色の長い髪を一本に結った歳若い女。愉快そうに笑う目元は雪肌をうっすらと桜色に染まり、思わず魅入ってしまう柘榴色の瞳をしている。そんな綾狐に「早く行け」と言わんばかりにホレホレと手を振られてふたりは座敷を後にした。次に二人がやって来たのは屋敷の地下、隠し通路。
ひんやりとした通路を進むと目の前には立派な観音扉が立ち塞がり、ぎっ、と重く軋みながらその扉を開く。中には
天花
「よぉーう!来たぞ!」
銀鈴
「失礼致します」
「…久しぶりの挨拶が
薄衣の奥から近付いてくる鈴の
天花
「オマエとオレに今さら挨拶もなんもねぇだろうよ」カカカ
牢の主
「全く…御前はほんに変わらぬ。ふふ」
銀鈴
「御久しぶりに御座います。
輝夜
「あい。
牢の格子を挟んで対面する天花と輝夜。
その姿は瓜二つ。天花が天真爛漫にガサツを足した様な雰囲気なのに対して、輝夜は落ち着き、艶のある柔らかい雰囲気だ。
天花
「んーで?肝心のヤツはどこだ?」
「…会うのは
天花
「…ふはっw オマエそんなヤツだったか?w」
輝夜
「御前が我等と別れて
呆れながら
輝夜はくすりと笑いながら闇を呼ぶ。
輝夜
「影法師、
天花
「やっと始まんのか」
影法師
「…先に。主等に渡した力がそろそろ馴染む頃合いかと思うてな」
天花
「んあ?あぁ、まぁ。馴染んだっちゃあそうだな」
銀鈴
「同じく」
影法師
「上々。向こうへの道は既に通した。だが、
天花
「え?なんでそれで呼んだし」
影法師
「
天花
「ほーん?」
影法師
「先に奴に崩壊させられれば
天花
「さらには世界が急激に成長したってこたぁ、文明も成長したってこったろ?到底、その異常な速度に文明が耐えられるとは思えねぇがな」
影法師
「
天花
「ふん?」
輝夜
「何だ、不満かえ?」
その問に天花は口角を上げて喉元でクッと笑った。
天花
「なぁに。攻略難易度が上がっただけだろ?なんてこたぁねぇ」
輝夜
「昔の様な遊びとは訳が違うぞ?」
天花
「くははっw まぁまぁ、硬っ苦しいのはナシナシ!せっかくの異世界旅行なんだ。旅は愉しまねぇと損だぜ?」カカカ
心底楽しみに笑う天花。
その様子にはさすがの輝夜も呆れ顔を見せた。そのままあらかたの打ち合わせをし終えると銀鈴が「其れでは」と席を立つ。
天花
「おん?」
銀鈴
「私は先に
天花
「!あぁ、んじゃまた明日な!忘れもんすんなよ?」
銀鈴
「貴女ではあるまいし…。其れでは御先に失礼致します」
一礼をして座敷を出ようとするそれを輝夜が呼び止める。
銀鈴
「…」
輝夜
「此の
銀鈴
「良く、心得ております」
天花
「おい」
輝夜
「うむ。其方であれば成し遂げような。呼び止めて済まぬな。行ってよいぞ」クスクス
天花
「おう。無視してんじゃねぇぞテメェら」
「では」と再び一礼をして銀鈴は座敷を出ていった。地下を出た銀鈴は綾狐が当主を務める『稲荷家』の屋敷から少し離れた別の屋敷へと来ていた。ここは銀鈴を筆頭に、稲荷家に仕える
銀鈴
「遅くなりました。其れでは会議を始めましょう。
琉々
「畏まりました」
銀鈴
「頼みますね。そして通常、御当主に付いてる夜莉殿には頭目代理補佐を兼任して頂きます。また、輝夜様の遣いは変わらず飯綱殿に御願いします」
飯綱
「了解しました」
銀鈴
「
了解の沈黙。
銀鈴
「では、私からは以上です。以降は琉々に任せます。
「では琉々」と声を掛け、寮を出た銀鈴は任務の準備をする為に管寮から少し山を登った竹林に入り、寮よりも少し小さな屋敷へと入る。この屋敷には中心部に
「やっぱりここに居た」
銀鈴
「飯綱様?」
飯綱
「もぉ〜…
頬を膨らませながら黒髪の少年が銀鈴の隣に座る。
銀鈴
「…父上、
飯綱
「そう!それがいい!それからすねてないよーだ!会議は琉々に任せてきたよ」
銀鈴
「……。何か御用でしたか?」
飯綱
「ん?んふふ」
普段と変わらず凛とした姿勢を崩さない銀鈴。しかし、
飯綱
「銀はさ?おっきな任務の前とか、悩みがある時とか、考え事をしたい時とか。必ずここへ来るよね。あとそれ、顔。一生懸命顔に出さないようにしてるでしょ?
銀鈴
「…」
「まだまだ修行が足りませんね」と呟きながらため息を吐き出す。
飯綱
「……。ねぇ、銀。ごめんね…」
銀鈴
「はい?」
飯綱
「キミの命を縛り付けて…さ」
「嗚呼」と、銀鈴は心底くだらないという顔をすると父を見据えた。
銀鈴
「何を言い出すかと思えば。…此は誰かがやらねばならぬ事。
飯綱
「…ふふ。そう。銀がそう強く決意してるなら、良い…のかな…」
銀鈴
「…」
飯綱
「…っでも!!おとーさんとしては!!」クワッ
銀鈴
「……父上?」
飯綱
「たとえ、どんなに忠誠を誓った主人でも!!キミを、たったひとりの
銀鈴
「……」
飯綱
「でも銀が決めた事なら止められない。止めちゃいけないって思ってる。
銀鈴
「心得て居ります」
飯綱
「あとこれね!あげる!おとーさんお手製の御守りの数珠!銀が無事である様にたくさんたっくさん気持ちを
銀鈴
「…有難う御座います…父上。身に着けさせて頂きます」
「それじゃあ会議に戻るね!」と飯綱は嬉しそうに手を振りながら駆け足で寮へと戻って行った。
銀鈴
「……」
申し訳ありません父上。
貴方の其の願いには、応えられません。
◈◈◈
【稲荷邸 大庭】
数ある庭の中で一番大きな庭。雪は止み、風は凪いで、雲は無く。空には満天の星と満月。降り積もった雪は月明かりを返して淡く輝いている。その庭で天花と輝夜は並び月を見上げていた。
輝夜
「影の話で未だ役目が終わった訳では無い事も、薄れていた記憶もはっきりと思い出したわ。ふふ」
天花
「ふはっw オメェがか?珍しい事もあったもんだ」カカカ
輝夜
「
天花
「わかってらァ。冗談だよ」
輝夜
「一段落着いて
天花
「んーまぁ、
輝夜
「で、あろう?」
何とも言い難い表情で笑う輝夜。
なんとなくそちらを見ないようにしていると、ふと、背後に気配を感じた天花は静かにその場を離れた。
「…誰か、そこに居るのですか…?」
輝夜
「!」
天花
「夜莉のヤツ帰ってきたのか。ふーん?」
興味津々に見ながら笑い、縁側の戸に手をかけて眩しそうに目をこする少女に寄り、ひょいとその体を抱き上げた。目が慣れ、徐々に意識がはっきりとした少女は間近に見る天花の顔と自分の状況に気付いて急に腕から逃れようと暴れ出した。
少女
「っあ、あの…!ごめんなさい!ごめんなさい!放してください…っ!」
天花
「∑あででででで!!こらこら!!暴れるな!?落としちまうだろ!?」イテテテ!!;;;
輝夜
(ふふ。まるで猫の仔の様な娘じゃ)クスクス
抱かれた少女は天花の両肩を真っ直ぐ腕で突っ張って押し返し、思いっきり仰け反って半泣きになっている。そんな少女に天花は空いてる片腕で軽く羽織っていた羽織りで自分ごと少女を思いっきり包んだ。
少女
「∑わぁ!?;;;」
天花
「ふははっw これで暴れられねぇな!」
少女
「っあの、本当に、わたしの…わたしっ、汚いので…っ」
ーすり…。
少女
「!?」ビクッ
天花
「オマエは綺麗だよ。汚れてなんかねぇ」
固まる少女の髪に鼻先を擦り寄せて微笑む天花。
少女
「……」
輝夜
「急に訳も判らず連れて来られて不安で眠れなんだか。
少女
「…え、あの…」
少女を髪を慈しむように撫でると途端に少女はゆるゆると眠りに落ちた。そのままふたりで穏やかに寝息をたてる少女の寝顔を見ていると不意に声がした。「ここに居られたのですか」と振り返れば困り顔の飯綱が立っている。
飯綱
「全く…あまり
輝夜
「
天花
「…息子、オマエにそっくりだぞ…」
飯綱
「似てますか!?///(喜)」
天花
「あははw そーいうとこは似てねぇなw アイツはオマエと
笑う天花に飯綱は一層嬉しそうに、でもどこか哀しげに目元を細める。
天花
「!あ、ちょうどいいや。そこ開けてくれ。この娘を寝かせてやらねぇと」
飯綱
「?おや、その子は夜莉くんが」
輝夜
「
飯綱
「!」
輝夜
「無論、今の出来事は
話しながら天花と飯綱は部屋へと上がり、布団に少女を寝かせてやると眠る少女の髪を撫でて音を立てないように気をつけながら部屋を出る。
天花
「飯綱」
飯綱
「?はい」
天花
「またオマエの息子借りてくな」
飯綱
「…あの子は、お役に立てておりますか?」
天花
「当たりめぇだろ?」
飯綱
「…そう、ですか」
天花
「あ、そうそう!その
それだけ言うと天花は屋敷の奥へと消えて行った。見送った輝夜は小さくため息をこぼし、飯綱を連れて自室である座敷牢へと戻って行った。
翌早朝ー。
輝夜の牢の前には天花、銀鈴、飯綱、夜莉、影法師が揃っている。
影法師
「
天花
「オレはいつでも構わんぞー」
銀鈴
「私もです」
影法師
「
影法師が目線をやると飯綱が牢の鍵を外す。大きな金属音を立てて外れた錠を除け、静かに戸を開く。
影法師
「此の奥に儂の域が在る。其処から主等を送る故 付いて参れ」
そう言ってさっさと奥に消える影法師に続いて天花が牢に入る。そこでふと思い出した様に輝夜を振り返った。
輝夜
「?なんだ」
天花
「んーじゃ、ま!いってくらぁね!こっちよろしくな!」
輝夜
「誰に向かって物を言っている。全く。緊張感の無い奴よなぁ。さっさと行くがよい」クスクス
その言葉に振り返らず手を振りながら天花も奥へと消えた。
銀鈴
「…」
夜莉
「頭目?」
座ったまま動かない銀鈴に飯綱が声を掛けようとしたその時ー
銀鈴
「父上。昨夜は
飯綱
「っ…ならぬ。主を待たせるな」
銀鈴
「銀鈴を此処まで育てて下さり、有難う御座いました。最期の任務、
飯綱
「!…っぎん」
銀鈴
「行って参ります。父上」
飯綱
「…っうん、うん!行ってらっしゃい!銀鈴!」
「では」と輝夜に一礼をして銀鈴も奥へと消えた。
静かになった座敷。
微かに鳴る畳を打つ音。
輝夜
「済まぬ、では許されまいな。
姿勢を正して、深く頭を下げる輝夜。
飯綱
「!っ御顔を上げて下さいませ輝夜様…! 確かにこの任務、あの子が重要な鍵と成ります。寂しいのも、悔しいのも、ただただ見送る事しか出来ない歯痒さもあります。ありますが、総てはあの子が己の意志で選んだ道で御座います。さすれば父がすべきは笑顔で送り出す事と思って…思って、おります…のに…っ」
輝夜
「…確か、
夜莉
「畏まりました」
輝夜
「綾狐へは
◈◈◈
【座敷牢最奥/影法師の領域】
天花
「あいっかわらず真っ暗だなここ」
影法師
「別れは済んだのか」
天花
「
影法師
「
銀鈴
「遅くなりました」
天花
「ちゃんと
銀鈴
「はい」
「そうか」と少し寂しそうに笑う天花。いつもは見ない表情に戸惑う。
影法師
「では送りを始める。
天花
「オマエが弾かれる?マジで?」
影法師
「儂は全能では無い。現地での行動は総て御主に任せる。其の中でもし、儂の息の掛かった者だと思う者に
天花
「ほーん?」
影法師
「飛んだ先の付近に "ルノマの集落跡" という名の場所が在る筈だ。
天花
「行き当たりばったりってか」
影法師
「そういう事だ。頼んだぞ銀鈴」
銀鈴
「承知致しました」
天花
「おい、なんでそっちに振る」
「では始める」と影法師は
それはほんの一瞬の出来事。
影法師
「―――ふむ。割と近くへは送れたか」
目閉じ意識を集中させる。
影法師
「…しまった。奴を呼び寄せるのを忘れておった」
◈◈◈
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