第31話 プレゼント

 箱根の街並みは和風な感じで非日常な感じがして楽しかった。

 箱根なんて人生で数えるほどしか来たことが無いから一人で歩いているだけでも楽しそうなのに、隣には乃彩がいる。

 だからなのか、今日は特段楽しく感じる。

 歩いているだけで楽しさを感じるのなんて本当にいつぶりなんだろうか?


「次はあそこのお店見に行こうよ。あのガラスの置物めっちゃ気になる!」


「わかったよ。今日は本当にテンションが高いな。乃彩は箱根に来たことが無いのか?」


「いいや、来たことが無いわけじゃないんだけど。素で話せる人と来るのは初めてだからかもしれないね。本当に楽しいよ」


 乃彩は本当に楽しそうにしながら、僕の手を引いてくる。

 いつも大人びた姿を見せる乃彩がこうやって見せる幼い一面にドキリとしてしまう。

 やっぱり乃彩は美人だ。

 サラサラと流れる綺麗な銀髪に翡翠色の綺麗な瞳。

 僕よりも少しだけ低い身長。

 何度もナンパされているだけはあって贔屓目を抜きにしても乃彩は本当に綺麗だと思う。


「乃彩って友達いないのか?」


「龍斗……あんたデリカシーないってよく言われない?」


「あんまり言われたことないけど。僕にも友達がいないからかもしれないけど」


 前まで友達を作ろうとなんてしていなかったし、実際問題必要だと思っていなかったから友達なんていない。

 人のこと言えないな……僕も。


「まあ、教員になってからは一緒にどこかに行くような友人なんて全くいないわけだけどさ」


 拗ねたようにそっぽを向いて乃彩は言った。

 教員という職業は休みもあんまりないし、それなりにブラックな職業だと聞いたことがある。

 プライベートで関われるような友人もいなくなってしまうのかもしれない。


「なんで乃彩は教員になったんだ?」


「あれ? 私って教員になった理由とかって話してなかったっけ?」


「全然聞いてないな。だって乃彩って自分自身の事をあんまり話さないじゃないか」


 秘密主義者ってわけではないけど、僕にはあんまり自分自身の事を話してはくれなかった。

 僕も踏み込んで聞こうとしたことは無いので知らなかった。

 何か深い理由があるんだろうか。


「それはそうかも。別に隠すような話じゃないし教えてあげるよ。でも、今はあのお店見たいから部屋に戻ってからでもいい?」


「別に今すぐ聞かないといけないような事でもないから全然いいよ。じゃあ、見に行こうか」


 乃彩がさっきから気になって仕方がないガラスので作られたコップや置物が並べられている雑貨屋に入る。

 明るいオレンジ色の電球で店内には落ち着いた音楽が流れている。

 この空間では時間がゆっくり流れているかのような錯覚すら覚えてしまう。


「みてみて~この蛍石で出来たネックレス綺麗じゃない?」


 乃彩が持っていたのは粒状の蛍石が繋がっているネックレスだった。

 確かに綺麗で乃彩の綺麗な銀髪とよく合いそうだ。


「綺麗だな。乃彩の銀髪にも似合いそうだし。いいと思う」


「そう? じゃあ、買っちゃおうかな。龍斗がそんなに素直に褒めてくれるなんて珍しいし。私自身気に入っちゃったからさ」


「そうなのか? じゃあ、僕が買ってもいいか?」


「なんで?」


 心底不思議そうに乃彩は首を傾げて見せた。

 一つ一つの動作が可愛くてドキドキしてしまうのを乃彩に悟られないように隠しながら僕はできる限り笑顔で告げる。


「だって、乃彩にはいっつも助けられてるしさ。たまにはこういうプレゼントを贈りたいんだよ。ダメか?」


「龍斗がプレゼントを送ってくれるのなんて珍しいね。じゃあ、ありがたくもらうよ。ありがとね」


 乃彩はめいいっぱい綺麗な笑顔を向けてくれる。

 その姿が本当に絵画の中の女神みたいに見えて一瞬呼吸を忘れてしまう。

 それほどに今の乃彩の仕草は美しかった。

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