第29話 開幕! 温泉旅行

「やってきました! 箱根!」


「テンション高いな姉さん!」


「そりゃあ、そうでしょうよ。箱根なんて何年ぶりに来た事か。乃彩さん運転ありがとう」


「いえいえ~私も温泉きたかったし。皆でこうやって楽しく来れたんだから全然OKだよ」


 乃彩の運転する車に揺られて移動すること数時間。

 僕たちは目的の箱根温泉に来ていた。

 駐車場に車を止めてチェックインを済ませて荷物を部屋に置く。

 姉さんと乃彩が同じ部屋で僕が一人部屋だ。


「っと、荷物はこんな感じでいいかな。にしても一人で旅館の部屋を使えるなんて贅沢だな」


 旅行の話を両親にしたら快く費用を出してくれた。

 しかも三人分。

 二人はいつも優しく、僕たちのことを見守ってくれている。

 本当に両親には頭が上がらない。


「龍斗~開けて~」


「はいはい。今開ける」


「さっきぶりだね~というわけではいこれ」


「……は?」


 姉さんは部屋に入るなり飛びついてきて、僕にカードキーを渡して来た。

 なんで?


「乃彩さんが一時間くらい仮眠するって言うから起こしてあげて! 私は一足先に箱根を満喫してるぜ! それじゃ」


 いつもとは数段違うハイテンションで僕にカードキーを握らせて、部屋を飛び出していった。

 どうやら本当に一人で箱根の街を満喫するつもりらしく、全速力で駆けだしていった。

 いい年なのにあそこまではしゃげるのか。

 まあ、姉さんはまだまだ若いが。

 こんなことを乃彩の前で言ったら本当に殺されかねない。

 こんなところで死にたくはないので、絶対に言わないようにしよう。


「じゃあ、乃彩の様子でも見に行くか」


 姉さんから受け取ったカードキーを使って部屋に入る。

 ベッドの上に乃彩は寝ていて穏やかな寝息をたてていた。

 乃彩の寝息以外の音がほとんど聞こえない部屋の中で僕はもう片方のベッドの上に腰かける。

 良い旅館なだけあってかなりクッション性が高くて弾む。


「運転頑張ってくれたもんな」


 目にかかっている前髪をどかしながら乃彩に語りかける。

 もちろん乃彩は寝ているから反応が返ってくるはずもない。

 だとしても、感謝を伝えずにはいられなかった。


「乃彩にはいっつもツンツンしてるけど、本当は感謝してるんだぜ?」


 普段は乃彩に感謝を伝えられていないからこういう所で感謝を伝えておきたいのだ。

 いつも、僕に気を使ってくれてるしこうやって前を向いて生きていけるのも乃彩のおかげといっても過言ではない。

 だからこそ、乃彩がこうして寝ている時くらいは素直に乃彩を労いたい。

 乃彩に意識があると何故だか妙に恥ずかしくなって中々素直になれないわけだが。


「許してくれ。本当に感謝はしてるんだ」


 もう一度乃彩の頭を撫でて僕は一時間を過ごすのだった。

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