第2話 青空の下で
七月の風は、生ぬるくて、潮の匂いがする。
放課後のグラウンドを抜ける風に吹かれながら、悠真は首から下げたカメラを握りしめた。
「――こっち! 光の感じ、今すごく綺麗!」
陽菜が手を振っている。
小高い丘の上、海を見下ろせる場所で、彼女は逆光の中に立っていた。
陽に透けた髪が金色にきらめいて、まるで夏そのものだった。
悠真はカメラを構えた。
シャッターを切る瞬間、陽菜がふっと笑う。
その笑顔がファインダー越しに焼きついて、胸の奥で何かが音を立てて動いた気がした。
「撮るの上手だね、葵くん。」
「……いや、まだまだ。」
「でも、優しい写真だと思う。
ほら、空の青も、ちゃんと“見てる人の気持ち”の青になってる。」
彼女はそう言って、少し照れたように笑った。
悠真は何も返せず、ただレンズを見つめたまま小さく息をついた。
ーーこの人の言葉は、なんでこんなに心に残るんだろう。
その日の帰り道、二人で並んで歩いた。
悠真「これ好きでしょ?飲んで」
陽菜「ありがとう」
海沿いの防波堤を歩くと、潮風が髪を揺らした。
陽菜はスマホのカメラで空を撮りながら、ぽつりと言った。
「ねぇ、私、空が好きなんだ。 どんなときも見上げれば、そこにあるでしょ? だから、忘れたくないんだ―この空の色を。」
悠真は歩みを止めた。
陽菜の横顔を見つめる。
その瞳の奥には、どこか“終わり”を知っているような、静かな光が宿っていた。
「忘れるわけないよ。」
気づけば、そう口にしていた。
陽菜は少し驚いたように、でも嬉しそうに微笑んだ。
「……うん。じゃあ、約束ね。」
潮風の中で、小さな約束が結ばれた。
それがこの夏を変えることになるなんて、
そのときの悠真は、まだ知らなかった。
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