第3話 秘密

八月の光は、容赦なく眩しかった。

アスファルトの照り返しが足元から突き刺さるようで、蝉の声が空を揺らしていた。

写真部の夏合宿が終わってからというもの、悠真は毎日のように陽菜と外に出かけていた。

彼女は本当に、よく笑う子だった。

どんな小さなことでも楽しそうに笑い、海に沈む太陽を見ては、

「ねぇ、今日の空、ちょっと紫っぽいね」とか

「風が泣いてるみたい」なんて、詩のような言葉を口にした。

悠真はそんな陽菜を見て、ふとカメラを構える。

陽菜は気づいて、少しだけ照れたように笑った。

「そんなに撮ってどうするの?」

「…別に。なんとなく、撮りたくなるんだ。」

「ふふ、変なの。でも嬉しい。」

彼女が笑うたび、悠真の胸の奥で何かが温かくなっていった。

それは恋というよりも、もっと静かで、深い感情だった。

けれど、その日常はあまりにも儚いものだった。

八月十七日。

陽菜は学校を休んだ。

朝から連絡がつかず、写真部のグループチャットにも返信がない。

嫌な予感がして、悠真は放課後、彼女の家へ向かった。

玄関の前で、陽菜の母親と出会った。

疲れたような表情で、でも優しく微笑んでいた。

「葵くんね。……陽菜、あなたの話ばかりするのよ。」

「陽菜さん、具合が悪いんですか?」

母親は小さく頷いた。

「生まれつき心臓が弱くてね。でもあなたと出会ってから、本当に楽しそうなの。この町に来て、少しだけ“普通の女の子”になれた気がするって」

その言葉が、胸の奥で静かに響いた。

世界の音が消えていくようだった。

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