いつもより青い空

ポセイドン

第1話 転校生と夏の風

海の匂いが、風に混じって運ばれてきた。多賀城

の夏はいつも同じだ。眩しい日差しと、潮の音とどこか遠くで聞こえる蝉の声。僕は宮城県貞山高等学校の教室の窓側で空を眺めていた。

授業のチャイムが鳴っても、心はどこか上の空。

野太く張った声で先生が話をはじめた

「転校生を紹介する」

担任の声に、教室の空気はざわめく

ドアが開き、ひとりの少女が入ってきた

白いワンピースの袖を揺らして、まっすぐ前を見つめるその姿。肩までの髪が陽の光を受けてきらりと光った。都会から来たという噂を聞いた瞬間クラス中の視線は彼女に集まった。

「私の名前は佐倉 陽菜です。東京から来ましたよろしくお願いします。」

その声は真夏の空のように澄んでいた

悠真はなんとなく視線を外し、窓の外を見た

「どうせ、すぐにこの街を退屈だって言うんだろう。そうに決まってる」

そんな言葉が心の奥で浮かんだ

放課後

忘れ物を取りに写真部の部室へと戻ると、そこには誰かの気配がした

カメラのシャッター音が、小さく響く

「....あれ?」

机に腰をかけ、カメラを構えていたのは、さっきよ転校生だった。

陽菜はレンズを窓の外に向け、夢中でシャッターを切っている。

「君、写真部?」と悠真が聞くと、

陽菜は振り返り、少し驚いたように笑った

「ううん。今日、たまたま見つけたの。窓から見える空が、すごく綺麗だったから。」

悠真「空?」


陽菜「そう。見て!今日の空いつもより青くない?」


悠真は、つられて空を見上げた。

確かに、見慣れたはずの夏の空が、どこか違って見えた。

言葉にはできないけれど、胸の奥が少しだけざわめく。


陽菜はカメラを下ろし、微笑んだ。

「写真ってね、今を閉じ込めるんだよ。

 同じ空でも、今この瞬間の色はもう二度と撮れない。」


その言葉に、悠真はなぜか答えられなかった。

彼女の瞳に映る青空が、ほんの少し寂しそうに見えたから。

 

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