第7話 途切れた記録
銃声が再び夜を裂いた。
神谷の肩が跳ね、赤い霧が散った。
その瞬間、端末の映像が乱れ、奈央の顔がノイズに呑まれる。
「伏せろ!」
蓮は反射的に叫び、神谷を引き倒した。
次の弾丸が彼らの頭上をかすめ、コンテナの壁に火花を散らす。
霧の中から、無言の影が五つ、六つ。
サプレッサー付きの銃口が闇に溶けていた。
「……お前の連中じゃないのか?」
蓮が問うと、神谷は苦い笑みを浮かべた。
「俺の命令を聞く部下なんて、もういないさ。」
蓮はペンダントを握りしめた。
端末は地面に転がり、まだ淡く光を放っている。
そのノイズの中から、かすかに奈央の声が聞こえた。
『――もし、これを見ているなら……どちらも、殺さないで。
どちらも、生きて――』
銃声が重なり、音声が途切れた。
神谷が叫ぶ。
「行け、蓮! 奴らは“記録”を消す気だ!」
蓮は端末を拾い上げ、背を向けた。
神谷が撃ち返す音が背後で響く。
硝煙と潮の匂いが混じり、霧が光の中で渦を巻いた。
――走れ。
黒田の声、奈央の声、そして自分自身の声が重なった気がした。
蓮は全力で走り、崩れかけた桟橋の先に飛び出した。
足元の板が割れ、海面が近づく。
その刹那、背後で再び爆音。
港の一角が炎に包まれ、衝撃波が体を吹き飛ばした。
冷たい海水が全身を叩いた。
視界が暗転し、音が遠のいていく。
ただ、胸元で光るペンダントの感触だけが確かだった。
――奈央の声が、微かに響く。
『……蓮、もし世界が壊れても、あなたが選ぶなら……私は、それを信じる。』
波の音に飲まれながら、蓮は目を閉じた。
次に目を開けたとき、どんな“真実”が待つのか――まだ、誰にもわからなかった。
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