第1話 消えた秘書と雨の夜

雨音が窓を叩く編集室で、斉藤蓮は席を立ち、冷えたコーヒーを一口すすると、自分の携帯を取り出した。画面には「黒田翔」という見知らぬ名前が点滅している。

誰だ、こんな時間に。


迷いながらも電話を取ると、低く落ち着いた声が響いた。


「斉藤さん、君の調査は危険だ。引き返したほうがいい。」


「誰だ、あなたは?」


「それは今は言えない。ただ一つ言えるのは、高橋奈央の失踪は表面だけじゃない。もっと深い闇がある。」


電話は切れた。蓮の胸の鼓動が早まる。

何者かが自分を監視しているのか――。


翌日、蓮は編集長の松田誠一に状況を報告した。

「高橋奈央のことだが、ただの家出じゃないと思うんだ。政治家のスキャンダルに関係している。もっと調べたい。」


松田は眉をひそめ、しかし決して止めはしなかった。

「気をつけろ、蓮。権力の闇は深い。君の身も危うくなるかもしれない。」


その夜、蓮は再び高橋奈央のアパートへ向かった。

部屋は荒らされた形跡もなく、むしろ誰かが急いで去ったような気配があった。机の上には一枚のメモが置かれている。


「助けを求めるなら、神谷の影に潜む真実を掘り起こせ。」


メモにはそう書かれていた。

蓮は拳を握りしめ、決意を新たにした。

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