第2話 神谷の影
翌朝、編集部の窓の外には霧雨が漂っていた。
斉藤蓮は机の上に散らばった資料を見つめながら、昨夜のメモの言葉を何度も反芻していた。
「神谷の影に潜む真実を掘り起こせ。」
“神谷”――政治家の名前として聞いた覚えがある。
神谷啓三。与党の中でも影響力の強いベテラン議員。
だが、奈央の失踪とどんな関係があるのか。
蓮はパソコンを開き、過去のニュースアーカイブにアクセスした。
数年前、神谷がある企業の不正献金疑惑で一時取り沙汰された記事がヒットする。
しかし、その報道は突然打ち切られ、関係者の多くが口を閉ざしていた。
不自然な幕引き――それが、蓮の記者としての直感を刺激する。
そのとき、スマートフォンが震えた。
画面には再び“黒田翔”の文字。
蓮は一瞬ためらいながらも通話ボタンを押した。
「……斉藤蓮だ。」
「君はもう“神谷”の名前に辿り着いたようだな。」
黒田の声は昨日よりも硬かった。
「お前は何者だ? なぜ俺の行動を知っている?」
「警告したはずだ。深入りするなと。だが――もう遅い。監視されているぞ。」
電話の向こうで短い沈黙があり、続けて小さく息を飲む音がした。
「奈央は“何か”を見た。神谷の背後にある組織の証拠を。
そして――それを俺に託した。」
「証拠? それはどこにある?」
黒田は低く言った。
「港の倉庫街、第七倉庫。今夜零時。だが来るなら一人で来い。
それ以外の選択肢はない。」
通話が切れた瞬間、蓮の背筋を冷たいものが走った。
部屋の窓の外、霧の向こうで黒い車の影が一瞬動いた気がした。
誰かがこちらを見ている――。
蓮は深呼吸し、冷めたコーヒーを一口飲み干した。
時計は午後十時を回っている。
零時まで、あと二時間。
真実は闇の中にある。
それでも、行くしかない。
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