③
「あんた、自分の部屋の掃除をしなさいよ。押し入れの中、いらないものがあるなら出しといて。明日クリーンセンターに持ってくから」
母の言われて、俺は回想をやめる。
大学を卒業し、来年からは社会人になるので、そうしたら今より実家には戻らなくなるだろう。母は俺の自室の押し入れを新たな収納スペースにしようと画策しているのだ。
「んー、後でやる」
ごろんと転んで肩まで炬燵に入れて怠ける俺を見下ろして、母はため息をつく。
「あんた帰ってからずっとダラダラしてるだけじゃない。家のことをひとつも手伝わないし。そんな物臭じゃあ彼女なんて出来ないわよ」
クリスマス前に彼女にフラれた俺は母の何気ない言葉にムッとなる。しかもまだ小言が続きそうだったので、炬燵から抜け出した。
「掃除してくる」
そうぶっきらぼうに言って居間を出て行く俺の後ろで、母がぼそりと呟く。
「夏江ちゃん、噂では妊娠してたみたいなのよねぇ。でも結婚もしてないし、相手が誰なのか分からないみたいよ……」
衝撃的なそれに思わず足を止めかけたが、噂は噂でしかないのかもしれない。真実を知る彼女はもう死んでしまっているし、勝手な憶測を口にするのも憚れる。
俺は冷たい廊下へと出て自室のある2階へと向かう。廊下はとても寒くて、たまらず上着のポケットに両手を突っ込んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます