短編

@ijonine

 『きいろいチューリップのかたおもい』

 『きいろいチューリップのかたおもい』


 ここはあるやばい町。

 なかなかちいさなのどかな町だ。

 緑がおおく、童話のせかいのようなかわいい家がよくたっている。

 でも。なんかやばいらしい。

 なにがやばいのかはよくわからない。まだ。



 いまは春先。まあまだじゃっかん冬。くらいか。

 3がつのちゅうじゅん。くらいだ。

 すこしあたたかくなり、さまざまな花がさきはじめたりしていた。鳥たちがないて、どうぶつが活動しはじめたりしていた。

 へいわだな。



 で。

 その村にはあった。ある店が。

 なんかハーブとか、紅茶とか、お香とか。そういうのをとりあつかっている。

 なかなか、でかい、店だ。店がでかいというか、家と一体化しており、家がでかい。なんにんかいっしょに住んでいるようである。


 村の中心くらいに、あった。


 その店が。



 *


 ある昼下がり。


 そのハーブの店のうらてに。こどもがいた。

 黄色い髪のおんなのこだ。


 そしてかのじょは木のかげから、見ていた。

 ハーブ店の二階にある窓を、だ。


 ハーブ店の二階……あたりのかべ。

 窓がいくつかある。4つ。

 で、そのひとつから、こどもが顔をだしている。きいろい女の子と同い年くらいの。

 おとこのこだ。でも。けっこう中性的、というかきれいなかんじのやつだ。でもおとこだな。髪も桃色。肩につくくらいながい。でもおとこだな。いわゆるびしょーねんていうかんじだな。いわゆるな。

 このおとこのこは、この窓からよく、顔をだしている。よくだ。



 おんなのこはこいつをみているようだ。

 それも今日だけではない。よくだ。

 おとこのこはおんなのこにまったくきづいていないようだ。

 おんなのこも木のかげにかくれてみているので、みつかりたくないのだろう。


 このおんなのこは、この店にいる、このおとこのこが気になるらしい。


 品がある。知性がある。とか、そんなようなの。

 町で、そとであそんでいるようなおとこのこたちとはぜんぜんちがうな、と。

 なにかいつもいろいろかんがえているのだろう。思慮深そうで、かっこいいな。


 ────この店にすんでいるようだが、そとにいるのをみたことがない。


 なぜ。かれはそとにでてこないんだろう。

 病弱なのかもしれないな。かわいそうだな。

 そとにでられないから家で出来ることを色々しているのだろうか。

 たくさん本を読んでいるのかもしれない。物憂いげなひょうじょうからひじょうにたかい知性がただよってくるからだ。

 とても博学でなんでも知っているのかもしれない。

 まちであそんでいるこどもたち、とくにおとことかは、こどもっぽくて いやだなあ。

 あんな落ち着いた知性のあふれるおとこのことはなしができたらいいなあ、と。

 なんかちょっと雰囲気とかがこの世のものとはおもえないしもしかしたらにんげんじゃないのかもしれないなあっ前に本でよんだきゅーけつきというのかもしれないだから昼間そとにでられないのか日光に当たるとしぬのか夜まどをあけていたらいつのまにか立っていてカーテンが風でひらひらしておりなんか空もとべて連れさられてたりして屋根の上ででかい月を見ながらむずかしいかんじの詩的な言い回しのうつくしいかんじのことをよくよくいってくれるかもしれないそんたらそんだら


 ──と、そんとき。

 とつぜん肩をたたかれた。



 *


 ふりむくと。

 そこにいたのは、おんなのこのははおやだった。


 そして、いった。

 こんなところでいったいなにをしているのか?

 はやく荷づくりをしなさい。あさってにはこの村をでていくんだから、と。


「・・・・・・・・・」


 そう。

 おんなのこはもうすぐ ひっこすことになっていたのだ。

 このやばい町から。

 ちゃんとしたまちにいき、ちゃんとしたがっこうにいくのだ。とてもむずかしいがっこうのしけんをうけて、ごーかくしていた。かのじょはとても。あたまのいいおんなのこだからだ。いまは3がつちゅうじゅんだからな。もうすぐあたらしいかんきょうにはいっていくのである。


「・・・・・・」


 ひっこしをする。

 それはもう、変わらないことだ。しかたない。


 だが。


 おんなのこは、おとこのこにおもいをつたえたいとおもった。


 このやばい町から 去るまえに──。



 *


 その日の夜。

 おんなのこは手紙を書いた。窓辺の男の子に、だ。


 おんなのこはあたまがよく勉強ができ、とくに文章がとくいだった。本もよく読み、へやのほんだなにはさまざまな本がならんでいる。むずかしそうな全集などもいろいろある。

 なのでがんばって手紙を書いた。

 なにやら小難しい手法やら文法やら詩的な言い回しなどなどもつかった表現力とびょうしゃりょく、ことばのちからにあふれた手紙を。だ。倒置法や比喩法やたいげんどめなどさまざまな表現技法をつかいこなしている。こくごの。

 なにせとってもあたまのいいおんなのこだからだ。

 かれもこういうのがすきだろう。文法や単語を間違わないように何度も書き直した。

(なんなんだ。あたまがわるいな)とおもわれてはいけない。

 つりあう、相応しい、ちゃんとした。でも、おもいのつたわる文章をかかなければいけない。

 そんなおもいでとてもがんばっててがみをかいた。


 そして──さいごに。

 きいろいチューリップのえはがきをいっしょに入れた。


 このおんなのこは黄色い髪をしており、すきな色もきいろなので、なんかじぶんのようにおもっていてすきだった。きいろいチューリップが。だ。

 ちょうどこの時期にはよく咲いており、ハーブ屋の店先の花壇にも、なんかあったような気もするな。きいろいチューリップは。

 だからなんかいいかな。とおもった。こういうのをよくあつめているので、おまけにあげるつもりで、同封した。



 みるたびに、じぶんのことをおもいだしてもらえたらいいな。と。



 きいろいチューリップを。だ。



 *


 次の日のあさ。


 あやしいハーブ店の前をほうきではいているおんながいた。

 これは、このあやしいハーブ店の。おんな店主だ。

 おやしきのお手伝いのような格好をしている、とてもおちついたかんじのおんなである。

 髪は肩よりながく、半分くらいリボンでくくっている。うすい紅茶色のかみだ。で、へっどどれすをしている、白の。目は、みどり。

 ひじょうに落ち着いた。おだやかっぽい、印象だが。どこかえたいのしれない雰囲気がする。おんなだ。

 おだやばい。だ。

 なぜ、こんな店をやっているのか。でかいいえにすんでいるのか。なぞに包まれている。いろいろと、だ。

 いや。やばい。だろう、これは。こいつは。よくわからないほうが、あんぜんだろう。うーん。



 そんなおだやばいのもとに、黄色い髪のおんなのこがやってきた。

 表面はとても親切そうにみえるおだやばいは親切に女の子の方に向き直った。

 おんなのこは いつも窓から顔をだしている男の子にこれをわたしてほしい といって、そのおんなてんしゅに手紙をおしつけた。


 おんな店主がよびとめようとしたが、おんなのこは、はしっていってしまった。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・」



 *


 店の中。紅茶の茶葉やら、お香やら。さまざまな商品があるようだ。


 から、ひとつ奥のヘヤ。


 台所があり、大きなテーブルがあり、5つ椅子がある。


 みんなで食事ができるような広間がある。


 そのへやに。だんろの前に。



 おんなのこからうけとったてがみを燃やそうとしている おんながいた。


「・・・・・・・・・・・・」


 ひとからあずかった手紙を燃やすなんてしんじられない。にんげんのすることではない。



 が するだろう。かのじょなら。



 ──そのおんなは〝やばい〟おんなだったからだ。



 じぶんの庭に入ってくるものはすべて排除する。


 そとからノ侵入者は ゆるされない ヒトではなくても


 まもるためならなんでもする なにかを かのじょは



「・・・・・・・・・・・・・・・・」



 が。


 かんがえなおしたようで、暖炉に背を向けると。


 そのてがみをもって、おくにいき、階段をあがっていった。



 *


 二階。

 ろうかに、いくつかのへやがある。

 そのうちのひとつをえらび。

 とびらの前に立つ。木製だ。


 ノックして、声をかけた。ようだ。


 なかからなにか聞こえた。ようだ。


 扉をあけてはいる。


 へやのなかは──



 ベッドがある。ちいさなつくえがある。


 かべにはいろいろな絵画がかかっている。しょくぶつとかじんぶつとかふうけいの絵。


 床には紙や、木の板やら、絵の具のはいった筒などがおちている。


 ちょっと。ごちゃごちゃしている。しょうじき あまりきれいとはいえない へやだ。


 おくにはイーゼルがある。こちらに背を向けて絵を描いているじんぶつがいる。


 ひだりてにパレット、みぎてに絵を描くナイフをもっている。


 じんぶつは絵を描いていた手を止めて すわったまま振り向いた。



 かれは──



 おんなのこがよくみつめている、窓辺から顔をだしていたおとこのこだった。



 *


 おんなてんしゅとおとこのこ。

 このふたりのかんけいは?


 親子だろうか。でも。こどもにしてはおおきい。というか。おんなもまだおとなというような年齢ではない。なんらかの理由でわりと大人びて見えるようだが、おとなではない。まあ。5・6さいくらいはなれていそうだが。もしほんとうのこどもだったら、あぶないだろう。


 じゃあ。姉弟なのだろうか。でもどこか距離を保っているような、他人的なかんじもある。髪の色もまあちがう。女は紅茶のような色で、おとこのこは桃色である。親子よりは可能性があるが、それもなんかちがうかんじだ。



 どういう関係かは「よくわからない」



 なぞである。



 おんなはおとこのこにちかづくと、てがみを手わたした。


 おとこのこはうけとって、なかになにかあるとわかると

 手にもっていた絵を描くナイフで、すぱっとひらいた。封筒を。

 絵の具でよごれた、が。べつにきにしない。

 で。ひらいた。なかにはいっていた紙たちを。


 ……が。

 なんかおもしろくなさそーな顔でそれをながめている。

 つまんなさそうなかおで、少し首をかしげたりしている。

 なんなんだ。というかんじである。


 が。

 同封されていたえはがきを手に取って。

 チューリップの絵をみると。おとこのこは。

 ああ。というかんじで、きゅうにきげんがよいようになった。きゅうにだ。

 そしてなにか思いついたらしく、おんなにお願いをした。



「つぎはこれをかきたいからもってきてよ」と。



 そして



「あとのかみは もやしといて」と。



 *


 次の日。


 きいろいおんなのこのひっこしの日だ。


 おんなのこはみつめていた。ハーブ屋の、2階の、窓を。

 いつもおとこのこが顔をだしている、まどを。



『もし。このてがみをよんでくれたら、今日。このじかんに窓から顔をだしてほしい』

 と、書いていたからだ。てがみに。




 でも




 おとこのこは かおだしていない。




「・・・・・・・・・・・・・」



 そのかわり 窓辺には 鉢植えの きいろいちゅーりっぷがおいてあった。



「・・・・・・・・・・・・・」



 もういくわよ、と母親が声をかけた。すこし、心配。まあ。しかたなさそうにして。

 むこうには引っ越し用のおおきなばしゃがある。

 おんなのこはもうすこし、と、窓をみていたが。……──。

 あきらめて、母親についていった。

 そして、ばしゃにのった。


 馬車の中からふたたび窓をみたけど、きいろいチューリップが、すこし風でゆれているだけだった。



 きいろいおんなのこは馬車に乗っていってしまった。



 窓辺のきいろいちゅーりっぷが おんなのこを見送っていた。



 *


 窓の奥。へやのなかには、イーゼルに向かい窓辺のチューリップを描いているおとこのこがいた。

 花のきいろの絵の具とか。そらの空色のえのぐとかをつかって。

 まあ たのしそうに 描いていた。

 つくえのうえには絵はがきが飾られていた。

 きいろいチューリップの、だ。




 かのじょがなにをつたえたかったのかおとこのこにはわからなかった。




(いつも窓から顔をだしているおそらく病弱とかで家から出られず本とかたくさん読んでそうひょうじょうから知性があふれているひじょうにあたまのよさそうな博学そうな男の子)




 なにせかれは── 





『文字がよめなかった』のだから。







【きいろいちゅーりっぷのはなことば】


 むくわれぬこい 望みのない恋





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いろいろあるのですが短編でも大丈夫かなとおもったものです。もしかしたらシリーズにするかもしれない。




'25/09/11  だいたい書いた日

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