第3話 えっ、僕が“姫役”なんですか?

 現場に向かうと、とある女子生徒が階段下で倒れていた。辺りには、演劇の衣装だろうか、衣類が散乱している。


「……俺たちのことがわかるか?」


霧玄さんが女子生徒を起こし、声をかける。


「わ、かります……」


女子生徒の意識はあるようだったが、


「……あちゃー。足が折れているね、これ」


悠麒さんの言う通り、彼女の足は、折れているようだった。


「一旦、医務室に運ぶか」


霧玄さんは女子生徒をお姫様抱っこで抱えると、保健室へと運んでいくのであった。


 ***


 保健室に行くと、やはり『足が折れている』と見なされ、念の為にも、救急車を呼ぶことになった。


「ごめん、しくじった……」


話を聞くと、どうやら舞衣さんのクラスの女子生徒だったようで、文化祭の出し物・演劇の、衣装を運んでいる際に足を踏み外したとのことだった。


「どうしよう、姫役だったのに……。こんな、公演間近に代わってくれる人なんて、どこにもいないよね……」


涙ながらに、彼女は話す。舞衣さんは女子生徒を励ましながらも、不安そうな顔をしていた。


「誰か代わってくれる人いないかなぁ……」


女子生徒がチラリと僕を見る。……え、僕?


「可愛い子に代わって欲しいなぁ……」


ダメだ、完全に目が合っている。逃げられそうにない。


「プロンプ飛ばすから、演じて欲しいなぁ〜」


ガシッと手を掴まれた。ダメだこりゃ。


「えっと……、僕、男ですけど……」

「大丈夫! 主役は舞衣さんだから! 性転換台本だと思ってくれるよ!」

「えぇ〜……」

「お願いします! 何卒!!」


ここまで言われたら、流石に断れない。


「わ、わかりました……」

「ありがとうございます!!」


女子生徒は深々と頭を下げると、にへらっ、と笑う。その笑顔を見たら、なんだかもう、なんでも良くなってきた。


 救急車のサイレンが聞こえてくる。


 「それじゃあ、よろしくね」と、彼女は微かに手を振って、救急車へと吸い込まれた。


 暫しの沈黙が、僕らの間に流れる。


「……とりあえず、台本、読み込みましょうか」

「…………は、はい」


こうして、舞衣さんのクラス・四組のクラスの出し物では、何故か二組の僕が、急遽、姫役で出演することが決まった。



 ……仕方ない。最悪、悠麒さんか式神にでもセリフを飛ばしてもらおう。


 台本は……えぇっと……?


 『眠れる森の美女』のオマージュ作品?


 なんだ、僕はほぼセリフないじゃん。ただ、横になっているだけか。


 これならできそうでよかった。


 ……ん? 待てよ。

 この話、ラストって、確か…………。

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