路上占い、あれこれ51【占い師は穏やかな時間を過ごす】

崔 梨遙(再)

手の平サイズの1542文字です。

 或る日の夜のミナミの路上占い。目の前に女性が座った。


「なんや、お前か」

「あれ? 私じゃアカンの?」

「客じゃないやんか」

「ええやん、飲んできたから休憩」

「また酔っ払ってるんか?」

「うん、今日はあんまり飲んでへんよ」

「お前は酒に強いなぁ」

「崔君がお酒に弱すぎるだけやで」

「まあ、あんまり俺は飲まれへんけど」

「あんまりとちゃうやん、全く飲まれへんやんか」

「カシスオレンジ3杯くらいなら、頑張ったら飲める」

「そんなん、飲めるとは言わへんよ」

「もう、ええやん。僕が酒に強くても弱くても。それより、まだ恋人はできへんのか? 前の彼氏と別れてから、もう半年か?」

「うーん、半年以上かな」

「出逢いは無いんか? 出逢いは」

「無いなぁ、元彼も合コンで知り合ったしなぁ、会社の人とはご縁は無いわ」

「ほな、また合コンに行けや」

「そんなタイミング良く合コンの話が来るわけないやんか」

「それで金曜の夜は1人で飲むんか?」

「うん」

「居酒屋か?」

「うん、居酒屋が好きやから」

「ナンパされるやろ?」

「うん、される」

「ちゃんと断ってるんか? お前は美人やからな、1人で飲んでたら男も寄ってくるやろ」

「え! 私のこと美人やと思ってくれてるの?」

「付き合ってた時から何千回も言うてきたやんか」

「そやね、あの頃は幸せやったわ」

「お前の方から別れ話をしてきたんやろ? しっかりしてくれや」

「うーん、私、アホやったなぁ」

「お前が、『私、この人と幸せになる!』って、元彼を紹介されたなぁ」

「うん、あの時はごめんな。私、ちょっと無神経やったわ」

「背が高いイケメンやったなぁ、モデルかと思ったわ」

「でも、同棲したら、酒乱やったし、DVやったし、ギャンブル好きやったわ」

「貸したお金は返ってきてないんやろ?」

「当たり前やんか。返ってくれるとは思ってへんよ」

「まあ、そやろな」

「別れられただけでラッキーやったわ」

「そうか・・・そやな」

「崔君と同棲してた頃が懐かしいわ。楽しかったなぁ、あの頃は」

「おいおい、やめてくれよ」

「なんで? 思い出すのは私の自由やんか。私、なんで崔君と別れたんやろ?」

「それは、僕が身長169センチしかないし、イケメンじゃなかったからや」

「そうかも(笑)」

「おいおい、納得するなよ」

「ふう、こうしてると落ち着くわぁ」

「めっちゃ営業妨害やけどな」

「やっぱり? 実は営業妨害してる自覚はあるねん。アカンかな? もう少し、こうしてたいねん」

「好きにしたらええよ」

「なあ、崔君、私と付き合えへん?」

「付き合わない」

「なんで? 怒ってる?」

「怒ってないよ。でも、お前を失うとき、どれだけの苦しみやったか? お前は知らんねん。今、また付き合ったら、お前を諦めようと苦しんだ日々はなんやったっん? ってことになるやんか。お前のことはようやく気持ちの整理ができた。もう、お前と付き合うことはないで」

「そうなんや。まあ、崔君は優柔不断やけど、結論が出たらその結論は覆らへんもんね。それはよく知ってる」

「そうや。気持ちの整理ができたから、お前は『過去の女』なんや」

「でも、こうしてお話はしてくれるんや」

「まあ、話すくらいならな」

「でも、良かった。会いたくなったら、こうしてミナミの路上で会えるから」

「そうか?」

「うん。だって、私が誘っても、もう会ってくれへんやろ?」

「当たり前やろ」

「でも、ここでこうして会えるやんか。デートみたいやね」

「どこがデートやねん」

「崔君、今日はもう少しこうして話しててもええかな?」

「好きにしたらええよ」

「そっか、良かった。崔君の側にいられると、なんか落ち着くねん」

「僕は精神安定剤か?」

「そうかも(笑)」



 もう、よりを戻すことは無いのだけれど、こうしている時間は僕にとっても苦痛ではなかった。穏やかな風が吹いて、心地よい時間だった。




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路上占い、あれこれ51【占い師は穏やかな時間を過ごす】 崔 梨遙(再) @sairiyousai

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