得を積まねばハーレムは程遠い!~最低ステータス転生者の異世界奮闘記~

@Ponzu0529

プロローグ 俺のハーレムは来世にあるらしい。

その日、俺は――珍しく外に出ていた。

 引きこもり生活三年。久しぶりの外出理由は「近所のコンビニ限定の新作カップ麺。」

 あまりに貧弱すぎる動機だが、ヒ〇キン考案のカップ麺という物珍しさに、なけなしの好奇心が抑えられなかった。

 カップ麺を手に満足気に歩いていた俺の目の前に、突然、小学生が飛び出した。

 車のブレーキ音。時間がスローモーションになる。

「……は? おい、嘘だろ――」

 反射的に体が動いた。気づけば、俺はその子を突き飛ばしていた。

 視界の端に、トラックの巨大なフロントガラス。

 必死の運転手と目が合い、悟る。

「……あ、これ、やば……」

 その瞬間、世界が真っ白になった。

「お目覚めですか?」

 澄んだ声が、どこか遠くから響いた。

 目を開けると、そこは真っ白な空間。床も壁もない。浮いている。

 まるで無重力の夢の中だ。

 そして目前には、長い黒紫の髪に、冷たくも神秘的な瞳を持つ女性。

「……誰、ですか?」

「私は女神。この世界と異世界を司る存在です」

 え、女神? マジで女神様?

 ていうか俺、もしかして死んだの?

「はい、死にましたよ」

「心読んだ!? てかそんな即答!?」

「即死でしたから」

「言い方ァ!!」

 アリアは淡々としている。まるで機械のように感情が薄い。

 だが、会話を少し楽しんでいるようにも見えるその瞳に、どこか優しさとわずかな“慈愛”を感じた。

「あなたはトラックに轢かれ、四肢ししが爆散し即死しました。助けられた子供はトラウマ確定でしょうね」

 この慈愛の欠片もない女神に、少しでも心を許してしまったことをお許しください神様。

 願わくば、この性悪女神に天罰を……!!

 恨み言を考える俺をよそに、アリアは話を続けた。

「ともあれ、あなたは子供の命を救いました。あの子は無事です」

「……ああ、そうか。助かったなら、まぁ、よかった」

「ええ。あなたの行動は非常に勇敢でした」

 その一言に、ほんの少しだけ救われた気がした。

 でも、すぐにアリアが続ける。

「しかし――それを加味しても、あなたの徳はほぼゼロです」

「……へ?」

 アリアが手をかざすと、目の前に透明なウィンドウが現れた。

 そこには「徳ポイント:0.003」と表示されている。

「いやいやいや、ゼロって何!? 小数点以下!?」

「日々の行いの結果です。

引きこもり、社会貢献ゼロ、昼夜逆転生活、家族との交流希薄。 “生きてるだけでマイナス”とは言いませんが、かなりの低水準ですね」

「さっきから容赦ないな女神さん!? せめてオブラートって知ってる!?」

「私は神です。真実しか語りません」

「神なら優しさも教えてくれよ!!」

 容赦のないアリアの毒舌に、心まで死んでしまいそうになる反面、数週間ぶりの人との会話で、どこか楽しさを感じずにはいられなかった。

「さて――これからあなたは、異世界へ転生します」

「おっ! あの、剣と魔法とかあるやつ!?」

「概ねそうです。中世ヨーロッパ風の世界。

 ただし、あなたのステータスは“最低”に設定されます」

「えぇっ! こういうのってチートステータスで転生が鉄板じゃないの!?」

「徳が低いので当然です。

 転生とは前世の‪”‬徳‪”‬に比例して、生まれる環境や運、ステータスが決まるのですから」

「えっそうなの!? 俺、初耳だぞ…」

「知らなかったのですか? 常識ですよ」

「地球ではそんな常識ねぇよ!?」

 アリアはわずかに肩をすくめた。

 その仕草が、妙に人間くさい。

「ですが、希望がないわけではありません。

 あなたが異世界で多くの徳を積めば、次の転生では高いステータスが得られます」

「……つまり、“異世界で徳を積めば、次の人生がチートになる”ってこと?」

「端的に言えば、そうなります」

「よし、決めた!」

 俺は即決した。

「異世界で徳を積んで、次の人生でハーレムを築く!」

「……動機が俗っぽいですね」

「でも筋は通ってるだろ? どうせ雑魚ステータスで詰みが確定してるなら、今世は諦めて来世でハーレムを作る!!」

「そのハーレムへの謎の執着は理解に苦しみますが……まぁ、嫌いじゃありません」

 アリアが小さく笑った。

 冷たい美貌のまま、ほんの一瞬だけ微笑んだのだ。

 その笑みが、やたら印象に残った。

「よろしい。では特別に、あなたに“記憶保持”の特権を与えましょう。

 前世の記憶を持ったまま、異世界へ転生できます」

「マジで!? チートきた!?」

「ただし、ステータスは最低のままです」

「そこはブレないのね…」

「当然です。システムですから」

 アリアが前へ手をかざす。空間が光り、俺の体が浮き上がる。

「では――転生プロセスを開始します。

 痛みはありませんが、羞恥はあるかもしれません」

「羞恥!? どんな転生だよ……って、うわあああああ!?」

 光に包まれる俺。

 最後に見たのは、アリアの微笑だった。

「せいぜい、退屈させないでくださいね。」

 その声を聞いた瞬間、意識が闇に沈む。

 ――気がつけば。

 俺は柔らかい布に包まれ、泣き声をあげていた。

「おお……こんなところに赤ん坊が……! さては森の神の落とし物か!?」

 頭の上で、陽気な老人の声。

 眩しい光。

 暖かい手。

 こうして、俺の第二の人生――もとい、“徳積みライフ”が始まった。

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