第3話 精神病院 閉鎖病棟。
そこは、暗く、幽霊のような人や狂人が、呻きわめく、死の世界だった。阿鼻叫喚の地獄。動きひしめく、患者は、嘆きわめき叫ぶ。頭を搔きむしり壁に寄りかかり、床に這いつくばり、寝転んで、駄々をこねる。看護師が見守る。暴れると、注射を打たれて、保護室へぶち込まれる。大人しくなるまで出てこれない。僕は、体をカミソリで切り裂かれるような激痛と闘いながら、必死に耐えた。ベットにうずくまる。差し出される黄色や白の大量の薬を飲まされる。薬の量が半端ない。体が悲鳴を上げる。目はかすみ、手は震え、おしっこが出なく、便秘と下痢を繰り返す。ドクターが回診にやって来る。僕は、にやにやするドクターが大嫌いだった。何も話さなかった。ドクターは、「又何かあったら言ってくださいね。」と告げて踵を返した。僕は、誰とも話さなかった。話したくなかったのだ。そっとしておいてもらいたかった。ところが、みんな僕に、「なんか喋ったらどう。」と口うるさい。頭にきた僕は、「絶対に喋るものか。」と意固地になった。「うるさいなクソ野郎。」とそう思っていた。「あっち行けよ。失せろよ。ボケ。」みんなが嫌いになった。全員が、僕の敵になる。ただ死にたくなかったので、心の中で、「生きろ!生きろ!」と呪文のように繰り返し自分を励ました。
入院生活も、2か月が過ぎると、ふるさとから、お母さんが見舞いに来るようになった。教員の仕事の間を見て、新幹線に乗り東京の僕のところに駆けつけてくれた。小さく丸くなって、心配するお母さんだった。散歩の許可が出た。院内を二人で散歩する。喫茶店があった。そこでホットココアを飲んだ。震える手でマグカップを持つ僕を見て、お母さんは、「自分の好きにしていいんだからね。」と呪文のように繰り返す。僕はただ頷くしかできなかった。二人で院内を散歩する。野球グランドがあった。池がありコイが泳いでいた。山羊がいて、二人の男が餌を与えていた。丘を越えて、道を下り、並木道を通り過ぎる。院外に出た。激しい世界だった。車が通り、歩行者がつかつかと歩く。自転車が走りバイクも走る。すごくせわしい忙しい世界だった。僕は、「お寿司を食べてみたい。」と言ってみると、お母さんは、僕のリクエストに応じた。とても落胆してめそめそするお母さんだった。僕は、「お母さん、僕は大丈夫だよ。」と言う。しかし肩を落とし、やっとの思いで、僕に付き添う姿があった。お母さんは、数回お見舞いにやってきた。たまにお父さんもやってきた。
二人には心配をかけてしまったと思った。「ありがとう。お父さんも、お母さんも。」現在はそう思う。
3か月後に退院の許可が下りた。僕は、一旦、大学を休み、一度故郷に帰ることにする。
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