アストラリス:星と雪 ― パート2
「ここが――アストラリス国立アカデミー!」
ゆっくりと朝日が差し込み、オーロラのように輝く薄いカーテンを通して部屋を満たしていく。
その光の中、ミラはまだ静かに眠っていた。柔らかな毛布に包まれ、穏やかな寝息を立てながら。
安らかな表情には、わずかな安堵が浮かんでいる。けれど、心の奥底にはまだ薄い恐れの影が残っていた。
――だが、その静寂は長くは続かなかった。
トントン…
ドアの外から小さなノック音が聞こえたが、ミラは反応しない。
夢の世界に深く沈んでいた。
ドンドンドン!!
今度は大きな音とともに、聞き覚えのある声が響いた。
「ミラちゃーん! もう朝だよ! 起きて!!」
……返事はない。
ただ、静寂だけが残る。
「ミラァァーー!!」
その叫びに、ミラの身体がビクッと跳ねた。
慌てて目を開け、半分夢の中のような顔で周囲を見回す。
しばらくして我に返ると、急いでベッドを降り、ドアへと向かった。
扉を開けると――そこには金髪の少女、ユキナが立っていた。
アストラリスの青紫の制服に身を包み、横で結んだポニーテールには星型のピンが光っている。
手には何かを抱え、少しムッとした表情でミラを見つめた。
「なんで呼んでも出ないのよ!?」
「ご、ごめんなさい……いま起きたばかりで……」
「はぁ〜……まぁいいわ。起きただけマシね。」
「……」
「はい、これ! あんたの制服!」
「えっ、わ、わたしの?」
「当たり前でしょ! 誰のだと思ったのよ!」ユキナはちょっと不機嫌そうに言いながら手渡す。
「そ、それに……この星のぬいぐるみは?」ミラが首をかしげる。
ぬいぐるみは小さく、笑顔で舌を出していて、片目の下には雪のタトゥーが描かれていた。
「あぁ、それはステラミー。学院のマスコット! みんな一人一つもらうの。寝る時の友達にでもして。かわいいでしょ〜!」
ミラは小さくうなずいた。
「ホシホッパ〜! じゃ、さっさと着替えてね! リリが呼んでたわ。新入生の紹介式、昨日のホールに集合だって!」
「は、はいっ!」
ユキナは踵を返して去っていった。
ミラは慌てて部屋に戻り、着替えを始めた。
――数分後。
ミラは部屋を出て、ホールへ向かう長い廊下を歩いていた。
青紫の制服に、胸元には星型のリボンタイ。
短い髪がふわりと揺れ、素朴ながらも可愛らしい印象を与えている。(……ちょっと可愛いかも?)
いくつもの建物と回廊を抜け、ようやくミラは大ホールへと辿り着いた。
すでにたくさんの生徒たちが集まり、ざわめきが満ちている。
数分後――マイクの音が響き、会場が一瞬で静まり返った。
壇上には教師たちが並び、その中央に一人の人物がゆっくりと歩み出る。
――アストラリスの学園長だった。
「コホン……それでは。」
重みのある声がホール全体に響く。
「ようこそ、天の光に選ばれし者たちよ。
ここは――星と運命が交わる場所。君たちの旅は、今ここから始まる。」
その声は深く、厳かでありながら不思議と優しい。
「君たちはただの人間ではない。天の導きによって集められた者たちだ。
私はシリウス・ルミス、この学院の校長だ。
星々の知恵とともに、君たちを心から歓迎しよう。
ここで君たちは学び、成長し、人の限界を越える存在となるのだ。」
学園長の言葉が静かに、しかし確かに心に響く。
「この傍らに立つ教師たちは、ただの教育者ではない。
君たちの導き手であり、友であり、守護者でもある。
共に魔法を学び、勇気を知り、友情と犠牲の真の意味を見つけなさい。
このホールで踏み出す一歩一歩が、アストラリスの歴史に刻まれる。
今宵、夜空に輝く星がその旅立ちを見守っている。
ようこそ、新入生諸君。心を磨き、知恵を研ぎ澄まし、
運命の光に身を委ねなさい。
世界は――真の英雄たちを待っている。
そして今、この瞬間から……君たちの物語が始まるのだ。」
――大きな拍手がホールを包んだ。
校長が下がると、一人の教師が前に出た。
「シリウス校長、ありがとうございました。
さて、これから学院生活を始めるにあたり、いくつかの規則を説明します。」
彼の声は厳しく、はっきりとしていた。
「毎朝六時に起床し、八時には大ホールに集合。授業開始に遅れれば即減点だ。
無断欠席・途中退室は禁止。魔法実技と決闘訓練は週に二回、必ず参加すること。
門限は夜十時。それを過ぎれば罰則対象となる。
暴力、薬物、そして許可のない魔導具の使用は禁止だ。」
一呼吸おいて、教師は言葉を続けた。
「最後に、君たち一人ひとりには“星晶石”が与えられる。
それが君たちの努力と成果の証――すべての行動がそこに記録される。」
「この規則を守れば、アストラリスでの生活は順調に進むだろう。」
ホールは再び静まり返る。
不安そうな顔もあれば、期待に胸を膨らませる者もいる。
ミラは自分の両手を握りしめた。
――胸が高鳴って止まらない。
この世界は、あまりにも現実的で、そして眩しかった。
「それでは――これより学院内の案内を行う。
各自、担当教員について行動するように。楽しんでくれたまえ!」
校長と教師たちが退場し、代わって一人の大柄な男性が前に出る。
明るく力強い笑みを浮かべ、勢いよく叫んだ。
「よっし! 俺の名はアダーラ! 魔法訓練の担当、そして今日のガイドだ!
絶対に迷子になるなよ! じゃあ――ついてこい!!」
生徒たちは一斉に立ち上がり、列を作ってホールを出ていく。
ただ一人、ミラだけがその場に立ち尽くしていた。
「……はぁ。」
「友達、いないの?」
背後から声がした。振り返ると――ユキナがいた。
その瞳は優しく、けれどどこか真剣で。
ミラは言葉を失い、ただ首を振った。
「しょうがないなぁ。じゃ、あたしが一緒にいてあげる!」
「えっ、でもわたし――」
「いいから、行くよ!」
ユキナはミラの手を取って、軽く引っ張った。
そうして二人は歩き出す。
――こうして、アストラリス国立アカデミーの冒険が始まったのだった。
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