暁に沈む剣 ―The Sword Drowned in Dawn―
宙野たまき
暁に沈む剣 ―The Sword Drowned in Dawn―
鐘の音が、霧のかかった王都ルヴェンティアの上空に溶けていった。
石畳は昨夜の雨をまだ乾かせず、空を映して鈍い銀の色を放っている。市場の屋根からは雫が滴り落ち、靴音がそのたびに小さな波紋を描いた。
その中央通りを、一人の若い女が駆け抜けていた。
濡れた外套を翻し、腰には古びた騎士剣。金の髪を無造作に束ね、瞳は深い群青――どこまでも真っ直ぐに、迷いのない光を宿していた。
彼女の名は――リディア・アストレイア。
王国騎士団第七隊所属、二十三歳。貴族の出ではなく、地方の農村出身の叩き上げである。
だがその剣筋の美しさと正確さは、王都でも指折り。上官の誰もが認めるほどの実力を持ち、そして何よりも、彼女には「揺るがぬ正義」があった。
リディアは路地を抜け、王城へと向かう。
今朝、第一報が入ったのだ。北の砦――ヴァルメリアが陥落した、と。
その報に、王都は静まり返った。
ヴァルメリアは北方防衛の要。そこが落ちたということは、敵国アインゼルの軍勢が王国領内に雪崩れ込むことを意味する。
だが、リディアはただの騎士として戦場に赴くだけではなかった。
彼女には、個人的な宿命があった。
――アインゼル側に、かつての友がいる。
名を、ヴァルター・ルーフェン。
幼少のころから共に剣を学び、夢を語り合い、そして同じ理想を掲げていた青年。
彼は王国最高位の魔法士養成院に進み、天才として名を馳せた。だが二年前、突如姿を消した。
その後、敵国の旗のもとに現れ、王国への宣戦布告を先導したという。
リディアは信じられなかった。
あの誇り高いヴァルターが裏切るはずがない。
彼女は、彼を止めるためにこの剣を振るうと誓った。
――王都に戻ったのは、命令を受けるためだ。
自分が、北へ行くその日を待っている。
玉座の間に入ると、王と宰相、そして数名の将が地図を囲んでいた。
リディアは膝をつき、声を張る。
「第七隊所属、リディア・アストレイア。報告により参上いたしました!」
王の前に進み出た宰相が言う。
「リディア卿、貴殿に特命が下る。ヴァルメリア陥落に関し、敵軍の指揮官――『紅の魔導師』ヴァルター・ルーフェンの動向を探れ。必要とあらば排除せよ。」
胸の奥で、心臓が一瞬止まったような気がした。
だが、リディアは唇を結び、静かに頷く。
「……御意。」
王の声は低く、疲れていた。
「我が民を守るためだ。感情に流されるな。」
それが命令のすべてだった。
リディアは敬礼し、踵を返す。
玉座の間を出たとき、彼女の背に侍女の囁きがかかった。
「……彼は、もう戻れぬのですよ」
振り返らず、リディアは歩き続けた。
出発の前夜、騎士団詰所の片隅。
外は冷たい雨。
リディアは剣の刃を磨きながら、灯火に映る自分の瞳を見つめていた。
正義とは、何だろう。
罪を裁く剣のことか。それとも、誰かを守る意思のことか。
「……答えなんて、出ないよね」
独りごちる声に、扉が軋んで開いた。
そこに立っていたのは、同期の騎士――アルノ・グレイ。
無精ひげを生やしたが、心根は優しい男だ。
「リディア、お前が北へ行くって聞いた。まさかとは思ったが……本気なんだな。」
リディアは頷いた。
「ええ。放っておけない。あの人が、敵のために剣を取るなんて……きっと何か理由があるはず。」
「理由があったとしても、戦場じゃ殺し合うだけだ。」
「それでも、確かめたいの。私の信じた正義が、間違っていなかったかどうか。」
アルノは沈黙した。
やがて小さく笑って言った。
「お前らしいな。……気をつけろ。ヴァルターの魔法は尋常じゃない。人を焼き尽くす炎だと聞いた。」
「炎は、彼の象徴だった。あの日から、ずっと。」
リディアは目を伏せた。
彼と最後に会った日の記憶が、蘇る。
――雨の中、廃墟の屋根で。
ヴァルターは空を見上げて言った。
『正義は、誰のためにある?』
その問いに、リディアは答えられなかった。
そして彼は笑い、姿を消したのだ。
翌朝、出立の号令とともに、リディアは北への街道を進んだ。
馬の蹄が泥を蹴り上げる。
荒野の向こう、黒い山脈の稜線に、薄い炎の光が見えた。
それは、戦の予兆だった。
旅の途中、彼女は焼け落ちた村をいくつも見た。
生き残った者たちは、口々に言う。
「紅い光が空を裂いた」「魔法が、神の怒りみたいだった」と。
――そのたびに胸が締めつけられる。
ヴァルターの魔法の色は、紅。
怒りでも、悲しみでも、彼の魔力は常に血のような光を放つ。
リディアは馬を降り、焦土の上に跪いた。
黒く炭化した木々の間に、ひとつの小さな笛が落ちている。
拾い上げて吹くと、風が返してきたのは音ではなく、遠い記憶。
――あの笛は、ヴァルターのものだった。
子どもの頃、よく一緒に吹いた。
彼はいつも言っていた。「音は形を持たない。でも、魂に届くんだ」と。
涙が頬を伝う。
「……あなたは、どこへ行ってしまったの」
そのとき、背後でかすかな魔力の震えを感じた。
リディアは即座に剣を抜き、身を低く構える。
風が渦を巻き、砂塵が視界を覆う。
その中から現れたのは、黒衣の男だった。
銀髪を風に流し、片手には杖、もう片手には紅い光を宿した宝石。
――ヴァルター・ルーフェン。
目が合った瞬間、時間が止まった。
互いに言葉を失い、ただ瞳だけが語り合う。
彼の声は、懐かしくも冷たかった。
「来ると思っていたよ、リディア。」
「……ヴァルター、なぜ?」
「なぜ? 簡単さ。正義を見限った。それだけのこと。」
「嘘よ。あなたがそんなことを言うはずがない!」
ヴァルターは笑った。
「俺たちはいつも夢を語ったよな。腐った王政を変える、新しい国を作るって。……でも、もう間に合わなかった。民は飢え、王は贅に溺れ、騎士たちは無力だ。だから俺は、焼いた。希望も、罪も、等しく。」
リディアの手が震えた。
「それが、お前の正義なの?」
「正義? そんなものはもう信じていない。」
その言葉が、胸を貫いた。
リディアは剣を構える。
「だったら、私はあなたを止める。それが、私の正義。」
風が唸り、炎が吹き上がる。
紅と銀、二つの光が荒野でぶつかり合った。
――その瞬間、空が裂けたように光った。
炎が嵐を呼び、剣が雷を生んだ。
そして、互いの名を叫びながら、二人は初めての殺意を交わした。
戦いは、誰も見届けなかった。
嵐が去った後、焦げた地面の上に残ったのは、一本の剣と、砕けた紅の宝石。
風が静かにそれを撫でる。
空の端で、朝日が昇ろうとしていた。
だが、その光は灰色に染まり、世界の色を奪っていった。
リディアの姿は、どこにもなかった。
夜明けは、灰の地平から立ちのぼる微かな湯気のように、生きるものと死せるものの境を滲ませていた。
風は煤を運び、煤は空の色を奪う。鳥は鳴かず、犬は吠えず、ただ露だけが焦土の上で明滅し、失われた命の数を、無言の珠として数えていた。
リディアは、冷えた泥の中で目を開いた。
世界は赤くも白くもなく、ただ鈍い鉛の色をしていて、指先に触れるものは割れた石と焦げた草の茎ばかりだった。胸骨の奥に、針の先ほどの熱が残っている。そこだけが、夜の余燼のようにじりじりと疼いた。
彼女は体を起こすと、手探りで剣を探した。刃は傍らに倒れている。
しかし柄頭に違和の感触があった。縫い目に埋まるように、米粒ほどの紅い欠片が光っている――砕けた宝石の、微塵。
指先で触れた瞬間、耳の裏で笛の音が鳴った。いや、笛の音ではない。昔、彼が麗らかな夕暮れに吹いていた旋律の、気配だけが頸の皮膚をかすめた。
――ヴァルター。
名を思うだけで呼吸が浅くなる。
彼は、嵐の裡へ消えた。剣と宝石だけを残して。死んだのか、生きているのか。世界は答えをくれない。
リディアは自らの足で立ち、焦土を踏みしめた。焼け跡の中から、小さな白い骨を避け、倒れた柵を跨いで、北の風が当たる丘に登った。そこから見えるのは、かつては畑であった黒い布地のような広がりと、遠い稜線の際を薄く走る紅の傷痕だった。
彼が、何を焼いたのか。
何のために、焼いたのか。
丘を下る途中で、壊れずに残った井戸に巡り合った。石積みに煤は付いているが水は澄み、底から冷たさが立ちのぼる。彼女は喉を湿らせ、掌に汲んで額を撫でた。夜の熱がすっと引いてゆく。
ふと、井戸の縁に巻き付いている麻紐に、封蝋の取れた筒巻きが括られているのに気づいた。拾って開く。
それは王都からの徴発命令書だった。
――凶作の報が届いた地方に、種籾と干し肉と油を「余剰」として王都へ送れと命じる。反した村には兵を派し、財貨と若者を徴して罰とする。末尾の印章は王のそれ。しかし筆の運びは宰相の筆致に似ていた。
命令書の土臭い紙を握りしめて、彼女は目を閉じた。
焼け落ちたのは、民の家屋ではない。見渡す限り家の基礎は残り、梁は黒いけれど倒れていない。炭になっているのは、集積場、倉。脱穀小屋、徴発倉庫――王府の印を押された木箱の山。
ヴァルターは、焼く対象を選んだのだ。無差別ではない。正確に、冷酷に。
それは擁護となるのか、弁解となるのか。
彼の炎は救いだったのか、それとも別の絶望の火種だったのか。
リディアは唇を噛み、命令書を革袋にしまった。彼を追うだけでは足りない。王都にも戻らねばならない。命令どおり戦況を報せ、なおかつ――この紙が語る別の戦いの理由を、突きつけねばならない。
王都へ戻る道は、いつもより長く感じられた。
街道は避難の荷車で詰まり、老人は膝を抱え、子どもは乾いたパンを分け合い、母親たちは風に晒した洗濯物のような眼差しで空を見ていた。
道中、小さな礼拝所に寄ると、司祭が壊れた祭壇の前で燭台を磨いていた。彼はリディアの泥まみれの外套を見ると、目礼し、水とパンを差し出した。
「北は……」
「燃えました。けれど、すべてではありません」
「炎は何を選んだのですか?」
「貯えを。権威の積み上げた木箱を」
司祭の目に、一瞬、奇妙な光が宿った――悲しみと安堵とが同じ皿に盛られたような、現実から半歩ずれた光。
「神は時に、背徳を借りて秩序を立て直される」
「それを、正義と呼べますか」
「名は……信じる者が与えるものです」
言葉はそこで尽きた。
礼拝所を出ると、空は鈍色のまま少し明るみ、王都の尖塔が遠くに見えはじめていた。
城門は昨夜よりも兵が多く、矢筒を満たし、槍の穂先を研ぎ澄ませていた。
リディアは騎士の証である鉤十字の徽章を見せ、詰問の槍を肩で押し分けて通った。門兵の一人が背後で囁く。
「戻ったぞ、あの女だ。紅の魔導師と――」
噂は、炎の風より速く広まる。
詰所に戻ると、アルノ・グレイが待っていた。
彼は腕を組み、目の下に濃い影を落としている。
「生きて、戻ったか」
「ええ」
「奴は?」
リディアは首を横に振る。
「炎は収まり、紅の宝石は砕けていた。だが、彼の行方は霧のように掴めない」
アルノは唇を舐め、周囲に人がいないのを確かめると、声を落とした。
「上では、お前が『情に流され任務を逸脱した』と囁く者もいる。報告の言葉を選べ――いや、選んでも同じかもしれん。宰相は、戦の話より、お前と奴の昔話に興味があるようだからな」
「ならば、私は真実だけを置いてくる」
「真実は、刃物だ。持つ手も斬る」
「持たなければ、何を斬るべきかすら分からない」
玉座の間は、昨日にも増して空気が重かった。
王は蒼白で、指は細く震え、まるでガラスの中に閉じ込められた魚のように、ゆっくりと口を開閉するだけだった。代わって宰相が一歩前に出る。青黒い衣。蝋のような頬。瞳は笑わない。
「リディア・アストレイア。報告を」
彼女は膝をつき、視線を上げた。
「北の焦土に行ました。紅の魔導師は、徴発倉を選び焼きました。村家は多く残され、人の死は、思われたほどには――」
「思われたほどには?」宰相の唇がわずかに釣り上がる。「炎に優しさが宿るとでも?」
「事実を申し上げております。さらに、王都からの徴発命令書が焼け跡から見つかりました。未曾有の凶作の中で、なお王都に糧を集めることを命じる文。民の怒りに火をつけたのは、炎そのものではなく、文字であったやもしれません」
「――僭越が過ぎるぞ」
空気が一変した。将たちの手が柄に寄り、幕僚の喉がごくりと鳴る。
宰相は横目で王を見た。王は揺れる燭のように小さく頷いた。
「特命は敵の動向の探索と、排除の可否判断であった。にもかかわらず、貴殿は敵の企てを『理解』しようとし、情状を『補助』し、王命を批し、文書を『捏造』して我らを貶めようとしている。罪状は三。任務逸脱、王命侮辱、謀反の疑い」
「……文書は捏造ではありません」
「では、証を示せ」
リディアは革袋に手を差し入れ――指が凍った。
紙が、ない。確かに入れたはずの命令書が、消えている。代わりに、袋底で小さな熱が脈打った。紅の欠片だ。彼女の脈に合わせて弱く光り、視界の隅を淡く揺らめかせる。
「証は――」
言葉が宙で乾いたとき、宰相は手を振った。
「拘束せよ」
数人の兵が踏み出す。金属の衣擦れが波のように寄せてくる。
リディアは立ち上がり、剣の柄を握った。だが抜けば、ここは戦場になる。王の眼前で血を流せば、彼女の言葉はこの上なく安っぽくなる。
そのとき、玉座の間の高窓の外を、黒い影が横切った。鐘の音。幕が風を孕む。燭火が一斉に揺れ、刹那、視界が紅く滲んだ。
耳の裏で、笛の気配。
――走れ。
感覚は命令より速かった。リディアは半歩下がり、兵の突進を躱し、肩で柱を蹴って側廊へ飛び込む。足枷はまだ掛けられていない。鎖は後ろから鳴り、怒号が追ってきた。
回廊でアルノが待っていた。
「こっちだ!」
「どうしてここに」
「お前の『真実』は刃だと言ったろう。ならば鞘も要る」
彼はタペストリーの影に隠された扉を開け、古い石段を駆け下りた。足音は城の腹の中へ吸い込まれ、湿った空気が咽にまとわりつく。
「ここは――」
「古い書庫だ。誰も使わない。いや、使ってはいるが、見られたくない連中が」
松明の火が壁の文字を舐めた。石に刻まれた紋章、廃止された騎士団名、聞いたこともない研究の符牒。アルノは一番奥の鉄扉の鍵を捻った。内側に積まれていたのは、束ねた記録綴りと、黒革の冊子。
彼は震える指で目当ての綴りを引き抜く。表紙には言葉が三つ、銅版で打たれていた――
《暁計画(プロジェクト・ドーン)》
《被験者一覧》
《炎素の継承に関する覚書》
リディアは紙をめくり、そして呼吸を忘れた。
見慣れた綴りの中、幼い字で書かれた名前。
――ヴァルター・ルーフェン。
「王国は、彼をつくった」アルノの声は低く、石のようだった。「魔法士養成院は表。裏では、孤児や下級士族の子を『育て直す』。炎の素質を抽出し、人格を矯め、忠誠を紋に刻む」
「そんな……」
彼女の胸の熱が、紅の欠片と同調する。紙の上の幼いヴァルターは、数字になり、曲線になり、成功率になっていた。
「この記録が本物なら、奴が『裏切った』のではない。最初から裏切られていたのは、彼の少年だった頃だ」
「なぜ、これを君が」
アルノは自嘲気味に笑う。
「俺は記録文官見習いだった時期がある。剣の道に戻ったつもりだったが、足は時々、古い紙の匂いを勝手に探す。……それに、噂も聞いた。宰相は、王の名を借りて暁計画の延長を目論んでいる。『炎』だけではない。『氷』も、『影』も。王国のために、だと」
王国のために――その言葉ほど、容易に暴虐の口実になるものはない。
リディアは指で紙の端を抑えながら、静かに言った。
「私は、彼を止めると言った。けれど、この紙は問う。止めるべきは、誰か」
「お前は何を選ぶ」
答えは簡単には降りてこない。剣の刃で割るには固すぎる問いだ。
沈黙のなか、紅の欠片が脈を打った。耳の裏で再び、笛の気配。今度は音形を結ぶ。
――リディア。
名を呼ぶ、声。
彼女は目を閉じ、息を整えた。
(ヴァルター?)
――三夜後、黒い山脈の裂け目の橋。来られるなら、来い。来られぬなら、ここで終われ。
声はそこで途切れ、石室の湿り気だけが残った。
アルノが彼女の顔を覗き込む。
「誰だ?」
「……風が、道を告げた」
方便は拙いが、真実をそのまま渡せないこともある。彼女は剣の柄を握り直し、背筋を伸ばした。
「私は行く。彼と向き合うために。そして、この紙を持って戻るために。正義がどちらに沈むとしても、私は沈む場所を見極めたい」
「危険だ」
「生きることは、いつでもそうだよ、アルノ」
彼は短く笑い、肩をすくめた。
「じゃあ、その刃の鞘として、もう少しだけ付き合う。王都を出る道は塞がれる。まずは顔を消さなきゃならん。――ああ、そうだ。今夜、お前の名が王都じゅうに貼られるだろう。『正義を語る女騎士、紅の魔導師と通じ謀反を企む』ってな」
「宰相の筆は早い」
「彼は、真実より先に言葉で世界を塗ることを知っている」
夜が落ち、王都は油の匂いで満ちた。
路地を行き交う者たちの目線は低く、掲示板の新しい布告に群がる。布告の紙は白く、文字は黒く、そこに描かれた似顔は驚くほど捉えていた――額の疵、顎の線、目の群青。
『アストレイアの娘、見つけ次第拘束せよ』
リディアは古着屋の裏で衣を替え、髪を黒い布の下に隠した。アルノは肩に荷を掛け、平民の男に変わり果てている。
「裂け目の橋まで馬で三日。検問を三つ越える。河を一つ泳ぐ。途中で、味方はいないと思え」
「味方は、剣と、紙と、風」
「それで十分足りれば、王国には騎士はいらんよ」
彼はそう言いながらも、掌の中に短い木札を握らせた。
「北門の外、ミルク売りの老婆にこれを見せろ。俺が昔、パンをたかって怒られた相手だ。怒りっぽいが、優しい」
「覚えておく」
去り際、アルノがふと立ち止まった。
「なあ、リディア」
「何」
「正義ってやつは、持ち上げれば持ち上げるほど、手から滑り落ちる油みたいなものかもしれん。掴めないなら、どうする」
彼女は少し考えてから言った。
「滑るなら、その油で刃を磨く。光るまで。――そう教わった」
「誰に」
「昔、炎の少年に」
アルノの眉がわずかに揺れ、やがて笑いに変わった。
「なら、光るところまで行ってこい」
王都を抜ける夜は長く、星は薄く、川は冷たい。
北門の外の小屋でミルクを売る老婆は、木札を見るなり舌打ちし、二人を納屋へ押し込んだ。臭い干草と、湯気を上げる桶。老婆は言った。
「正義なんぞ、朝露みたいなもんだよ。朝日に綺麗に見えても、昼には消える。消える前に、舐めとくか、目に入れて痛い思いをするかだ」
「あなたはどちらを」
「舐めたさ。若い頃にね。そして腹を壊した」
老婆の笑いはひどく若く、長い夜の肩を軽くした。
やがて、裂け目の橋へ続く山道が始まった。黒い山脈は近づくほどに海のように巨大になり、山肌の亀裂が呼吸をしているかのように昼夜で色を変える。
道の途中、廃村の片隅にまだ灯の入る家が一つあり、窓に小さな影が揺れた。子どもが笛を吹いている。旋律は、あの日のものに似ていた。
リディアは足を止め、耳を澄まし、そして再び歩き出す。
胸の紅い欠片が、彼女の歩幅に合わせて静かに脈を打つ。
――三夜後。
声はそこで途切れたまま、しかし確かに彼女を導いていた。
夜半、峠の背で風が変わった。冷たさの質が変わり、匂いの奥に鉄の味が混じる。
前方、渓谷を跨いで一本の橋が細い白線のように張られ、その向こうに黒い影が立っている。
ヴァルター――では、ない。
彼の影に似た形を持ちながら、別のもの。背は低く、衣は灰、杖は持たず、肩に鳥を乗せている。
影はフードを外した。現れた顔は少年――いや、少年であったもの。頬に焼印があり、瞳は火の消え残りの色をしていた。
「あなたは」
「被験者一〇六号」少年は鉄の名札を見せ、乾いた声で言った。「ここで待て、と言われた」
「誰に」
少年は答えず、肩の鳥が小さく鳴いた。
代わりに彼は袖から一枚の薄い板紙を出し、風に乗せてリディアの足元へ飛ばした。
そこには、見覚えのある筆致で短く書かれていた――
《来たなら、信じろ。来ないなら、忘れろ。暁は沈むが、剣はまだ濡れている。》
リディアは顔を上げた。
渓谷の風が強くなり、橋の向こうの闇が、ほんのわずかに紅く滲む。
宰相の布告は王都に貼られ、彼女の名は裏切りの名簿に刻まれた。
しかし、ここには別の名簿がある。少年の頬の焼印が語る、言葉なき名簿が。
彼女は一歩、橋へ踏み出した。
剣は彼女の腰で鈍く光り、柄頭の紅い欠片が朝の見えない光を呼んだ。
沈黙の誓いが、胸の奥で結ばれる。
――私は、見極める。正義が沈む先を。
たとえそれが、暁の底であろうとも。
夜風は山脈を渡り、橋の欄干を震わせていた。
渓谷の底は暗く、目を凝らしても見えない。まるで世界の終わりに立たされているような錯覚。
それでもリディアは一歩を進めた。木板がぎしりと鳴り、音が吸い込まれる。
橋の中央に立ったとき、風が止んだ。静寂が、声の形をした。
――来たか。
紅い光が霧の奥で揺れた。やがて現れたのは、かつての友の影。
ヴァルター・ルーフェン。
灰色の外套をまとい、手には杖ではなく剣。刃の縁から炎のような魔力が滲み、闇を染めている。
リディアの喉が乾いた。
「……生きていたのね」
「生きている、というより、燃え残っているだけだ」
ヴァルターの声は、記憶よりも低く、疲れていた。
「君は王都を抜けた。宰相は怒り狂っている。俺の予想どおりだ」
「あなたが呼んだのね。三夜後のこの場所で」
「そうだ。君に見せたいものがある」
彼は背後の霧を払う。そこには崩れかけた石の祠があり、中央に水晶のような装置が据えられていた。
それは淡く脈打ち、鼓動のような音を立てている。
「これは――」
「暁計画の中核だ。王国が生み出した『炎の核』。俺たち被験者の魂を分解し、魔力として再構築した結果の結晶だ。ここに、千人分の命が閉じ込められている」
リディアの背筋を冷たい汗が伝う。
祠の中の水晶が、まるで人の心臓のように鼓動している。
脈のひとつひとつが痛みの記憶を孕んでいるようだった。
「宰相はこれを『新しい太陽』と呼んでいる。王国を再び栄えさせる灯火だと。だが実際は――魂の炉だ。永遠に燃やされ続ける犠牲者の光だ」
ヴァルターの瞳が、紅く揺れる。
「俺はその中から生まれた。だから、止める責任がある」
リディアは剣の柄を握りしめた。
「だから、あなたは反旗を翻したのね」
「そうだ。だが、君が王に忠誠を誓ったと聞いて、俺は迷った。君が剣を振るう理由が、俺とは違うと思ったから」
「違う。私は……守りたかった。人を、希望を。あなたの炎が壊したと思っていた。でも、違ったのね」
「遅すぎた真実だ」
ヴァルターは剣を抜いた。炎が刃を包み、夜の闇が血の色に染まる。
「宰相は今夜、暁計画の第二段階を起動させる。王都全域を覆う魔法陣を展開し、魂を王に献上する儀式を始める。止めなければ、ルヴェンティアは灰になる」
「……私も行く」
「駄目だ、リディア。君まで焼きたくない」
「あなた一人に背負わせない。私の正義は、まだ消えていない」
風が再び吹き、橋が鳴った。
二人は並び立ち、祠を見つめる。水晶の光が一瞬だけ強く輝き、遠くの空が紅く滲んだ。
――王都の方角。
宰相が、動いたのだ。
リディアは馬を走らせた。ヴァルターは炎を纏い、並走する。
夜空には黒雲が渦を巻き、中心に光の輪が現れていた。
その輪の中から、淡い声が響く。
――「王の栄光を、永遠に」
王城の上空に巨大な紋が浮かび上がり、街全体が光に包まれていく。
人々が恐怖の声を上げ、鐘が狂ったように鳴り響く。
リディアは歯を食いしばり、剣を抜いた。
「止める! あなたと一緒に!」
ヴァルターの炎が剣に流れ込み、刃が紅に輝く。
「ならば、共に燃えよう。正義の名のもとに」
二人の影が、夜空を裂くように跳んだ。
風が吼え、炎が唸り、光が爆ぜる。
王都の中心――玉座の塔を目指して。
城門前の広場は、既に地獄と化していた。
兵士たちは空に浮かぶ光に怯え、逃げ惑い、街路が崩れてゆく。
宰相の詠唱が、塔の上から響いた。
「――魂よ、燃え、捧げよ! 王の名の下に!」
塔の周囲に浮かぶ数百の光球。
それは民の魂だった。
リディアの足が止まり、息が詰まる。
「こんな……人を燃料にするなんて!」
ヴァルターが唇を噛む。
「あれが暁計画の完成形だ。俺たちが止めなければ、すべての命が呑まれる」
宰相の周囲には結界が張られている。炎でも魔力でも届かない。
だがリディアの剣には、彼の炎が宿っていた。
「君の剣なら、届く。俺の魂を、刃に託す」
「何を言って――」
ヴァルターは笑った。
「俺は炎から生まれた。なら、最後は炎に還るだけだ。リディア、君の正義で俺を使え」
リディアの瞳が揺れる。
「嫌よ……そんなの、正義じゃない」
「違う。これは贖罪だ。俺が奪った命を、君が救う力に変える」
風が止まる。時間さえも沈黙した。
ヴァルターが剣を握る彼女の手を包み、そのまま炎に溶けていった。
痛みはなかった。ただ、胸の奥に暖かい光が灯る。
――共に燃えよう。
その声とともに、紅い魔力がリディアの体を包んだ。
髪が風に舞い、瞳が炎の色に染まる。
剣が脈打ち、炎の翼が背に生まれる。
塔の上の宰相が、驚愕に目を見開いた。
「その力……まさか、ヴァルターの……!」
「いいえ。これは――人の祈りの炎よ!」
リディアは跳んだ。
炎の翼が空を裂き、塔の頂を貫く。
剣が光を放ち、結界が砕け、宰相の詠唱が途切れる。
「お前の正義は、誰のためだ!」
宰相の叫びが響く。
「人のためでも、王のためでもない! ――未来のためだ!」
紅の剣が宰相の胸を貫いた。
光が爆ぜ、炎が空を覆う。
やがて、すべてが静まり返った。
王都は崩れず、空の光も消えた。
ただ、塔の上には、一人の女騎士が立っていた。
髪は灰に濡れ、剣はなおも淡く燃えている。
リディアは、夜明けを見た。
東の空が金色に染まり、風が頬を撫でる。
――炎の中に、ヴァルターの声が微かに響いた。
「やっと、光が見えたな」
彼女は微笑み、剣を収めた。
「ええ。……これが暁の、本当の意味よ」
夜が明け、王都ルヴェンティアには灰色の静寂が降りていた。
塔の崩壊は免れたものの、広場の石畳にはまだ黒い焦げ跡が残り、あちこちから煙が細く上がっている。
民たちは震えながらも空を見上げ、紅の光が消えたことを確かめて涙を流した。
誰もが信じられなかった――王都が、まだ生きているという事実を。
リディアは塔の頂からゆっくりと降りた。
炎の翼は消え、剣に宿ったヴァルターの魔力も静まりつつある。
彼女の体には熱の名残だけが残っていた。
胸の奥に、まだ微かに鼓動する光。
それが、彼の存在の最後の証だった。
地上に降り立つと、アルノが息を切らして駆け寄ってきた。
「リディア! 生きて……いや、無事なのか!?」
彼女は小さく頷いた。
「宰相は倒した。だが、王が……」
アルノが顔を歪める。
「玉座の間で、自らの胸を剣で貫いた。宰相が死んだと知るや否やな」
「……そう」
リディアの瞳がわずかに揺れた。
王の死は、国の崩壊を意味する。しかしそれ以上に、彼女の心に広がったのは――虚無。
王も宰相も、正義の名を口にしながら、誰よりも人を犠牲にしてきた。
「暁計画は、完全に止まったのか?」
アルノの問いに、リディアは空を見上げた。
朝日の中に、薄く光る紋章の残滓が漂っている。
「……分からない。炎は消えたけれど、あの核は生きている。祠を破壊しなければ」
「だが、王都は混乱だ。民の避難も終わっていない」
「分かってる。でも、放置すれば再び誰かが利用する。あの力は、人を狂わせる」
リディアは剣を握り直した。
ヴァルターの残した炎が、微かに脈を打つ。
彼がまだ見守っている――そんな錯覚があった。
王都の北外れ、黒い山脈のふもとにある祠。
そこは昨日と変わらず、霧に覆われていた。
だが、祠の周囲には不気味な変化があった。
焼け焦げた地面から、無数の光が漏れ出している。
魂の残滓。暁計画の犠牲者たちの記憶が、形を取り戻そうとしていた。
リディアはその中を歩いた。
どの光も人の形をしている。
幼子の手を引く母親、剣を抱いた若者、祈る司祭――。
彼らの顔には怒りも憎しみもなく、ただ静かな安らぎが宿っていた。
「私たちを、忘れないで」
耳元で声がした。
振り向いても誰もいない。
光の中から、一つの影が歩み出る。
――ヴァルター。
彼はもう、肉体を持ってはいなかった。
薄い炎の残像が人の形を取り、風に溶けそうに揺れている。
「来てくれたんだな」
「……ええ。あなたを、終わらせに」
ヴァルターは静かに微笑んだ。
「終わりじゃない。これは始まりだ。俺たちは、ようやく選べる。燃やすための炎ではなく、照らすための灯火を」
「でも、それにはあなたの魂が必要なのね」
「魂なんて、もう残っていない。あるのは、君への願いだけだ」
彼はリディアの手を取る。
その瞬間、祠の水晶が強く脈打った。
光が二人を包み、世界が一瞬だけ止まる。
ヴァルターの声が胸の中に響いた。
「炎を受け継げ、リディア。だが、燃やすな。灯せ。お前の正義で、人を導け」
「あなたは?」
「俺はここに残る。魂を繋ぐために。暁計画を、鎮めるために」
リディアは涙をこらえ、頷いた。
「約束する。私は、燃やさない炎を信じる」
ヴァルターの影が微笑み、光に溶けた。
祠の水晶が静かに砕け、粉となって風に散る。
紅の欠片が彼女の手の中に残り、熱を帯びて輝いた。
それは、まるで心臓の鼓動のように。
数日後、王都には新しい暁が訪れた。
王の亡骸は火葬され、民の代表による評議会が設立された。
かつての王政は消え、初めて声を持つ民の国が生まれようとしていた。
アルノはその中心で、新しい騎士団をまとめていた。
彼はリディアを見つけると、軽く笑う。
「まるで、別人みたいだな」
リディアは外套のフードを外し、柔らかく微笑んだ。
「炎を、灯火に変えただけよ」
「……そうか。ヴァルターも、きっと空で笑ってる」
「彼はここにいる。心の中に、灯として」
アルノが空を見上げる。
薄い雲の切れ間から、朝日が差し込む。
その光の中に、紅い閃光が一瞬だけ走った。
それは――ヴァルターの炎だった。
もう誰も焼かず、ただ優しく照らす光。
リディアは剣を掲げ、その光に誓う。
「この国を守る。もう二度と、誰も燃やさせない」
風が吹き、灰を巻き上げる。
灰は空へと舞い上がり、やがて光に溶けて消えた。
暁の国ルヴェンティア。
その名に新しい意味が刻まれた。
――『燃え尽きぬ希望の国』として。
季節が変わり、焦げた王都に再び草が芽吹いた。
黒い土は静かに再生を始め、瓦礫の隙間から名もなき白い花が咲き出している。
空は青く澄み、鳥の声が戻り、子どもたちの笑いが街路を満たすようになった。
それは、長い夜の終わりを告げるような光景だった。
リディアは城跡の丘に立っていた。
眼下には再建中の王都、遠くには山脈の影。
彼女は外套を翻し、風を感じながら深く息を吸った。
――風が、もう焦げ臭くない。
腰の剣は今も紅く微かに光っている。
その輝きは炎ではなく、灯火。
ヴァルターの魂が宿る証であり、彼の残した『祈り』そのものだった。
彼女は剣を抜き、刃先を空に掲げる。
薄い光が反射し、周囲の空気が揺らめいた。
まるで炎の残響が空に還っていくように――。
「……見てる?」
囁きは風に溶け、雲の向こうへ消えていった。
新生ルヴェンティア王国は、評議制へと移行した。
王のいない国。
しかし、誰もが少しずつ「自らの責任」を知った。
それは重く、そして眩しい変化だった。
評議会の会議場はかつての謁見の間を改装したものだ。
中央には王冠の代わりに一本の剣が立てられている。
その剣の銘は《暁》。
リディアの戦いを象徴するものとして、アルノが提案し、民が賛同して設置した。
その日、評議会は国家再建の式典を開いた。
街には人々が溢れ、鐘が鳴り響く。
リディアは壇上に立ち、深く一礼した。
「……私たちは多くを失いました。
けれど、その失われた命の上に、今、新しい未来が立っています。
炎は破壊の象徴ではありません。
希望を灯す光です。
この国のすべての命が、もう二度と燃やされることのないよう――私は誓います」
彼女の言葉が終わると、沈黙が訪れた。
次の瞬間、広場の隅から拍手が起こり、それが波のように広がっていった。
老いた者も、幼い者も、誰もが涙を浮かべながら笑っていた。
アルノが横で小さく呟いた。
「……お前はやっぱり、俺たちの希望だよ」
リディアは首を振った。
「希望は私じゃない。ここにいるみんなの中にある。
それを信じて戦っただけ」
アルノは笑い、肩を叩く。
「だったら、その信じる心ごと守ってくれ」
「ええ。剣が折れる日まで」
風が吹き、紅い花弁のような灰が空に舞った。
誰かが言った――あれはヴァルターの炎が空へ昇っていく姿だと。
夜、リディアは一人で丘に戻った。
月が静かに光を落とし、草花の間を白く照らす。
遠くで焚かれる篝火が、穏やかな夜風に揺れていた。
かつて焦土だったこの場所が、今では穏やかな香りを放っている。
リディアは腰の紅い剣を地に突き、目を閉じた。
心の奥に、炎の気配。
――懐かしい声が聞こえる。
『リディア』
「ヴァルター……」
『俺はもう、光の中にいる。でも、お前の中にも同じ光がある』
「私は……正義を見失わないだろうか」
『正義は形じゃない。人の温もりだ。誰かを想う気持ちがあれば、それはもう正義だよ』
「……ありがとう。あなたの炎、ずっと灯しておく」
『ああ。俺も、ずっと君の中で燃えている』
風が静かに吹いた。
剣の刃に映る月が揺れ、その光が彼女の頬を照らした。
その瞬間、紅い欠片が剣から浮かび、宙を舞った。
ゆっくりと夜空へ昇り、星々の間で弾ける。
火花のような光が降り注ぎ、丘を包んだ。
リディアは目を閉じたまま微笑んだ。
「――さようなら、炎の友よ。
そして、ありがとう。私に、灯をくれたことを」
光が消えたあとも、胸の奥の温もりだけは消えなかった。
数年後。
新しい世代の子どもたちが、丘の上で遊ぶ姿があった。
彼らは知らない。
この地がかつて、王都を焼いた炎の跡であったことを。
ただ、そこに咲く花が「暁の花」と呼ばれ、人々に大切にされていることだけを。
その花は白に近い淡紅色で、朝日を受けるとわずかに光る。
まるで、誰かの魂が宿っているように。
丘の下の小屋の壁には、一枚の銘板が掛かっている。
――『リディア・アストレイア 正義の騎士 暁の時代を開いた者』
銘板の下に花束が添えられていた。
その中に、小さな笛がひとつ。
風が吹き抜け、笛が微かに鳴る。
それは、炎の少年が残した最後の旋律だった。
優しく、遠く、そして永遠に――。
灰の国に芽吹いた光は、
正義を名乗らずとも人の心を温めた。
燃やすための炎ではなく、
希望を照らすための灯火として。
そしてその灯は、
今も誰かの胸で――燃え続けている。
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ここまで読んでくださり、ありがとうございます!
連載中の作品とは全く違うテイストとなりました。
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暁に沈む剣 ―The Sword Drowned in Dawn― 宙野たまき @sora_tama_igs
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