初デート②

昼食中は『普通』に過ごすことが出来た。

ベタかもしれないが、お会計はほのちゃんがお手洗いに行っている間に済ませた。

そして、店を出たのだった。


「先輩…ごちそうさまです…やっぱり自分の分は自分で払いますよ…?」


「いいよいいよ…今日は初デートだし…!」


「…でも…先輩…無職だし…」


「ぐっ…!いや、まだ貯金あるし大丈夫だよ!元社畜をナメないで!」


「そ…そうですか…じゃあ今日はお言葉に甘えちゃいます…」


そういえば僕は無職のバンドマンだった。

ほのちゃんは僕と違って、ちゃんとバイトをしているし…

よく僕なんかと付き合ってくれたな…


…さて、次は服とか見たいな…


「いくつか回りたい服屋さんがあるんだけど…どうかな?」


「…はい!先輩はどんな服が好きか…知りたいです…!」


思ってたより反応が良くて、安心した。

もし何かいいものがあれば、ほのちゃんにプレゼントとか出来たらいいな…


こうして、僕たちは1時間ほどかけて、数店舗を回ったのだった。

二人で他愛もない話をしながら服を見るのは、とても楽しかった。


「先輩…あれ…!」


ほのちゃんが目を輝かせたのは、とある古着屋でのことだった。

指を指した先には、バンドTシャツが飾ってあった。


「あのバンド…ほのちゃん好きだったよね…?」


「…はい…!あんなデザイン初めて見ました…!」


少し高い所に飾ってあったので、店員さんに言って取ってもらった。

ほのちゃんは嬉しそうに、Tシャツをまじまじと見ている。


これが良さそうだな…


「ほのちゃん…それほしい?」


「…えっ…!はい…欲しいです…買っちゃおうかな…?」


「レジで預かっといて貰おっか?」


「…そ、そうですね…一旦…」


こうして、自然とTシャツとほのちゃんを離すことに成功した。

その後も一緒に店内を見て回ったのだが、隙を見て僕だけレジに行き、会計をした。


ほのちゃんはお店の奥で僕を探している様子だったので、遠くから袋を掲げて合図をした。

いそいそとこちらに歩いてきている。可愛い。


「すみません…はぐれちゃいました…何か買ったんですか?」


「これ…どうぞ…!」


僕はTシャツの入った袋をほのちゃんに手渡した。

ほのちゃんは一瞬、何が起こっているか理解していない様子だった。


「…え…!まさかこれ…!そんな…!お金…!」


「いやいや!プレゼントだから!今日はお言葉に甘えてくれるんでしょ?」


「うう…!で、でも…」


「ね?」


「…そ…そうですね…今日は…甘えちゃいます…あ…ありがとうございます…!」


ほのちゃんは今日一番の笑顔を見せてくれた。

これで先ほど失った数万円のダメージは一瞬でどこかへ消えていったのだった。

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