バイト先の後①

「ねえ、またチューしてほしい?」


あっちゃんはいつも唐突だ。


「なっ、なにを…!さっき友達って…」


「え~?大人なんだから~本音と建前だよ~?」


「…ずるいぞ」


あっちゃんはカラカラと笑った。

本当に可愛く笑う人だ。


「チューは…してほしくない…嫌だっていう訳じゃないんだけど…困るというか…」


「3人とも好きなんだ?」


そりゃまあ、好きだ。

でも、それは恋愛の好きなのか分からない。

仮にそうだとしても、3人全員と付き合います…という訳にはいかない。


「私、2番目でも3番目でもいいよ?」


「あっちゃん…冗談でもそんなこと…」


「冗談じゃないよ?」


さっきまで笑っていたあっちゃんの顔が真剣になった。


「だって好きだもん。好きな人と離れたくないの。離れるくらいだったら2番目でも3番目でもいい。」


「それはだめだ!」


「なんで?」


「それは…相手を悲しませるから…?」


「じゃあ、3人ともOKだったらいいの?」


「いや…」


「なんで?」


なんでだろう。

でも、そんなの誠実じゃない。

誠実じゃ…


僕は黙り込んでしまった。

複数人と付き合うのはダメだという確固たる『倫理観』はある。

でも、それがどうしてダメなのか、論理的に説明が出来ない…


「あーごめん…ちょっと意地悪しちゃったね…まあ一旦忘れて!のもうよ!」


「あ、ああ…」


「一旦忘れて!」


「う、うん…ごめん」


僕はその後、あっちゃんと何を話したか、あまり覚えていない。

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