【ジャスティン・マン敗北!?】

天野

【ジャスティン・マン敗北!】

「分かるかカップルどもよ!貴様らは滅びなければならない!この【ラブラブ阿修羅カイザー】によって!」


 怒りの阿修羅を模した仮面を付けて暴れる9本腕の怪人【ラブラブ阿修羅カイザー】は、カップルを襲い街を混乱させていた。


「きゃー!怪人よ!」

「今日はやっと取れた有給だったのに!なんで怪人が!?」


「決まっているその恋は嘘だからだ。恋など一時の感情に過ぎぬ!それを永遠と信じるなど笑止千万!!」


 カップルの男性の襟を掴み上げるラブラブ阿修羅カイザー。


「貴様らには分かるまい。この私の身体を通して出る力が!」


「な、なにを……」


 首元を掴まれ、息が苦しくなっていく中で、男性はラブラブ阿修羅カイザーの掴んでいる腕を必死に掴み、もがくが……、


「そう!この私の力こそ、私の主張が正しき証!だから、私にはあるのだよ!貴様らを罰する力が!!」


 己の力を絶対的正義と信じ、男性の腕を鉛筆のように容易く折るラブラブ阿修羅カイザー。


「あ"、ああああ!?う、腕が!?」


「ハハハハ!これが罰だ。これが世界が認めた私の力だ!」


 その光景に周囲の人々は阿鼻叫喚の叫びを上げ、逃げ惑う。


 ラブラブ阿修羅カイザーはその様子をみて、ほくそ笑んだ。


「なんと素晴らしき光景か。たかが1人の人間だった時はノミのようだったものが、力を得てこうも変わる。おかしいと思うだろう?うん?」


「ヒッ!?」


 恐怖に怯え、逃げられなくなったカップルの女性はラブラブ阿修羅カイザーに見つめられ、身体が震え出し座り込んでしまう。


「貴様も同じようにしてやろう。そして男が死ぬ様を近くで見るのだな!」


 男性と同じ様に女性の襟元を掴もうとする。


 このままでは、カップル2人の命が危ない!誰か、誰か助けはいないのか!?


「待てい!」


「ぬ?」


 自分より高いところから聞こえる声を不快に思い、振り返るラブラブ阿修羅カイザー。


「誰だと聞かれれば、答えなければならない正義の道」


 体全てを、赤いタイツのようなスーツで戦うヒーロー。


「いや、誰か聞いてないが」


「そうだ!私こそ正義のヒーロー、【ジャスティン・マン】!!只今到着!」


「聞いてないのだーがー?」


「とうッ!」


 正義のヒーロー特有の3点着地――スーパーヒーロー着地を決め、ラブラブ阿修羅カイザーの前に降り立つジャスティン・マン。


「男の人を離せ、ラブラブ阿修羅カイザー。勝負だ!」


 ビシッと指を突きつけ、正々堂々の勝負を要求するジャスティン・マン。


「ちっ、良いだろう。ジャスティン・マンとやら、貴様の力がどう強いかは知らないが、勝負してやろう」


「今のうちだ。2人共逃げるといい」


 ラブラブ阿修羅カイザーが男を放すと、それを見事にキャッチし、女性と共に逃走を促す。


「ありがとうジャスティン・マン」

「勝ってねジャスティン・マン」


 正義のヒーローの登場に恐怖が緩和され、動けるようになった2人はヒーローを案じ、去っていった。


「良い身分だな。これで満足か?ヒーロー?」


 正義の味方が目の前にいるため、隙を作りたくなかったラブラブ阿修羅カイザー。


 仕方ないとはいえ、カップルにヒーローが応援される姿は、余計に腹が立って仕方がない。


「満足はしていない。だが、人々の笑顔のため、これで良かったのだ」


「何を言う!!」


 余裕綽々というヒーローの態度にさらなる怒りを覚え、9本全ての拳を握り締め、ジャスティン・マンに向ける。


「9本だぞ!9本だ!この9本の腕が貴様を殺すのだ!恐れろジャスティン・マン!」


「来い。ラブラブ阿修羅カイザー」


「貴様ーーーーー!!」


 自身に対して全くの恐れを抱かないジャスティン・マンに怒りを発狂し、殴りかかる。


「わかるか!!お前に!俺の苦しみが!何がヒーローだ!!都合の!良い時にだけ!来る!存在のくせに!」


 9本1発1発に思いを乗せ、ジャスティン・マンを殴るラブラブ阿修羅カイザー。


 ジャスティン・マンはただ、その攻撃全ての攻撃を体で受けた。


「何故ガードもしない!舐めているのかジャスティン・マン!!」


 自分を舐めたその態度に、更に怒りを昂らせる。


 だが、ジャスティン・マンは仁王立ちしたままで、静かだった。


「何故だ!殴られているのに!何故!そんなに!余裕なのだ!もう誰も!お前姿など!見ていない!というのに!」


 既に人々は皆、怪人の姿を見て逃げていった。誰も見ていない。


 どれだけ暴れても、周囲の被害を気にせず戦える状況だというのに、ジャスティン・マンには別の懸念があった。


「君が苦しそうだからだ」


「な、に……?」


 予想外の言葉をかけられ、怒りが揺らぐラブラブ阿修羅カイザー。


「君の声が、苦しみに満ちている限り!正義のヒーロー【ジャスティン・マン】はその怒りと、立ち向かう!」


「お前……グッ!?」


 怒りが揺らぐ中で、怪人としての想いが【彼】をまだ支配する。


「来い!【ラブラブ阿修羅カイザー】!正義のヒーロー【ジャスティン・マン】が相手だ!!」


「うおおおおおおおおおおお!!!!」


 全ての想いを乗せ、戦う2人。


 正義のヒーローと怪人。果てしなき想いと信念はぶつかり合い、決着へ至る。


 ジャスティン・マンは、負けた。


 ――だが、【彼】は怪人に勝利した。

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