第2話 書き続けた想い
手紙を書き始めてから、もう二週間が経っていた。
毎晩、部屋の机に向かって想いを言葉にする時間が、私にとって一日で一番大切な時間になっていた。
「今日の拓海くんは、数学の時間に困っている田中さんに教えてあげていましたね。そんな優しいところが、私は大好きです」
今日もそんな風に、彼の何気ない行動を手紙に書き留めていく。彼がどれほど素敵な人なのか、私がどれほど彼を想っているのか、全てを伝えたかった。
でも、書けば書くほど、この想いがどれほど大きなものなのかを実感してしまう。三年間、ずっと胸の奥で温めてきた気持ち。それを相手に伝えるということの重さに、時々息が苦しくなった。
「美咲、最近夜更かししてない?目の下にクマできてるよ」
朝食の時、母が心配そうに私の顔を覗き込んだ。
「大丈夫、受験勉強してるから」
嘘ではなかった。手紙を書く前に、ちゃんと勉強時間も確保していた。でも、一番時間をかけているのは、間違いなく手紙だった。
学校では、いつも通り彼を遠くから見つめていた。相変わらず彼は私の存在に気づく様子もなく、友達と楽しそうに話している。
私たちが直接話したことは、三年間で数えるほどしかない。それでも、彼の笑顔を見ているだけで幸せだった。この気持ちを伝えられたら、きっと今よりもっと幸せになれるのだろうか。それとも、今のこの片思いの時間が、実は一番美しい時間なのだろうか。
そんなことを考えながら、私は今夜も手紙を書いた。
「もしかしたら、この気持ちを伝えることで、今の関係が変わってしまうかもしれません。でも、何も伝えずに卒業してしまうことの方が、きっと後悔すると思うのです」
手紙は、だんだん厚くなっていった。便箋は既に十枚を超えている。きっと彼は驚くだろう。こんなに長い手紙をもらったことなんて、きっとないだろうから。
でも、三年間の想いを込めるには、これでも足りないくらいだった。
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