君への最後の手紙~送れなかった想い~
雨音|言葉を紡ぐ人
第1話 桜咲く季節に
桜のつぼみが膨らみ始めた三月、私は高校生活最後の春を迎えていた。
教室の窓から見える桜並木は、まだ満開には程遠いけれど、薄紅色の小さな花びらがちらほらと顔を覗かせている。きっと卒業式の頃には、美しく咲き誇っているのだろう。
「美咲ちゃん、今日も拓海くんのこと見てる?」
隣の席の麻衣が、くすくすと笑いながら私の肩を突いた。慌てて前方の席に座る彼から視線を逸らす。
「見てないよ」
「嘘だ。だって美咲ちゃん、拓海くんがいない時は全然前を見ないもん」
麻衣の指摘は的確で、私は頬が熱くなるのを感じた。
中島拓海。同じクラスになって三年目の彼への想いは、気がつけば私の心の大部分を占めていた。
彼は特別目立つタイプではない。身長も高くないし、スポーツが得意なわけでもない。でも、困っている人がいるとさりげなく手を差し伸べる優しさと、時々見せる少し照れたような笑顔に、私はすっかり心を奪われてしまっていた。
「卒業まであと少しなんだから、告白しなよ」
麻衣の言葉に、私の胸がきゅっと締め付けられる。
そう、もう時間がない。卒業したら、きっと会う機会もなくなってしまう。彼は隣の市の大学に進学予定で、私は地元の短大に通う予定だった。
「うん、そうだね」
私は小さくうなずいた。本当は、もう決めていた。卒業式の日に、彼に手紙を渡すと。
家に帰って机に向かい、私はいつものように便箋を取り出した。もう何十枚も書いては破り、書いては破りを繰り返している。でも今日は違う。今日こそは、最後まで書き上げるのだ。
「拓海くんへ」
ペンを持つ手が、わずかに震えているのがわかった。
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