星の海に君を想う

羽鐘

星の海に君を想う

「月が綺麗ですね」

 冬に差し掛かった新月の夜、降ってきそうなほどの星空を眺めながら、君はぽつりと呟いた。


 そっと握ってきた手がとても冷たいのに、僕の心にゆっくりと熱が伝わってくる。


「今日は新月だから、月は見えないよ」

 君の言葉の意味はわかっていたけど、僕は真面目に答えた。

 ほんの少しだけ力を込めて握り返したけど、君の顔を見ることはできない。

 見てしまえば、引き返せないから。


「今日は月が砕けて星たちが輝きを取り戻す、月の優しさが切なくて、綺麗」

 君は僕にそっと寄り添い、肩に頭を乗せた。

 僕の心臓が半拍だけ早くなる。


「僕は月になれない。君を心から愛しているけど、君を奪っていくことができない」

 君の体温、匂い、柔らかさ。

 僕を掴んで離さない。

 報われない愛なのに、想いだけが積もっていく。


 わかっているんだ。

 お互いに愛し合っているんだ。

 おでこに触れるだけのキスをする。

 誰よりも強い僕の愛を、その一瞬に込めて。


「あなたが教えてくれた、新月の星空。まるで星の海。幻想的なほど綺麗な海。でも、私はあなたを見ていたい。月のように優しくて、遠慮がちなあなただけを」

 君の強い眼差しを感じ、僕は君の瞳を見つめた。

 熱を帯びて潤んだ瞳。

 僅かに開いた唇が、僕を求めていた。


 止めなければならないのに。

 弱い僕には無理だった。

 僕なんかでは君を幸せにできるはずはないのがわかっているけど、君に僕を欲しいと思わせたかった。

 僕が君を誰よりも欲しいから。


「見えないけど、確かに、月は綺麗だね」

 君を抱き寄せて、唇を重ねた。

 君の震える肩を包み込むように、羽のように優しく。



 君の少しだけ伸びた髭が、お互いの頬を刺し、許されない愛の痛みを覚えさせた。

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