桜と君と
超論理的なチワワさん
第1話
朝6:00
僕が目覚まし時計に起こされる時間だ。
小学校に入って1年、毎日このアラームに起こされてるけど、この甲高いベルの音にはまだ慣れれない。
だから、僕は毎日溜まる鬱憤を叩きつける様に目覚まし時計を強く握り、苛立ちながらスイッチをオフにする。
これが最近の僕の朝だ。
朝起きたら次はやる事がある。
歯を磨いて顔を洗うんだ。ちょっとめんどくさいなって思ってた時もあったけど、最近はちゃんと毎日続けれている。もう僕も小学2年生になったんだから。
さて、歯を洗って顔を洗ったら次は朝ごはんを食べる!顔を洗った後はとても気持ちが良くて、心なしかご飯がずっと美味しく感じる。今日のご飯は、鮭とサラダどご飯と味噌汁だった!お母さんの料理はとても美味しいんだ。
ご飯を食べたら、昨日のうちに用意したランドセルを背負っていざ出発!今日も学校に行ってきます!
元気良くそう発してドアを開けると、リビングの方からお母さんの声が聞こえてくる。お母さんはいつも、いってらっしゃい、気をつけてね。と言う。僕はもう2年生なのに。
今日の天気は雲一つない青空だ。
澄んだ空気を肺いっぱいに溜めて、見慣れた景色を見渡してみる。でも、今日は何故だろう。一味違う景色に見える。溜めた空気を吐き、ニコッと笑い、僕は学校へと進む。2年生初日の朝、幸先の良いスタートだ。
「お〜いタナトく〜ん!」
学校へと歩みを進めた3歩目のことだった。今となっては聞き慣れた、風のような優しい声が僕を呼び止める。
「も〜酷いよ先に行っちゃうなんて」
「遅いんだから仕方ないじゃん」
「2年生初日なんだよ〜?前一緒に行こって言ったじゃん!」
「ふん。」
「まぁ良いや!ほら!!一緒に行こ!」
すると彼女、菊崎梨留は僕に手を伸ばしてくる。
これは僕と一緒に手を繋いで学校に行きたいってことなんだ。一緒に横断歩道を渡ったあの日から、僕とリルちゃんは毎日一緒に学校に行くことになった。
約束をしてる訳でもないけど、なんなとなくリルちゃんと一緒に学校に行く事が僕の当たり前になったんだ。リルちゃんと話してると、とっても楽しいし、胸の奥がどきどきする。だから、こうやって手を伸ばしてくれるのを見ると、僕はとっても嬉しくなるんだ。
でもねちょっと恥ずかしい気持ちもある。クラスの子に見られて茶化されたりするし、頬があったかくなって、その事をリルちゃんにからかわれたりもするから。それに、なんだか子供扱いされてる気もする。僕はもう2年生なのに。
だから
「きょーはてつながないよ」
「え・・・?なんで・・・?」
「もう2年生だもん、子供じゃないし」
「そっか。じゃああたし、先行くね。」
「え、うん、」
そう言うと、リルちゃんは走って行ってしまった。
とても悪い事をした様な、心がギィギィと音を立てて、ぼくのハートを小さくしていってるようなきがした。リルちゃんに、あんな悲しい顔をさせてしまった。
リルちゃんのあんな顔、初めて見たな。謝らないとだめだよね。
今すぐに、走ってリルちゃんを追いかけなきゃダメなのに、走る元気が沸いてこなかった。
足が重たくて、足にオモリをつけてるんじゃないかってくらい、歩幅が小さくなっていた。
トボトボと、見慣れた景色の通学路を歩いて行く。
何百回も見たこの景色に、あまり変わりようは無く、ただあの花が咲いていたとか。あの家の犬が可愛いとか。そういった何気ない変化とか日常を、いつもリルちゃんと楽しんでいた。
だけど、今日はそんな日常の変化も、何もかもに色がなく。ただ隣を歩き日常を共にする人が居ないだけで、こんなにも、世界の色は違うのだと、色のついていない花を見て、僕は思った。
学校に着いた。
いつの間にか着いていたな。学校までは、結構遠かったんだ。初めて知ったや。
2年生の初めだから、玄関の張り紙にクラス分けの名簿が貼られているらしい。きっと、あの人だかりがそうだ。
それでも、ずっと少ない人だからだと思う。僕とリルちゃんは早起きで、毎日早めに学校に行っておしゃべりをしていたから。
だから、すんなりと人混みを避けて名簿の目の前まで来れた。とりあえず、1組から見てくことにしようかな。えっと1組は、
あ!リルちゃんは1組だ。
僕の名前はあるかな。僕の苗字は花茎だから、ちょっと下ら辺かな。
少し下に目線を向けると、僕の名前が書いてあった。
やった!今年もリルちゃんと同じクラスだ!早く教室に行って謝らないと!!
そう心の中で歓喜し、玄関の中に入る。玄関の中は思ったより人が少なくて、新しいクラスの靴箱も、僕の新しい番号もすぐに見つける事ができた。
急いで靴を脱いで、持ってきた上履きを履かずに教室に走る。途中先生とすれ違ったから、その時は少し歩いて、また走った。
ガラッ、と
教室のドアを開けるとそこには数人の新しいクラスメイトがすでに座っていた。1人1人顔を見て確認するけど、リルちゃんは居ない。僕より先に学校に着いてるはずなのに。真面目で、早歩き気味なリルちゃんが、オモリがついた僕より遅くつくなんて事はない筈だ。
嫌な想像が頭をよぎった。事故に巻き込まれたとか。不審者に連れて行かれたとか。転んで怪我をして泣いているとか。大変だ。
気づくと僕は廊下を走っていた。途中先生が僕に声を掛けたみたいだが、急いでいたから無視してしまった。後で謝ろう。玄関で靴を履いて、さっきよりちょっと増えた人だかりを避けて学校の外に出ていった。
僕が登校したルートだと見なかったって事は、違う道で行ったって事になる。僕は、もう一つの道に心当たりがあった。
きっと僕と喧嘩して、いつもと違う道で学校に行って、そこで事故なり事件なりに巻き込まれたんだ。
嫌な想像が頭から離れない。もし、あの時あんな事を言っていなければ。あの時手を繋いで、学校まで行けていれば。
今頃2人で、新しい教室の中で楽しく話してた。
ばか。僕のバカ。意地ばかり張って、ガキみたいだ。
ちゃんと謝るから、もう2度と離したりしないから、何事も無く無事でいてほしい。
無我夢中で走り、息を切らす。
息を整えたら、また走り、息を切らす。
そんな連鎖を、繰り返してる時だった。
ここは、リルちゃんと初めて会った横断歩道。その横断歩道の向こう側に、1人座り込む少女を見つけた。
「いた。」
-------
いたい。
タナトくんと分かれた後、必死で走って逃げた。
初めて好きになった男の子。私にとって、タナトくんとの時間は何より大切なものだった。
タナトくんと学校に行けるってだけで、私は明日が来るのを楽しみに待てる。あれほど行きたくなかった小学校を、薔薇色に変えてくれた。
だから、一緒に学校に行きたかったし、タナトくんも同じ気持ちだと思ってた。
足がジンジンといたい。
私は横断歩道前の道の脇に座り、地面を見下ろした。
灰色のコンクリートの地面は、驚くほど冷たく、私をつけ離す。
なんでこんなことしてるんだろう。
ただ好きな子に手を繋ぐ事を拒まれた位で、どうしてこんなに落ち込んでいるんだろう。そんな問いの答えは、出るはずもなかった。
何故なら、それはもう答えだったから。
好きな子に拒まれると、女の子は悲しいのだ。
ポタポタと、地面が濡れた。私の目から涙が溢れてきた。
タナトくんに謝りたい。でも、どうすれば良いかわからない。ちゃんと謝って、またタナトくんと学校に行きたい。鼻を啜り、息が乱れる。
彼に嫌われたら、私はもう生きていけないかもしれない。
嫌われたくない。
周りの人にバレない様に小さく声を上げて涙を流した。自分が情けなくて、弱々しくて、嫌になって。
そんな自分を好いてくれる人なんて、誰も居ない。
考えれば考えるほど、涙が止まらない。
イヤだよ。
「たなとくん、」
震えた唇から、捻り出た声は、微細で、掠れていて、弱々しい。しかし尚、彼にとってその声は、風のような優しい声なのだ。
「リル!」
「え、」
ゆっくりと、顔を上げる。
救いを求めるような、希望を求めるような少女の声は、奇跡を起こすものなのだ。
---
早く早く早く。
ここの信号の長さに苛立ちが隠せない。
目の前に、数十メートル先に居るのに。はやく、1秒でもはやく彼女に謝りたい。
怪我をしているのか、顔を足に埋めてジッと座っている彼女は、少し震えていた。
でも良かった。大きな事件とか誘拐とかじゃない。安心して頬を緩めると、自分の顔が湿っている感覚に気づいた。
ヤベっと思い、ティッシュを取り出し顔を拭くと、信号は青になる。
彼女に向かい、一直線に、僕は走った。
「リル!」
「え、」
彼女の頬には、涙の跡があり、目元は少し赤かった。
彼女は嬉しいような、悲しいような、期待と恐怖が混ざった様な目で僕を見上げた。
好きな子に、こんな目をさせてしまった。
そんな目を見てなんて言えば良いのか迷ってしまった。
ううん。でも、大丈夫だ。
「横断歩道が怖いの?」
僕はニコッと笑い、くすぐる様にリルに問いかけた。
「え、は!怖くないもん!」
彼女は一瞬戸惑った声を出したけど、いつもの様子の僕を見て安心したのだろうか、そんな軽口を叩いた。
「僕は怖い。」
「じゃあ、一緒に渡ろ!」
「うん!2人で渡れば怖くないしね」
懐かしい会話に微笑みあった。彼女の可愛らしい笑顔と八重歯も、昔からずっと変わらなくて、僕はそんな彼女の笑顔が大好きだった。
「あ、その前に」
僕はランドセルから絆創膏を取り出して、リルの足に貼り付けた。傷は中々に大きくて、絆創膏を2枚も使った。痛かっただろう。
「歩けそう?」
「うん、だいじょーぶ。」
そういうと彼女は僕の手を取って立ち上がり、歩き出した。オレンジ色のコンクリートを踏み、桃色の桜を見上げながら。
「全く心配したんだからな」
「だって、もう一緒に学校行かないかと思ったんだもん」
「はぁ?な訳ないだろ」
「でも、心配させてごめん。」
「わたしもごめんね。」
「もう、絶対あんなこと言わないから」
「う、うん。」
「あれ、リル?顔が桜色になってるよ。」
また一つ、新しい事を知った。彼女は春になると、顔を桜色にさせて笑うんだ。
桜と君と 超論理的なチワワさん @cho_ronriteki_tiwawa
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