7-2

「銃にサイレンサーを付けておけ」

 収納ボックスの前にかがみ込んだクラッシュが新人の方を見ずに黒い部品を放り投げる。慌ててキャッチした彼女は自分の拳銃を取り出して装着した。もう一つを見つけ出したクラッシュも自分の銃に取り付ける。

「この資機材、NSBの物なんですか」

「ああ。ニューヨーク支部が所有しているのはあの部屋だけじゃないからな。倉庫も開発室も沢山あって、これはそこから急ぎでかき集めて運び込んでくれた分だ」

 そういえばレディが、クラッシュはNSBの金庫に忍び込もうとして捕えられたとか言っていた。あれは会議室とは別の場所を示している雰囲気だった。今回のように一箇所が襲撃されてもカバーできるよう、資源は各地に分散させてあるのだろう。

「無線も着けますか?」

「いや、いい。俺と新人くんは行動を共にするし、通信を繋ぐ相手がいない」

 新人はそっと無線を箱に戻した。まだ二度しか任務を遂行していないのに、レディと通信が繋がっていないことを心細く思った。

「また車で行きますか?」

「そうだな。ヘリは目立つし、徒歩は遠いし。地下鉄は二十四時間動いてるが、深夜は人が少ないから防弾ベストを着込んだ新人くんが目立つ」

「二十四時間?!」

「ニューヨークの地下鉄に終電はないぜ」

 クラッシュは新人のカルチャーショックを笑って立ち上がる。

「ほら行くぞ」

 すたすたと先に出てしまう彼を彼女は慌てて追いかけた。

「行ってきます!」

 行ってらっしゃい、と返し、部屋に残った職員たちは懸命に振り返って叫んだ彼女を見送る。

 クラッシュはホテルの駐車場で車のロックを開けた。ジープやトラックばかりが走っていた田舎出身の新人に車種は分からないが、ここは高級ホテルでありこの黒いぴかぴかの車も高そうだというのは分かる。

「なるべく綺麗にここへ返すよ」

 助手席に乗り込んできた新人に向けてクラッシュは言った。不満そうな顔をしていただろうか。盗難にはまだ慣れない。

「その装置、名前は何というんですか」

「ウェーバー」

「スマートキーの電波、ウェーブを操るから?」

「そう」

 高級車らしい低い音でエンジン音が掛かり、滑るように駐車場から出ていく。

「私もウェーバーを持つようになるんですか?」

「そうじゃないか? 技術と資金がかかるらしいからあまり沢山はないかもしれないが」

「クラッシュはどういう基準で車を選んでるんですか」

「好み」

 ウインクしたクラッシュをじとりと見る。

「冗談だ。目立たないのは大事だな。昼間なら流通している台数の多い車種を選ぶし、夜は黒一択だ。目立っていいときなら赤とか大好きなんだが」

 結局好みを語っている彼に新人は呆れるのを忘れて笑ってしまった。車が心から好きらしいのも、仕事なので当然なのだが目立っていいときと悪いときを考えているのもおかしい。

「赤、似合いそうですね」

 まだ乗っているところを見ていないが想像して言う。

「そうだろう? 嬉しいな、ミニクーパーとか可愛いんだ。スマートキーじゃないクラシックカーは滅多に乗れないんだけどな」

 新人は適当に相槌を打つ。彼の体格では狭いだろうに小さい車を好むのを少し意外に思った。子供も好きらしいし、小さいものを愛でたい人種というのはいるらしい。

 彼にとっては自分やレディもその小さいものに含まれているとは微塵も思っていない彼女は窓の外を眺めた。

 ニューヨークの夜は眩しい。窓の外では煌々とネオンが灯り、街灯に照らされていないところがない。

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