第7話 ダイナミック帰還

7-1

「爆破されたビルって入っても大丈夫なんですか? 倒壊しませんか?」

 新人は尋ねる。

「彼らの見立てでは俺たちの職場のある十五階だけが爆破され、内装は吹き飛んだが床が抜けたり倒壊したりすることはないらしいな」

 クラッシュは拳銃を確かめながら背後の職員たちを顎で示して言った。

「その場にいたら爆死するけど建物への影響は少なかったってことですね」

「まあそうだな。そもそも予告を送ってきている時点で殺しが目的じゃないから、殺傷能力の低い爆薬を使ったんだろう。といっても壁は穴ぼこで焼け焦げてるだろうし窓も全部割れてるから、リフォームするまで部屋は使えないけどな。三十階建てのビルだけあって、基本構造は頑丈だったらしい」

 部屋の隅には大きな収納ボックスがいくつも積み重ねられている。その中の資機材をごそごそと漁っていたクラッシュは、黒いベストを掴んで戻ってきた。

「新人くんはこれを着ておいで」

「重っ。防弾ベストですか」

「着たら動けないか? 技術班の努力で、前後から拳銃を通さない性能を維持しつつ四キロまでは減らしてあるんだが」

「いえ、大丈夫です。警察学校では十キロのを着て訓練してました」

「ならよし。君、そういうところはちゃんと優秀だよな。俺たちは不意打ちの最初の一発に耐えられればそれでいいから、危険な現場で前線に出る警察とは求める耐久度が違うんだ」

「クラッシュも着ますか?」

「ん?」

 新人はじれてベストを突き出した。

「はぐらかさないでください。クラッシュも防弾ベストを着ますよね」

 クラッシュはうええ、と言いたげに顔を顰める。

「重いと動きが悪くなるから着たくない。デメリットがでかすぎる」

 新人はいざというときの彼の俊敏さを思い出した。

「でも、着てほしいです」

 彼の目を見て粘ってみる。口元をへの字にした彼が新人をじとりと見つめ返して黙る。諦めない。

「……分かったよ」

 目を逸らさないでいると、根負けしたのは彼の方だった。

「ありがとうございます! 私、仕事着に着替えてきます!」

 ぱあっと笑顔になった新人はベストを抱え、くるりと踵を返してベッドルームに入る。クラッシュは仏頂面で彼女を見送り頭を掻いた。

「丸くなったな」

 スナイプが呟く。

「黙るんだ」

 クラッシュは彼を指差して注意し、苦笑いしつつジャケットを脱ぐと、ボックスからベストを引っ張り出して着込んだ。

 部屋から出てきた新人は素っ頓狂な声を上げる。

「あれ?! それ、ジャケットの中に着られたんですか?!」

 クラッシュはジャケットの前を広げてみせた。

「君に言われた通りにちゃんと着てるぜ。うるさいな、俺が薄いことにはもう触れなくていいんだよ」

「だって私は絶対に入らないからびっくりしちゃって」

 新人は黒のパンツスーツに着替えていて、その上から分厚いベストに守られていた。重みと少しの動きにくさが彼女に安心感を与えている。

「体もスーツも男と女じゃ作りが違うんだから当たり前だろう」

 クラッシュはぼやきながらジャケットの前ボタンを留めた。

 それにしたって、このベストを中に着込んでいるのが分からないのはすごいと新人は思うのだった。

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