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エレベーターで十五階まで上り、実際に迷路のようにフロアを幾度も曲がりながら進む。道中クラッシュがペラペラと説明してくれるのだが、何せリーチが違うので新人は歩く速さに付いていくのに必死だ。そろそろ通過する部署の名前を覚えきれないかもしれない、と本気で出勤の度に迷うことを覚悟しはじめた頃に、クラッシュは一つの部屋に入った。
「おはよう、クラッシュ」
「おはよう、
先に入ったクラッシュが呼ばれるのを聞き、ようやく「着いた」と彼女は確信する。なぜならこれまでの道のりですれ違う人々に彼は散々話しかけられていたが、クラッシュと呼ばれるのを聞くのはここが初めてだったからだ。
「おはようございます!」
彼女は恐る恐る彼の後ろから部屋を覗き込む。ごく一般的なオフィスに見えた。彼女には他で働いた経験なんてなかったけれど。ドラマで見るような、一人一人にデスクがあてがわれ、それぞれがコンピュータに向かって忙しく作業している部屋。
デスクは何台かずつ向き合って島になっていて、入って右にはそれらと少し離したデスクが部屋を見渡せる向きに設置されている。その部屋で一番上の地位の人間が座るであろうその席には、年配の女性が着いていた。
「おはよう、新人くん。歓迎するわ」
彼女は新人を認めると口元だけで微笑んで僅かに頷いた。眼鏡の向こうの瞳はどこか鋭く、ショーンと違って彼女は厳しそうだという印象を新人は抱く。
「あ、あの、」
慌てて名乗りかけて、新人は口を噤んだ。ここでは本名を名乗るなと言われたばかりである。
「ああ、いいのよ。入ったばかりだもの。まだ名無しよね。私はUXと呼ばれているわ。どうぞよろしく」
「UX」
「ええそう。今後の活躍に期待しているわね」
握手を交わすが、名前を聞き返しても由来の説明はない。有無を言わさぬ気配に、新人は頷くしかなかった。
「さ、ひとまずクラッシュに続いて」
「開けるぜ?」
「良いわよ。今更ぶつかったりしないわ」
「一応礼儀かと思って」
「貴方くらいよ、あたしを年寄り扱いしていちいち声を掛けるのは」
「年寄り扱いなんかじゃない、敬ってるんだ」
UXの背面にある壁は一面鏡張りだ。幅二メートルはある鏡が複数貼られた、そのうちの一枚にクラッシュは黒手袋を嵌めた手を当てた。UXの言葉に肩を竦めながらその手をぐっと奥へ押す。僅かな力を込めただけで、鏡は中心を軸にして回転扉のように回った。ずらりと分厚いファイルの並んだマホガニーの本棚が鏡の背面に付いているのがまず見えて、鏡が半回転したその奥に全く雰囲気の違う隠し部屋が現れる。
「わお……」
新人は言葉を失った。
「ようこそ、連邦捜査局国家保安部ニューヨーク支部へ」
クラッシュは扉を押さえたまま新人の反応を楽しそうに眺めた。
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