肩に触れる気味の悪いストライプ男
エリールたちとの遭遇後、ラビィは打ちひしがれるフェスタと大通りで別れて劇場へと向かった。
(あの2人は別れていたのね。いい感じじゃない)
自分が入り込むチャンスができたと感じると嬉しくなった。フェスタはその気がないと言っているが、これは確実にチャンスだ。
(それにしても、今日はデートみたいだったなあ……)
ケーキを食べながら話す、まさにデートだ。
ラビィは、ちょっとしたことで壊れてしまう仲ならそれまでだと思っているので、狙った相手に恋人がいようといまいと関係ない。
(本当に大事なら、よそ見なんてしない。よそ見するならそれぐらいの気持ちだということよ)
フェスタは自分にキスした。ということはつまり、フェスタのエリールへの気持ちはそんなものなの。ならば、自分がいただくまでだ。ラビィには迷いはなかった。
(……それにしても、あの白い粉のことをどう話そうかな)
劇場の倉庫で見つかったあの怪しげな粉のことを話したらきっと、フェスタは関心を示すだろう。だが、劇場の運営に支障をきたすなら慎重にならざるを得ない。
それもあって、今日のデートではほかの些細な悩みを彼に話して様子を探った。
自分の後をつけてくる男がいるとか、気持ち悪い手紙を送る男がいるとか話した。彼は“上演後の交流は控えた方がいいんじゃないか”と答えていた。
(そんな普通の心配ではなくて、もっとこう踏み込んで心配してくれるならば、話せるんだけどな……)
フェスタを自分の思うようにうまく動かしたい。憂いは取り除きたいが、営業も止めずに解決したい。そのためには、フェスタが自分にもっと心を許さねばダメだと思っていた。
(でも、それまであの白い粉を放っておいていいのかしら?)
援助の話があってから劇場に出入りする人が増えた。だが、観劇している人が熱狂する雰囲気はなくて違う気配を放っている。
(あの、ストライプ男・ヒャルトが関係しているのだとしたら……)
不安な気持ちがあった。
――劇場に着くと、楽屋で稽古ができる服装に着替えた。
皆はまだ仕事が終わっていないから楽屋は静かだ。充分な給料を支払うことができれば皆、役者に集中できるが経営状態を考えるとそうもいかない。
鏡の前に座って夜の公演に向けてメイクを始めた。
メイクブラシをとって、鏡を見ると──自分の背後にストライプ柄が映り込んでいるのに気付いた。びくりとする。
「やあ、ラビィ嬢。あなたに挨拶に来ました」
「び、びっくりしましたわ」
「それは失礼。ノックしたのですが、メイク中のあなたは気づかなかったようだ」
「え?」
(ノックした音なんて聞こえたかしら……?)
「そうでしたの……気づかずすみません」
「いえ。どうぞメイクを続けて。鏡越しに話せますからね」
「……では、失礼して。時間が惜しいですから」
背筋がじわりと冷えた。気味が悪い。ラビィは手元の動きを止めずにメイクを続けた。
鏡の中のヒャルトは、笑みを浮かべながらラビィの動きをじっと見ていた。
「本日の演目は“モリオーネ”ですよね?ヒロインが煽情的なのが魅力だ」
「ええ……観劇されていかれますか?」
「もちろんですよ。援助を申し出たのも、あなたのファンだったからですしね」
「私のファン?お見かけしたことはなかったような……」
「表立って花など届けに行きませんでしたからね。ああ、今日はロビーに花を飾らせてもらいましたよ」
「……あの豪華なお花はヒャルト様からでしたのね。ありがとうございます」
「いいえ、お礼におよびません。持ちつ持たれつですからね」
ヒャルトはラビィの両肩に手を乗せた。肩が出た衣装だから肌に直に触れられて、ぞくりとした。
「あの……」
「寒そうだと思って」
「稽古をすれば身体も温まりますから」
「遠慮なさらず。本番前はリラックスが大事ですよ」
徐々に近づいてくるヒャルトにどうしようかと考えていると、楽屋の外が騒がしくなってきた。仕事を終えた劇団員たちがやって来たのだ。
「ああ、皆さん来たようですね。では、私は邪魔になるのでこれで」
ラビィはどうにか微笑んで見送った。彼に援助されている立場としては仕方なかった。
「ねえねえ!さっき出ていった人、背が高くて顔もなかなかキレイだったじゃない?ラビィの新しい恋人?」
「違うわよ。あの人、この劇場の援助者よ」
「あんたに気がありそう」
「やめてよ」
「なんで?あんた、いい男とお金持ち好きじゃない」
「いつもいつもそうじゃないわよ!……もう、いいから準備して。遅れるわよ」
目の前の壁にかけられたショールが目に入った。
これは、返しそびれた──いや、意図的に返さなかったフェスタのショールだ。手に取り、自分の肩にかけると、ふんわりと彼の香りがした。
(もう、迷う暇はないのかも……)
明日、フェスタにストライプの男について相談をしてみようと、決意したラビィだった。
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