婚約者に逃げられた男の言い訳〈フェスタ視点〉
(なんでエリールが──!?)
まさか、あんなタイミングでエリールが来るとは思わず心底驚いた。
エリールの後を追おうとしたのに、目の前の女がオレの服にしがみついている。
(ああ、こんなことをしている間にエリールが……!)
「私にはフェスタ様の助けが必要なんです。置いていかないでください!」
「離してくれ!エリールが……!」
従者を探すがまだ戻ってこない。
(昼メシの片付けなんて頼まなきゃよかった!)
午前の授業が終わって、着替えと食事を済ませに部屋に戻っただけなのに、思いもよらないことが起きてしまった。
『相談があるんです』
ラビィという女が突然部屋まで訪ねてくると、何も考えずに部屋に入れてしまった。なぜなら、相談されるのはよくあることだから。
自分は誰にでも気さくに声をかけるし、学園の揉め事をよく解決してやることが多い。だから、男女問わず頼りにされている。もちろん、やましいことなんてしたことはない。
――ラビィの話では、劇団の運営が傾いていて学園の生徒に観に来てもらえるよう、呼びかけてほしい、という内容だった。
彼女は切実そうで泣きながら話すから、つい同情したのは確かだ。
『劇団は、両親が運営している大切なものなんです』
自分も親や仲間を思う気持ちが強かったから、涙を見せられると慰めたくなった。
『あんたの言うことは分かったよ。とりあえず、これから婚約者に会うんだ。着替えたいからちょっとそっちで待っててくれないかな?』
体育の授業で汗をかいた服を着替えたくて、彼女をイスに座らせると寝室へと着替えにいった。
着替えていると、閉じた扉が開く気配がして振り返った。
すると、涙を流したままのラビィが立っていた。
『き、着替えをすると言っただろう?座って待っててくれよ』
そう言ったのに、ラビィは震えながら抱きついてきて……気づいた時にはキスをしていた。
下心なんてなかったのに。ただ、慰めたかっただけで。
でも、そんな姿をエリールに見られた……。
従者がようやく戻ってきた時、このままではいけないと我に返ってラビィを突き放した。彼女がよろめいたが、それどころじゃない。
部屋を飛び出して、あちこち学園の中を探した。エリールの行きそうな場所を探すが彼女は見当たらなかった。
寮に戻っているのかもしれないと思って女子寮を訪ねると、エリールは部屋にいた。
扉を叩き続けると、出てきた侍女に言われた。
『お嬢様はあなたの顔を見たいと思ってはいません!』
『誤解なんだ!オレはエリールだけだ!』
『ならば、なぜあのようなことをなさったので?』
『それは……』
侍女の厳しい視線にたじろいだ。
『……うまく言えないけれど、あれは事故だ。浮気なんかじゃない』
『なにをなさったのか実感がないようですね。とにかく、今はお帰り下さい。お嬢様も今は会いたくないとおっしゃってます。お互いに冷静になってから話し合う方がよろしいでしょう』
侍女の言葉は冷静だった。
(確かに勢いで来ちまった。無理矢理、話すよりも少し時間を置いた方がいいかもしれねえ)
すぐに突っ走るタイプの自分は失敗も多い。きちんと自分も冷静になって、事情を説明しようと思った。
だがまさか、エリールが寮を出ていくなんて……そんなことは考えもしなかった。
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