平和的復讐と嫉妬する元婚約者

ナリオーネの態度が劇的に変わった。街散策から横抱きで彼女を連れ帰った日からだ。


帰りの馬車の中での会話を思い出す。


『いきなりのことで驚かれたでしょう。お加減が悪いですか?』

『お前……いえ、ティニーが私を守ってくれたから大丈夫よ。それにしても、私、横抱きされたのはティニーが初めて』

『そうなのですか。ナリオーネ様は羽のように軽い方ですがね』


貧弱なヘンリーニに遠回しの嫌味を言った。


そのままナリオーネの手を取ってニッコリと微笑むと、彼女は顔を赤らめそっぽを向く。


「そんなに見つめないでちょうだい……照れるわ」


(これは、脈アリと見ていいだろう)


とうとう、ティニー復讐計画が動き出したのだと思った。


このままナリオーネを魅了できれば、彼女に惚れているヘンリーニは悔しがるに違いない。そんな姿を見るのは痛快すぎる!


(ふっふっふ。そのために私は献身的にナリオーネに尽くしてきたのだ……!)


憎まれ口をきく女ではあったが、こういう女ほど心を許すとなにかと尽くしてくれることをティニーは知っている。


領地時代に、性悪だと言われていた令嬢もそうだった。彼女が自分のファンになった途端、プレゼントを山のように贈ってきたり、どこに行くにも追いかけてきたりしたのだ。


ナリオーネが自分に惹かれ始めていると感じてからは、より男性らしく見えるように、ティニーは胸をサラシで巻くようにした。


男性よりも気が利くし、乙女が憧れるような振る舞いをするティニーは、今や大人気だ。ファンクラブもこの前、結成されていた。


(順調!順調!)


ティニーはごきげんだった。


――ナリオーネは王宮に来る度に、お気に入りとなったティニーを探した。


「ティニー!ティニー!」


今ではヘンリーニに会う前にティニーの顔を覗きに来るぐらいだ。こうなると、ヘンリーニが気にするようになった。


「……ナリオーネ、なぜ近頃どこにでもティニーを連れて歩いているんだ?」

「彼女は私を下劣な輩から守ってくれたのですわよ?それはもう、強くって凛々しくて……!」

「ナリオーネが気に入ったなら良いが」


ヘンリーニはそうは言ったものの、自分の婚約者だった人物が最愛のナリオーネの護衛になり、心を持っていかれていると思うと面白くなかった。


「ナリオーネ、女性騎士はティニーのほかにもいる。やつは言葉のとおり、忠実に仕えてくれているようだが、正直、私よりも夢中になりすぎているのではないか?」

「あら、嫉妬なさっているの?私は男性騎士を気に入っているわけではありませんのよ?」

「そうだが……もしかしたら洗脳されているのでは、と心配になっている」

「洗脳だなんて!」


ナリオーネは怒ったが、心配になったヘンリーニは彼女からティニーを引き離した。


もちろん、ナリオーネは悲しんだ。ヘンリーニの予想以上に。


ヘンリーニにナリオーネの護衛から外された日、ティニーはヘンリーニの執務室に呼ばれた。


執務室に入ると、ヘンリーニは難しい顔をしていた。


「お前に紹介したい人物がいる。紹介するにはもったいない人物だが」


不服そうに紹介されたのは、ヘンリーニの護衛騎士の男性だった。

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