ゴツイ女と呼ぶヤツも許さん――とある市場の午後

ナリオーネに呼ばれていた。


「街にお買い物に行くわ。護衛は女性がちょうどいいからティニーが来て」

「かしこまりました」


すぐに返事をする。


連れて行かれたのはランジェリーショップだった。


(確かに、ここは女性騎士が適任だな)


煌びやかなランジェリーが並ぶ店内を物珍しそうに見回した。


「ティニーには縁の無さそうな店ね」

「はい、まったく必要の無い店ですね」


チャラチャラした下着なんて着ては動きの妨げになるじゃないか、という気持ちから即答した。


「ホントになんでお前がヘンリーニ様の婚約者だったのかしらね。色気もない、そして、そうなりたいとも思っていないのだから」

「はい、だからナリオーネ様と殿下がめでたく結ばれて私もホッとしているのです」

「まったく……」


ナリオーネは相変わらずイジワルな言い方をするが、最近は軟化している。


ランジェリーショップを出ると、ナリオーネは街の市場エリアへと足を向けようとした。


「もう少し街を見たいの。最近、珍しいお菓子を売る店があると聞いたから」

「はい、喜んでお付き合いします」


市場へとやって来ると、ナリオーネはワクワクした目を輝かせていた。あれこれ手にとってはこれを買ってと命じる。支払うのはティニーの役目だ。


「あ、あれも惹かれるわ!」


まだ支払い中のティニーを置いて、ナリオーネは駆け出した。


「あ、お待ち下さい!」


ティニーは少し離れた場所にいるほかの護衛に目配せをすると、急いでナリオーネの後を追った。


「ナリオーネ様!」


市場はごった返して、背の低いナリオーネは見つけにくい。


チッ、と舌打ちした。


「おい、いてーな!」


少し先で男の声が聞こえた。


「ちょっと!私に気安く触らないでちょうだい!」


確実にナリオーネの声だった。どうやら人にぶつかって因縁つけられているらしい。


「オレにぶつかって来たのはアンタだろう。あー、骨が折れちまったみたいだなあ。いてーよ。どうしてくれるんだよ!?」


見るからにガラの悪そうな巨漢の男に、ナリオーネは難癖をつけられていた。男のまわりには仲間もいて、ナリオーネは気丈に文句を言いつつも震えていた。


(震えているじゃないか)


ティニーはサッとナリオーネの前に出ると、駆けつけてきた護衛仲間に彼女を託した。


「お前たち、レディに失礼なことを言うな!イチャモンつける暇があるなら、真っ当に働け」

「はあ?オレに偉そうに説教するんじゃねえ!生意気なゴツイ女が!」

「……あ?」


男はティニーが密かに気にしていることを言った。地雷を踏んだのだ。


(この野郎、私が気にしていることを言いやがったな!)


ティニーは早くもキレた。


「お前こそブ男のくせに!」

「なんだと!!」


怒った巨漢の男がパンチを繰り出してきた。


ティニーはパンチを難なく避けて足払いをした。


巨漢男はバランスを崩してすっ転ぶ。すると、仲間の男たちが棒を振り回しながら襲いかかってきた。


「このゴツイ女め、調子に乗るんじゃねえ!」


(この野郎!こいつも私をゴツイと言ったな!?)


ティニーは鞘から剣を出すと、襲いかかってきた男に剣を振り下ろした。


「うわああ!」


男たちの服が裂けて、彼らは体を隠すように立ち尽くした。


「こ、この変態女が!」

「バカ野郎!お前たちのだらしない体など見たいわけないだろう!おい、この変態を連行しろ」


騒ぎに駆けつけてきた街の警備兵に連行させた。


「はん、バカが。牢の中でネズミと仲良くしてろ」


吐き出すように言うと、ナリオーネの方を振り返った。


「すみません。見苦しいものをお見せ致しました。お怪我はありませんか?」


恐怖で腰が抜けていたらしいナリオーネは、護衛に支えられるようにして立っていた。


「だ、大丈夫よ!……お前は、本当に強いのね」

「ありがとうございます。あなたのような素敵なお姫様を守るのが私の仕事ですから」

「まあ……」

「私がお運びします。失礼」


ティニーはナリオーネを横抱きにすると馬車まで運んだ。


絵になるサマに、一部始終を見ていた聴衆からは思わずため息がもれたのだった。

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