好みど真ん中の護衛騎士登場

紹介された男が頭を下げた。


後ろに流していた金髪の束がはらりと落ちてセクシーに見えた。


「彼はレーガだ。知っているな?私が最も信頼している護衛騎士だ。もったいないがお前に紹介してやる」


気にくわない言い方だな、と思ったが、紹介されたレーガという男を見てティニーは思った。


(背が高くガッチリ。大胸筋もしっかりしていて大剣も簡単に振れるのだろうな。ステキじゃないか。好みだ)


目が合うと、彼は口元を少し緩めた。


「本当はお前を領地に返すつもりでいたが、ナリオーネがどうしても嫌だという。かといって、このままナリオーネがお前に夢中になるのは阻止したい。よって、お前の身を固めさせてナリオーネを落ち着かせることにした」

「そのために紹介を?」

「そうだ」


よく分からない状況に、とりあえず口を開いた。


「お気遣いありがとうございます。しかしながら……」

「お前はいつも“はい”と素直に言わないな。私の最高の騎士が気に入らないのか?」

「いえいえ。大胸筋もたくましく、背丈もあって私が理想とする男性そのものです!」


ハッキリと言うと、ヘンリーニが顔をしかめた。比べたつもりはないが、自分と比べられたと思ったのだろう。


ヘンリーニの機嫌が悪い。


(相変わらず気難しい男だな)


「とにかく、レーガは好みだということだな」

「はい、そうです」

「レーガは逸材だ。彼を傷つけたら許さんぞ」


ヘンリーニは腕を組んだまま、眉間にしわを寄せていた。


「……殿下、私の妻になるかもしれない人です。どうか寛大なお心でお願いいたします」


初めてレーガが口を開いたと思ったら、自分を擁護する言葉でティニーは少し驚いた。


(この人、命令で紹介されただけだろうに、こんなことを言ってくれるんだ)


「お前はもっと選べるというのに……。とにかく話してみろ」


ヘンリーニはブツブツ言いながら手を振り退出するように促した。


――部屋を出たティニーとレーガは、ひとまず庭の方へと歩いて行く。


「せっかく殿下に時間を頂いたのだ。あそこでお互いについて話そう」


レーガはティニーを庭のはずれにあるガゼボに誘った。


「はい……」


急に緊張してきたティニーは大人しくついていった。


「ティニー、と呼んでもいいだろうか?私のこともレーガと気軽に呼んで欲しい」

「はい、分かりました」


背筋をピンと伸ばして返事するティニーにレーガが苦笑する。


「気を楽にしてくれ。私も……いや、オレも気軽に本音で話したいんだ」

「はあ……分かりますが、レーガ様は騎士団長。私の上司です」

「真面目なのだな。さすが、辺境伯の娘だ」

「いえいえ、レーガ様こそ軍部でご活躍の家門のご子息ではないですか」


レーガの家は代々、騎士団長を何人も輩出している軍事のエリート家門で侯爵家の嫡男だ。


「君もオレもそうだが、そういった家に生まれた以上はやるべきことをしなくてはならないという考えだろう。だが……」


レーガがティニーの方を見た。


「それだけでは味気ない。オレは自分が良いと思える人と共に人生を歩みたい」


レーガの言葉にティニーはドキリとした。


「良いって、レーガ様は私を気に入ったのですか?」

「ああ」

「どの辺が……」

「気丈な精神と恵まれた体格だ」

「はあ……」


理由を聞いて少しガッカリした。もっとロマンチックなことを言ってもらえるかもと思ったのだ。


(そうだよな。私は女らしくはないもんな。レーガ様は家門のために優れた血統を残したい……そんな気持ちで納得されたということか)


「君の手は戦う人の手だな。剣を扱う者ならその手を見れば分かる。いい手をしている」

「まあ、領地にいた頃は戦いにも参加してましたからね」


少し投げやりな返事をした。


もう自分が恋愛対象として受け入れられたのではなく、完全なる政略的なものだと思ったからだ。


「辺境での話を聞いてもいいだろうか?」

「はい。何から話しましょうか……」


領地での生活や戦いでの兵の動かし方、訓練の方法など2人きりでガゼボで過ごす話としては全く甘くない話ばかりしたのだった。

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