No.11 日米共同作戦

「それでは紹介する。まずは仁野一等兵」


「仁野 恋矢で~すっ。第一大隊所属で超パワー身に着けたのは二か月前くらいかな?ニノって呼んでくださ~い」


元気にピースサインを出してにこやかに自己紹介する仁野。ハンドサインで表しているのはテンションなのか、二か月の意なのかわからなかった。


「続いて、仲む」


「オレはラプラス・イビルヴォーク・カタストローニャだ。所属は第二大隊、階級は上等兵となっている。魔力は半年前に覚醒した。よろしく頼む」


和日月の紹介を遮って腕を組みながら淡々とラプラスは自己紹介をした。

憂希はこういうキャラなら名乗りの口上でもあるのかと構えていたが、勝手に肩透かしをくらった。


「神崎 憂希です。第三大隊、特殊兵装部隊所属で、階級は上等兵です。先日能力者になったばかりです。よろしくお願いします。こちらは輪廻です」


「...りんえっ」


輪廻には自分の名前を真似する癖がついているようだった。


「各々の能力を説明する。まずは神崎上等兵。自然を司る能力だ。風、水、土などあらゆる自然を意のままにできる」


「え!?マジヤバくないそれ!激つよじゃんか~」


和日月の説明や会話に切り込むような反応をする人間は、恐らく仁野くらいのものだろう。


「え、マジなんでもできんの???」


憂希にぐいぐい質問してくる。


「いや、俺もまだよくわかっていないんで...」


「ついこの間って言ってたもんね~。そりゃそうか、ごめんごめんっ」


仁野の悪気がない根の良さを感じさせる振る舞いは、大半の人間に好印象を持たせるだろう。


「続いて、仁野一等兵。人体の出力を超越した物理的力を発揮する。」


「超絶パワーだよ~!スーパーウーマンって感じ!」


全然筋肉が隆起しない腕でポージングしている。


「続いて、仲村上等へ」


「お、オレの魔力は時を操るっ。...時を意のままにできるのだ。ただ、魔力ゆえに消耗が激しい」


和日月の紹介がスムーズに切り替わりすぎて、ラプラスは慌てて割り込むように自己紹介した。

仲村なんだ、と思ったより普通の苗字に憂希は親近感が湧いた。


「...時を操るってかなりすごいのにそれでも危険因子ではないのか」


「補足だ。時を司ると言っても行使対象によって負荷が異なる。一人か複数人か、絞った範囲か街全体か。必然的に対象の規模が拡大するが故に、継続的な能力行使は負荷が大きい。神崎上等兵の能力で置き換えると、常に広範囲で複数の現象を発生、融合し、制御し続けるようなものだ」


イメージによる能力行使が前提となることがほとんどだが、時間操作に対しては想像は難しくない。動画を再生したり停止したり、飛ばしたりするようなものだろう。だが、その簡潔さによって自然と対象が広範囲となり、能力行使による負荷が生まれてしまう。別の意味でコントロールが難しい能力のようだ。


「続いて、輪廻。まだ階級もないが名こそ組織内での俗称でもある。生物を司る能力だ。多種多様な生物的特性や身体構造の具現化が主の能力だ」


「輪廻ちゃんって言うんだ~、よろしくね~」


まるで犬のお座りのような姿勢で憂希の足に隠れている輪廻に、仁野は座り込んでで目線を合わせならが挨拶した。


「...スン...スン」


輪廻は仁野の匂いを嗅ぐような仕草を見せたが、特に反応はなく終わった。強いて言えば威嚇しないのが珍しいくらいだ。


「さて、各人の能力について概要説明もしたところで本題だが」


「え~ちょっと待って、総司令の能力って教えてくれないんですか?」


グレード1であることは言われていたが、確かに誰もその能力の詳細は知らなかった。


「それは開示できない。情報漏洩防止だ。立場もある」


総司令となればその能力は最高軍事機密だろう。軍の核であり、その能力こそが最終防衛ラインとも言えるだろう。

日本軍における最初のグレード1。その能力はまだ日を見ないだろう。


「それでは本題だ。明日1000より移動開始する。目的は米軍との共同戦線に向けた作戦会議がある」


「...米軍」


「先日のロシア軍迎撃作戦とはまた異なる。現在激化している台湾戦線における軍事作戦。そこに君たちを投入する」


「台湾...」


台湾で戦争が起きていることもメディアには出ていなかった。そもそもロシア軍迎撃作戦ですらメディアには出ないだろう。


「グレード1が揃ったんだ。この戦争の全体像を把握したい。説明してほしい。敵国はロシアだけじゃないのか。なんでこんないたるところで戦争が起きている」


「承知した。会議内での混乱を避けるため、説明しよう」


その場の空気に緊張が走る。感じ取った輪廻が憂希を見上げる。


「勢力は大きく分けて五つに分類される。我が軍を除けば四つだ。米軍、ロシア軍、中国軍、欧州軍だ。我が国に最も近い二大勢力と抗争している」


「ロシアと...中国」


「我が軍ならびに米軍はその両国との徹底抗戦を敷いている。理由は二つ。一つは超能力の起源が我が軍であり、それを含めた技術、兵器、人員吸収の阻止。もう一つは両国ともに危険因子を一人ずつ保有している。米軍と共に両国の軍事行為と保有する能力者を中心とした影響力を脅威とみなし、共同作戦を決行する運びとなった」


「え、戦ってる敵軍にマジヤバ能力者がいるってこと?えぐくない?」


「欧州軍にはいないのか?」


「いや、保有している。...というよりその危険因子が他危険因子よりもさらに脅威であると判断している。米軍はその脅威を排除すべく、欧州軍と交戦中だ」


「...今回の手助けは、その欧州軍に向けた仮作りってわけか」


「え!?ただ仲良くしようよってわけじゃないの??」


「神崎上等兵の推察通りだろう。ただ我々にとっても脅威であることに違いはない。ここで共同作戦を組むことは意義がある」


「オレよりも脅威的な魔力保持者が世界に点在しているのか...。混沌としている。戦が勃発しても不思議ではないな」


世界規模の大戦。そう認識していても規模や敵国の数に実感がわかない。


「作戦投入する編成や人員は作戦会議にて判断する。会議参加は輪廻以外の三人だ。今回の大がかりな作戦は敵国能力者が戦場に投入されたという情報が元。覚悟しておくように」


コミュニケーションがメインとなる会議は輪廻にはまだ早いという判断だろう。



自室待機の命令を受けて、憂希たちは指令室を後にする。


「ね、神崎君っていくつ?」


「18歳です」


「えっ年上!?うち17!タメかと思ってタメ口使っちゃった!」


「学校なら気にするのもわかりますが、ここではもう誤差ですよ」


「え!マジ?寛容じゃんっ。てかなんで敬語なん?うちがタメならお互いにタメでしょ」


「あぁ、初対面だとつい。わかった」


「オレのことをラプラスと呼ぶことを許可する」


「え、いいの!ラプちゃん!うちは下の名前あんま好きくないからニノでお願いね!その服はどんなコンセプトなの?」


「こ、コンセプトではない。これは我が師、カイザー様の正装だ」


「え、カイザーってあの『暗転世界の絶対悪』!?」


「な、なに!アンゼツを知っているのか!?」


「当たり前じゃん、今期のアニメで絶対必見のやつでしょ!」


どうやら二人は意気投合したようだった。自室でもテレビはあり、あらゆるサブスクが登録されている。そのあたりに不自由はないだろう。


「神崎君は何が好きなの?」


「いや,,,アニメとかその辺疎くて。比較的古いのしか」


こういう会話が平和な世界で生活していたことを思い出させ、憂希をほぐした。同年代であり、まるで教室にいるような会話に温かささえ感じた。



憂希は自室にて渡された大戦資料に目を通す。


「あの規模での戦闘がまた始まるのか」


ロシア迎撃作戦よりも規模は大きく、戦闘も激化するだろう。敵軍の危険因子が戦場に出てくるかもしれない。


「...」


一瞬の油断や判断ミスによってロシア迎撃作戦でもかなりの被害が出た。自責ではないにしろ、何も感じるなというほうが無理な話だ。誰も死なない戦争などありえない。

今でも脳裏に浮かぶ戦地の情景。


「...これに慣れろって言うのか。,,,あの二人はどうしているんだろう」


同世代で女子の二人はナイーブになっている様子はなかった。憂希は男の自分がへこたれていることに少々嫌気が差した。



次の日、時間通りに軍用ヘリに乗って目的地に向かう。場所は沖縄だった。


「この季節だとさすがの沖縄でもちょっとさむいねぇ~。でもめっちゃ海きれ~っ」


「そうかな?俺は結構ちょうどいいけど」


憂希は最近の怒涛な環境変化で季節感を感じられていないのかと勝手に納得した。



「それでは1500より作戦会議となる。すぐに会議室に集合し、待機せよ」


日本軍側の人員は和日月、憂希、仁野、ラプラス、振動。そして第一大隊と第二大隊の特殊兵装部隊長それぞれが同行した計七名での出席となった。


会議室に向かう道中にて各部隊長たちが久々の対面を果たした。


「ご無沙汰しております。矢場大佐、花菱中佐」


「お久しぶりです。振動少佐」


「なんだ二人ともかしこまりやがって。久々なんだから積もる話もあるだろ。今夜空いてるか?」


「矢場大佐との酒の席には同席いたしません」


「なんでだ、冷てぇな花菱。お前は来るよな、振動っ。大丈夫だおごってやっから」


「花菱中佐は相変わらず矢場大佐に冷たいですね。もちろんです、お供させていただきます」


「振動少佐がもの好きなんですよ。このお方の大声は同じ席にいるだけで恥ずかしいのですから」


「酒を静かに飲むほうが恥ずかしいってもんだろっ。なぁ!?」


そのやり取りや態度から、なじみ深さを感じさせる。

憂希はこの部隊ができてから随分と長いのかもしれないと思った。


「さぁ、そろそろお静かに。米軍との会議ですから」


「あぁ...そうだな」


会議室が近づいた瞬間、各隊長の顔つきが変わる。それほどにピリついた会議になるのだろう。

グレード1の三人全員が緊張して会話すらできないまま、会議室の中へ入った。



「それでは日米共同作戦会議を始めます。まず初めに最新情報の共有から」


日本軍側と米軍側で分かれて座る長いテーブルと高そうな椅子がまさしく会議室というイメージにピッタリ。


「...」


憂希は米軍の会議出席者の中に自分と同い年くらいの若い人物がいることに少し安堵した。どこの国も状況は同じであるという事実がそうさせた。


「我が軍からは二中隊を投入し、作戦行動に入る予定です」


議事録係だろうか。双方に属さない中立的な席に一人、女性がいた。


「我々米軍からは一中隊、戦況に応じては二小隊を追加する方針です」


「...え」


憂希は小声ではありながらも声が出てしまった。

米国側の人間がしゃべったのに日本語で聞こえたからだ。ただ、それが先ほど視界に入った女性の能力だとすぐに察した。


「まじ...あの人日本語もいけるんだすご」


憂希の傍らで米軍側の人間がバイリンガルであることを信じて疑わない仁野が驚きの表情で聞いていた。


「それではその方針をお聞きした上で、本会議の主題です」


グレード1の所属する特殊兵装部隊を投入する方針を定めるに至った一番の要因。


「台湾戦線にて中国の危険因子、『No.999』が戦地に投入されたことを確認したという情報が入りました。その前提で編成と武装をすり合わせさせていただきます」


和日月が放ったその言葉に会議室は一瞬にして静まり返った。

各国の均衡を崩した危険因子。それが出てくる戦場が目の前まで迫ってきていた。

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