第12話 新たな世界

残されたのは、鎌と隕石。

そして……自らの行いで、あいつを失った俺。


どこ行っちまったんだよ、ワル。


「……俺、まだお前に謝れてねえんだぞ」

ぼそりと呟く。

すると、風が俺の肩を抱くように吹き抜けていった。


「……ワル?」

なんか、あいつに肩を組まれたみてえ——。

不思議に思い、自分で撫でてみる。


そのとき俺は肩越しに、遠くの方で羽ばたく人影に気づいた。


っと……鎌は隠しておかねえとな。

とりあえず背負ってみる。


うへぇ、重っ……。

あいつこんなの背負って飛んでたのかよ。


その場で回って、鎌の感触を確かめる。

そこへ、頭上から声が降ってきた。

「おい、ボウズ! こんなとこで何してる!」


見上げれば、いつぞやのガタイのいい風守番がそこにいた。


見られて……ねえよな?


ごくりと喉を鳴らし、俺は声を張り上げる。

「昼寝の場所、探してたんだよ!」


すると風守番は、「それならいい」と言って向こうへ羽ばたいていった。


あっぶねえ。

もう少しで、見つかっちまうとこだったじゃねえか。


さっきの風のおかげ……だな。


俺は頭の後ろに手をやり、宇宙を見上げる。

そこには、いつもと同じように星が燃えていた。


……そうだ。

あいつは消えちまう前、『いざとなったら俺がどうにかしてやる』って言ってやがった。


「……ふっ」

あいつに押し付けられた隕石を握りしめる。

自然と笑みが溢れた。


やってやるよ。

お前のためなら、なんだって。


俺は翼を広げ、飛び立つ。

向かう場所は一つだ。


なあ、見てるんだろ? 俺のこと。

……なんとか言えよ、相棒。


風がびゅっと吹き抜け、俺の背を押す。

まるであいつが返事してるみてえだ。


しばらくすると、あいつと毎日通ったあの場所が見えてきた。

さあて、今日の雲間はどうかなっと。


俺は降り立つと、雲を踏みしめ雲間がないか確認していく。


今日は……ダメっぽいな。


まあいい。気長にやるしかねえからな。

俺はふうっと息を吐く。


とりあえず、今日は帰るか。


——

俺は次の日も、その次の日も、雲間が出るのを待ち続けた。

だが、一向に現れる様子はない。


「ふぅ……また明日だな」

俺はひと息ついて、雲穴へと向かう。

最近の俺の日課だ。


いつも通り風を操り、徒競走を楽しむ。今日はギリギリで海国人が勝利したみてえだ。

赤髪のギザギザ背鰭が、ガッツポーズしてやがる。


「ふわぁあ」

しっかしなあ……お前がいねえ世界は張り合いがねえよ、相棒。


雲に体を預ける。

目を閉じれば、脳裏にあの日が思い浮かんだ。


俺たち、ここで出会ったんだぜ。


風が俺の頬を撫でる。

ふっ……。あいつが覗き込んでるみてえだ。

そうだな、今日は隕石でも探しにいくか。


俺は立ち上がる。

ふと雲穴に視線を落とすと、クソほど小せえ背鰭の海国人が、城から出るところが目に入った。


あんな大きさの奴もいんだな……。


そう思いながら翼を広げる。

鎌を隠して飛ぶのも、だいぶ慣れてきたぜ。


俺はそのあと、あいつと別れた場所で一日中隕石を探し続けた。

この生活も、案外悪くねえ。


これが暇つぶしっつーもんなんだろ? 相棒。


疲れ切った俺は、その場に倒れ込む。

冷たい風が肌を刺し、目が覚めると太陽が朝を知らせていた。


どうやら眠りこけちまったみてえだな。

……さあて、今日も行きますか。


俺はいつもどおり雲を踏みしめ、雲間がねえか確認する。

「……おお?」

今日はなんだか、いつもより柔らけえ部分があんな。


しばらく待ってみると、思ったとおり段々と雲が割れてきた。


ようやく……だな、相棒。


俺は待ちきれず、雲間に顔を突っ込んで下界を覗く。

すると、海からガキが上がってくるところが見えた。


ああ? この辺の雲間は全部陸国に繋がってんじゃねえのか?


ガキは楽しそうに飛んだり跳ねたりしてやがる。

……待て。あいつは一体なんだ?


海国人にあるはずの背鰭がねえ。

もしかして、新人類……? こりゃ大発見だ!


おい! 見ろよ、相棒!


興奮して翼が逆立つ。

風が俺を押しのけるように撫でていった。

手が雲を離れ、世界が反転する。


俺の体はどんどん加速していった。

あまりのスピードに翼を広げることも出来ない。


まずい。このままじゃ。

白い砂浜が迫ってきていた。


俺は、翼を広げることだけに集中する。

その瞬間、空国の方から突風が吹き抜けた。


俺の翼がバサッと広がる。

なんとか減速はできたが……


ドンッ!


俺は砂浜に激突して気を失った。

次に目が覚めた時には——


……もう、わかるよな?

俺の目の前には、さっき上から見ていたはずのガキ。

どうやら"にいに"を探してるみてえだ。


空国の方から吹く強い風が、俺の翼を揺らす。


「ふぅ……」

俺はひと息つくと、ガキに向かって口の端を吊り上げた。


どうせ、こいつの力になってやれって言ってんだろ? ったく、人が良すぎんだよ、相棒。


……まぁ、せっかく下界に降りてきたしな。

気長にやるかあ。


揺れた翼が鎌に擦れる。


ふっ……。

もちろん、これの贈り主を見つけるまで俺はそっちに帰らねえぜ。


そっからしっかり見てろよな、相棒。



『俺はウィーケ -暇つぶしの風物語-』

—完—


ウィーケの暇つぶしに最後までお付き合いいただき、ありがとうございました(´ー`)

彼らの友情は、あなたの目にどう映ったでしょうか……。


感想や応援、いつも励みになっております。

これからも陸海空のこの世界を紡いでいきますので、どうぞ見守っていただけたら幸いです。


また、この物語の番外編をカクヨムコン短編に応募予定です!

応援よろしくお願いします📣

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俺はウィーケ -暇つぶしの空中散歩- 若涼 @Phono

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