異世界転生したんだが、何故か生えてるプラグが強すぎる

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#1 異世界と異物感

(こ……これで12徹……仕事が全く終わらない、ここは地獄か煉獄か…)


 俺は成神黎人なるかみれいと、超ブラック企業で働くしがないサラリーマン(38歳)だ。


(せめてコーヒーだけでも、買いに行こう……でないと、やってられん……)


 仕事に仕事、また仕事なため、俺は少しでも体力を回復しようとコンビニへ向かった。

……が。


「……あ…」


 横断歩道を渡ろうとした俺の眼前には、信号無視のトラックが。


……そこからどうなったかは、言うまでもない。


~~


「……って、あれ、ここは……どこだ……!?」


 ふと気が付くと、見知らぬ空、木々、大地。……何がなんだか、全くわからない。

そして一番の違和感は、首の後ろの異物感。なんというか、ゴツゴツというか、出っ張りが2つ。それと、金属のようなひんやりとした感触。

 ……少し下の方に触れると、今度は金属ではない、細い物体。まさかと思い、先程触れた金属部分に触れると……


「……穴が、ある」


 そう、何故か俺の体に、謎の物体が着いていたのだ。その正体を知ることになるのは、もう少し後の話。


〜〜


「……どこだここ……」


 森の中を宛もなく彷徨う。光も無いため、俺は途中で何度か怪我をした。痛い。めっちゃ痛い。

だが、弱り目に祟り目。不幸とは、連続で訪れるもの。


『ブモォォォッ!!』


「あれは……猪!?」


 いや、猪にしては何かがおかしい。違和感の正体が何かは全く分からないが、とにかくやばい。

だが、人は得体の知れない恐怖を前にすると、体が思うように動かない。

魔法だの救いの手だの、そんな都合のいいものがあるはずない。


「にげ……にげ、にげ……か、体が、うごか……な……ひっ!?」


 小さく後ずさりしてる途中、パキッ!と、小枝を踏んでしまう。


『ブモォッ!!』


 終わった。気づかれた。ここがどこか分からないまま、俺は死ぬんだ。もしかして、ここは地獄なのか?何が現実で、何が非現実なんだ?

わからない、分からない、ワカラナイ。

俺の頭は、パニックになっていた。


『……!!!』


「ひっ……!」


 『何か』が近づいてくる。俺は、殺されないように、息を殺すしかない。だが、さらに不幸は続く。


「……何かが……枝に絡まった……?」


 そう。俺の首から生えている物が、枝に絡まり動けなくなっていた。


「……また不幸が……いや、これは……不幸中の幸いだ」


 雲の中から覗く月明かりにより、俺を追う存在の正体と、首の異物感の正体。その両方がわかった。


「……俺の首に生えてたのは、プラグだったのか……!それで、アレは……二足歩行の猪?確か……オークだったはず……!」


 ……信じたくは無いが、どうやら俺は……トラックに轢かれ、異世界へ来てしまった!


「……いや、プラグでどう戦えばいいんだ!」


『ブモッ!?』


「あ」


 ツッコミを入れてしまい、その大声でオークに気づかれる。ミスばっかだよ、俺の人生……


「……とりあえず、伸びるって事は……おそらく、このプラグは巻き取り式!」


 しかしいくら念じても巻き取られない。そんな事をしてる間にも、刻一刻とオークは迫り来る。


「やべぇ……来る……!」


 ドスン、ドスンと地面を踏み鳴らし、『死』が喉元まで迫る。


「ひっ……!」


 恐怖で目を閉じた瞬間、首の後ろから激痛が伴う。


「い"っ!!!?」


 痛みのあまり目を開いてしまうが、その刹那、眼前に広がる光景。それは、オークの土手っ腹目掛けて飛んでいくプラグだった。


『ブモォッ!!?……グ……ゥ……』


 そして、オークの腹にプラグが突き刺さると同時に、奴からうめき声が上がる。


「痛みが引いていく……まさか、吸ってるのか!生命力を!」


『ブ……モ……』


 一通り生命力を吸い尽くされたのか、オークは音を立てて倒れる。これにて一件落着……と、言いたいが。


「……めっちゃ伸びてる……」


 そう、巻き取り方も知らないのに、先程オークへの攻撃……攻撃?により、プラグのコードが伸びてしまったのだ。流石にこのままにして移動するのは危険だ。絶対絡まる。


「無一文だし、倒れたオークを持っていけばお金にはなるでしょ……」


 と言いたいが、アイテムボックスなんて便利なものも当然あるわけない。ここは恐らく異世界。確信がある訳ではないが、間違いなくゲームの中では無い。仕方なくオークの持っていたバックラーを奪い取った。


「これで1泊できるだろ……にしても、なんか疲れたな……うぉっ!?」


 ふらつきを感じ、体がよろめく。そしてよろめいた拍子に、俺の体が木にぶつかり、カチッ、と言う音が鳴る。


「……カチッ……?」


 すると、音もなくコードが巻き取られていく。どうやら巻き取るスイッチは、俺の背中にあるようだ。


「……面倒な構造になっちまったな、俺」


 バックラーを片手に。勘を頼りに。俺はなんとか森を抜ける。


……なお、抜けた先は街ではなく、川だった……

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