第28話 初めましてと、まさかの侯爵家

「……ごめんしゃい」


『……ごめんなさい』


『……ごめんしゃいじょ』


『リン、この子はなんて?』


「ごめんしゃいじょっていった」


『そう。まったくあなたたちは、こんな時まで喧嘩をして。初めて会う、大切な日だというのに。みんな驚いているし、待っているでしょう!』


「……ごめんしゃい」


『……ごめんなさい』


『……ごめんしゃいじょ』


『はぁ、ヴァリオス、変なところを見せて悪かったな』


「フッ、いや、問題ないさ。子供の喧嘩だからな。まぁ、初めから喧嘩を見るとは思わなかったが」


「そうよ、これくらいの喧嘩、この年頃の子たちにはよくあることだもの。うちでも毎日、誰かが喧嘩しているわ。まぁ、原因は何とも言えないけれどね。フフフッ、まさかそんなことを言う赤ちゃんがいるなんてね」


 喧嘩をしていた私とルーファスとぽこちゃん。ええ、思い切り怒られましたとも。ぽこママに。


 実際には見えないけど、漫画だったらきっと、私とルーファスとぽこちゃんの頭には、たんこぶが描かれているんじゃないかな。

 こう、コンッ! コンッ! コンッ! とね。もちろん私たちが怪我をしないくらい、ちょうど良いくらいの強さで叩かれたんだけどね。


 そのゲンコツの後、周りを見てみれば。そこには10人くらいの人と、魔獣も同じ頭数だけいることに気づき。あ~、やってしまったとすぐに気づいたよ。


 それで今、全員で謝っているところです。本当、初めて会うのに、変なところを見せてすみませんでした。


 綺麗な女性が私たちに近づいてきて、1人ずつ頭を撫でる。


「さぁ、みんな、顔を上げて。ちゃんと謝れたのだから、もう大丈夫よ。でも次からは、時と場所を考えて行動しましょうね」


「あい」


「はい」


『じょ』


『はぁ、どれだけ静かにしていられるか』


「まぁまぁ、さぁ、ちょっと思わぬことがあったが、自己紹介をしてしまおう」


 そう言われて、私はピシッと姿勢を正して立った。よし、自己紹介だけでもしっかりやらないと。ここはやっぱり、家族として迎えてもらうんだから、最初に私がするべきだ。


「はじめまちて、リンでしゅ。よろちくおねがいちましゅ!!」


『ぼく、るーふぁすです!! よろしくおねがいします!!』


『おいりゃ、ぽこだじょ! よろちくじょ!!』


「……この子は何と?」


 私は、ぽこちゃんが言ったことをそのまま伝える。するとぽこちゃんが、数回ジャンプした後、ウンウン頷いたよ。


『これは、私たちの言ったことが合っていた場合の動きだ。リンがいない時に、もしぽこが何か言ってきて、それに答えることになったら、ぽこの反応を見てくれ。違った場合は首を振る』


「なるほど。本当にリンは魔獣の赤ん坊と卵の言葉が?」


『他の赤ん坊たちとも、普通に会話できる。だからくだらないことで喧嘩をするんだ』


「ああ、なるほど。で、さっきの喧嘩か。それとぽこは仮の名か?」


「しょでしゅ。ぽこちゃんのこと、みんなぽこちゃんっていいましゅ」


「そうなのね。では私たちもぽこちゃんで良いかしら?」


 ジャンプしてウンウン頷くぽこちゃん。


「ふふ、初めまして、リン、ルーファス、ぽこちゃん。これからよろしくお願いしますね」


「よし、他は皆知っているから、じゃあ次は俺たちだな。俺は……」


 どうやら初めて会うのは私たち子供組だけらしく、来た人たちは全員ドウェインやとぽこ両親のことを知っていて、すぐに、新しく家族になってくれる人たちの自己紹介になったよ。ただ、その自己紹介で、あることが判明してね……。


 私を家族として迎え入れてくれる人たちは、まさかの人たちだったの。いや、ドウェインの話を聞いていたんだから、よく考えれば分かったかもしれないけど。いやいやそれもで、思わなかったよね?


 私の新しい家族。まさかの侯爵家の人たちだったんだ。


 侯爵家の当主、ヴァリオス・フェルシオン様。その奥様のセレフィア・フェルシオン様。そして長男のセオドリック・フェルシオン様と、次男のアルフレッド・フェルシオン様。


 うん、まさか侯爵家だったなんて。


 あれだよね? この世界での侯爵家って、普通の人たちだったりする? ほら、地球の階級制度とか、ライトノベルや漫画に出てくる侯爵家とは違う感じでさ。あ~、でもドウェインは力を持っているって言っていたし……。


「リンはまだ小さいから、分からないかもしれないけれど、私たちはあなたを、危険な存在や面倒な存在から守ることができるの。だから安心して、私たちの家族になってちょうだいね。私、あなたと家族になれると聞いて、とても楽しみにしていたのよ」


「ありがちょ、ごじゃましゅ」


「それに実際に会ってみたら、こんなに可愛い子だなんて。これは帰ったらすぐに、もっといろいろな物を用意しないと。あれと、あれも必要よね……」


 私の手を握り、何かブツブツ言い始めたセレフィア様。その時の様子が……。目がキラッ! と光り、その後は鋭く何かを射抜くんじゃって感じで。しかも何か圧のようなものも感じて。


 ルーファスとぽこちゃんが、何も言わずに私の後ろに隠れたよ。


「あ~、ゴホンッ。セレフィア、子供たちを見てみろ。君の圧で引いているぞ」


「あ、あら、ごめんなさいね、私ったら。あまりにも楽しみで……。でもそうね、まず帰ったら……」


『……セレフィアは相変わらずだな』


 その後セレフィア様は少しの間、ルーファスとぽこちゃんから警戒されることになったんだ。

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