第29話 ルーファスとぽこちゃんの街デビューはできるのか問題

「さぁ、着いたぞ。今日はあの街に泊まるんだ。この辺ではまぁまぁ大きな街だが……ドウェインたちはどうする?」


『そうだな、近くの森で寝るか。魔獣小屋は狭くてかなわんからな。どうだ?』


『俺たちもその方が良いな』


『そうね。ぽこはどうしましょう』


「小さな魔獣であれば、一緒に泊まれるわよ」


『そうか、なら。ルーファス、父は明日の朝まで近くの森で過ごすが、お前はリンといるか?』


『うん!!』


『まま! おいりゃも、おにいちゃといっちょだじょ!』


「ぽこちゃんも、いっちょがいいって」


『あなたはどうしようかしらね。ルーファスなら、まだ何かあっても言うことを聞いてくれるでしょうけど。初めての人間の街、そして人間の生活となると、興奮し過ぎて問題を起こさないかしら』


『そうか、それもあるか。ルーファスもリンは別として、初めての人間との暮らしだ。何か問題をおこしたら……』


「どうだろうな。今日の宿はその辺、結構寛容なんだが……イグナード」


「はい」


「人間と暮らすのが初めてな魔獣の赤ん坊と子供がいるのだが、泊めても良いかと、確認してきてくれ」


「はっ」


 返事をし、先に街へ降りていくイグナードさん。壁の外に降りると、すぐに3つある列の1つに並んだよ。


「リア、ほら、新しい飴だ」


「おにいちゃ、ありがちょ」


「ご飯前に、お菓子を食べすぎないようにして」


「あい、まま」


 セラフィア様の謎の圧を、ヴァリオス様がなんとか止め、それから他の人の紹介をしてもらった後。私たちはすぐに出発をして、夕方前に、今日泊まる宿がある街の上空へ到着したんだ。そう、この世界へ来て初めて、人が住んでいる街に着いたの。


 ちなみに、ヴァリオス様たちのことをパパ、ママ、お兄ちゃんって呼ぶ事に決まったよ。決まったというか、何というか。セレフィア様に家族になったのだから、絶対にそう呼んでねって、凄い勢いで言われて。だから出発してすぐ、パパたち呼びになったんだ。


 上から街を見た感じは、私が読んでいたライトノベルや漫画とよく似ているかな。ほぼ完璧な円を描くように街が作られており、外敵から街を守るため、高く厚い壁で囲まれているし。

 中は建物が混み合っている場所と、点々としている場所があって、畑や牧場らしき物も見えたよ。


 早く街の中に入りたい!! と街を見た瞬間に思った私。だけどここでちょっとした問題、いや、不安なことが判明したんだ。


 どこの街でも、問題がなければ魔獣は街へ入ることができる。誰かの家族魔獣だったり、相棒だったり、ギルドに登録してあればね。


 この世界には、異世界あるあるの冒険者ギルドと商業ギルドがあって、そのどちらかで魔獣の登録ができるようになっているの。家族や相棒魔獣がいる場合は、必ず登録するという決まりなんだって。


 登録しないといけない理由はいくつかあるんだけど。大きなものとしては、街で悪さをさせないためって感じかな。


 登録をすると、魔獣の名前や種族、そして登録主の情報が記録さて。もしもその登録魔獣が街で暴れたり、人にけがをさせたりした場合は、登録されている情報から持ち主が調べられて、罰金が科せられるんだ。


 でも逆に、登録していれば、その魔獣が誰のものか証明され、迷子や盗難があってもすぐに確認できるの。魔獣登録は、人と魔獣が共に暮らすための、最低限のルールなんだって。


 まぁ、野生の魔獣でも、害がない魔獣ならば、勝手に街に入り込んで暮らしているらしいけどね。


 それでドウェインたちだけど、ドウェインたちは以前、パパの関係魔獣ということで登録してもらっていたから、街へ入ること自体は問題ないんだ。


 ただ、ほら、ドウェインたちは体が大きいでしょう? だから建物には入れないし、大きな魔獣用の小屋もあるけど、かなり窮屈らしいの。だから明日、出発するまでは近くの森で過ごすって。


 一方、まだ小さなルーファスとポコちゃんは、宿に入れる大きさだし、その宿も魔獣OKだから問題なく入れる。


 だけど気になるのは、2人とも街や人の生活が初めてだってこと。私と一緒にいたから、人にはまだ慣れているかもしれないけれど。見るもの経験するものは、新しいことばかりで、興奮しないはずがないから、それをドウェインたちは心配しているんだ。


『暴れないと約束できるか?』


『うん!!』


『大きな声で鳴かないと約束できるの?』


『じょ!!』


『返事は良いのだがな』


『どう考えても返事だけなのよね』


『リンが初めて縄張りに来た時も、かなりの騒ぎだったからな』


『やはり森へ連れて行った方が良いんじゃないか?』


『えー、ぼくしずかにしてるよ!!』


『おいりゃ、いちゅもしじゅかだじょ!!』


 いやいや、いつもナンパしてて煩いじゃないのよ。


『なんて?』


「おいら、いちゅもしじゅかだって」


『いつも煩いじゃないのよ』


 ぽこママにも言われてるじゃない。


「今、どうんな様子か聞きに行ってもらっているから、その報告次第だな。これで小さな魔獣を連れている者も多いから、大丈夫かもしれんぞ。まぁ、後はその場の様子を見てからか」


『だいじょぶ!!』


『もんだいにゃいじょ!!』


 ルーファスは右の翼を挙げ、ぽこちゃんは左の手を挙げて、ふんすっと胸を張る2人。その様子に、まだ決まっていないけど、もし宿に行くことが決まったら、本当に大丈夫かな? って思ったよ。

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